音楽随筆集「TATOOあり」NUMBER GIRL
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我が家では晩ごはんを食べる時には、タブレットをテレビに繋げて、主に息子の好きなYou Tubeチャンネルの動画を観ている。息子のタブレットは少し古くてテレビに繋げないので、娘のタブレットを繋げる。最近では娘が自分で操作して「健ちゃん、何見たい?」と息子に尋ねるのが、ご飯の準備の一つとしてセットとなっている。その様子を見ていると、娘のYou Tube検索履歴が見え、「ホリミヤ」が入っていたので驚いた。
「ココ、ホリミヤ知ってるの?」
「うん、最近ハマってる」
「堀さんと宮村くん」はHEROという作者が2007年からWEBサイトで連載している漫画である。私にとっての「ホリミヤ」は、連載開始当初から読んでいたそのWEB漫画のことを指す。娘のココにとっては、HERO原作、作画萩原ダイスケのコミック版及びアニメのことを指しているらしかった。
「堀さんて人がちょっとママに似てる」
「ドSだからね」
「堀さんのパパの扱われ方がパパに似てる」
「遊びに来ている娘の彼氏のご飯はあるのに、パパの分はなかったりとかの雑な扱われ方がね」
「堀さんの彼氏の名前、なんだっけ」とココ。
「宮村」と私。
「その宮村って人は、実はピアスしてたり、刺青入れてたりするんだよ」
「そう、学校の人には隠してるけどね」
生徒会長の髪は赤で、その彼女の髪はピンクだとか、二人は漫画での初登場時、すごい嫌なキャラだったんだよ、といった話を娘とする。初めて「堀さんと宮村くん」を読んだ2007年頃、娘は当然生まれていない。そもそも妻とも出会っていない。
小学五年生になった自分の娘とホリミヤの話をすることになるなんて、16年前には思いもしなかった。男子高校生でありながら身体に刺青を入れた宮村のことを考えながら、私はNUMBER GIRLの「TATOOあり」という曲を思い出していた。
ボーカルが叫びだしたり、ギターが激しくかき鳴らされたりする曲は娘の好みではないので、NUMBER GIRLは共有できない。もちろん刺青を入れてもらう予定もない。「ホリミヤ」の癖のある各登場人物のように、世の中にはいろいろな人がいる、と娘も分かってきたのかな、と思う。この間は「不登校だった私が~」みたいな動画を自主的に見ていた。
私は早朝に起きてまるで勉強しているような素振りで、妄想を文章として書き起こしたりしている。どこに発表するでもない、誰に見せるでもない代物を。「発表」という枷を外してみれば、どのような創作も思いのままとなる。過去の記憶を文章で改竄してみようとすらしてみる。刺青として身体に刻まれてはいなくても、書いた物は何かしら魂のようなところに刻み込まれていくようだ。妄想と実際の記憶の混淆が生まれ始めて、どっちだったけ、どっちでもいいや、といったことになりつつある。
昨夜の「ホリミヤ」についての娘との会話も妄想ではなかったかと疑う。
「どこの家のパパさんもこういう扱いなんだよ」
「絶対違う」と娘と妻が声を揃えて言っていた。どうやら事実だったらしい。
(了)
入院費用にあてさせていただきます。