入院記録③(脳脊髄液減少症による入院)※全文読めます
その1https://note.com/dorobe56/n/n55dc23172f1f
その2https://note.com/dorobe56/n/ndf0469e73215
裏https://note.com/dorobe56/n/n4f35c1a33b7b
2月13日(火)入院7日目
平日。リハビリと主治医の問診再開。前日痛み止めを飲まなかったこと、安静にしていれば頭痛は起こらないことなどを告げる。先週のMRIの検査結果では「脳脊髄液の漏れは確認できましたが少量」とのことで、順調なら安静治療のみで快復できるのでは、ということ。入院2週間時に動作確認など。
「最低でも2週間入院」の当初の予定をあまり信じておらず、最低1ヶ月、その後繰り返しブラッドパッチ治療を試すも改善されず、といった悲観した未来を想像していたので、安堵とともに少し気が抜ける。その機会に休筆日とし、前日までの入院記録を見直して投稿する以外は文章を書かなかった。
足におもりを巻いて動かすリハビリなど、結構がっつり動かす。
妻面会。タオルはそんなにいらなかったのを伝え忘れていたのでどっさりと来る。「あらごめんなさい」と足の上にどかどか荷物を置かれるショートコント。着替えの他にひげ剃り、時計、爪楊枝、手の運動用にペットボトル、光量調節用にバスタオルと洗濯ばさみ、ブラシなどをゲット。
朝のリハビリ時に男性看護師さんに「泥辺さん腕太くてうらやましいです。僕今ジムに通っているのですが全然太くならなくて」と言われて、彼の正気を疑った話などをする。私の腕は全く太くなく、力こぶは出ない。「落ち込んでいる入院患者の何かを誉めながらリハビリすること」といったマニュアルでもあるのだろうか。その時側に妻がいたら「先生、目と頭大丈夫ですか?」などと言いそうと想像して、リハビリ中笑いをこらえていた。マスクをしていて良かった。
手を伸ばして妻の手に触れる。手以外にも触れようとするが「はいはい、はいはい」とことごとく止められカンフー映画のようになる。
「日曜お泊り」「火曜日帰る」といった言動を繰り返していた、女児とも老女とも聞こえる声の持ち主は、本当に退院したようで、病棟が一気に静かになる。何かに怒る老女の声はまだ響く。新たに「翌日の手術が不安な老女の嘆き」が加わる。
夕方、西日が眩しいのでブラインドの下の隙間を、こちらもバスタオルや洗濯バサミを利用して埋める。快適さは自分で作るものだ。
小便や痛み止め服用回数用の紙のノートは結局全然使わず、マウスパッド代わりとなっている。「手書き」「音楽を聴く」といった行為に、気乗りしない。本能的に避けている節がある。
Kindle Unlimitedで次に読む本を探すのがなかなか大変になってきた。以前読んだことのある作家の本も、それを読んだ際に得られるある程度の満足感を想像できてしまう。未知の、新規の、を求めがちだが、ライトノベルやミステリーや官能小説には食指は動かない。購入済みの電子書籍の再読を思いつき、吉村萬壱「臣女」を読み始める。しばらく吉村萬壱メドレーもいいかなと思う。
9時半就寝。
2月14日(水)入院8日目
4時半頃に一度起きる。しばし起きて7時まで二度寝。入院後一番の睡眠時間となる。
息子の幼稚園生活発表会当日。奇跡が起こりこの日までに退院、とはならなかった。折り返し地点(予定)に入り、今後のことを本格的に考えていかないといけない。いろいろ進めていこうと思う。
会社から状況はどうですかとメール。あと一週間は安静ですよ、その後動作検査ですよ、退院、即仕事復帰! というわけには行かなさそう、仕事忙しい中、人員を減らしてしまってすいません、といった返信をする。
リハビリの負荷が結構重くなってくるが頑張る。
吉村萬壱「臣女」を現状に重ね合わせて読む。巨大化して家の中で身動きが取れなくなる妻が人ごととは思えない。今後の不安を抱えながら妻の排泄物の処理をしていく主人公も人ごととは思えない。読んでいる最中うとうとしていたら震度3の地震が来た。巨大化した妻がベッドを揺らしているのかと思った。
微熱。検温の際に時々37℃2〜3の数値を示す。入院後時々。耳鳴りとともに病気の症状でもある。読書なり執筆なりの最中に眠くなってきたらそのまま休憩、というパターンが増えた。
「臣女」を読み終えたので、久しぶりに本の感想をnoteに書く、2022年「秋の読書感想文」note公式賞受賞者。受賞後特に何も変わらなかったなあ。
2021年だった!
これまでは病室内で夜でも通話している人がいたので、私も八時半ごろ家族と通話しておやすみと言っていたのだが、その方はリハビリ病棟に移られた。明日手術をする高齢者の方が新しく入り、早めに就寝されたので、家族との通話を遠慮する。そのことを妻にLINEで伝えると、不満そうな顔の息子の写真が届いた。パパをいじりたかったのか、今日の生活発表会のことを伝えたかったのか。入院中の父親との数少ない会話の機会を失って落胆しているのか。
この機会は生涯一度しか恵まれないのに、それは一生失われてしまったのだ、などと箴言めいた文章が浮かぶ。
真夜中目が覚めると、吉村萬壱先生本人からの「いいね」「著作を読んだことへの感謝の言葉」「リポスト」が来ていた。こういうマメなところも好きな理由である。
夜中何度も起きる。途切れ途切れの睡眠。睡眠薬は服用しているのに。
2月15日(木)入院9日目
ご飯のメニューで見覚えのある並びが出て「一周しちゃったのかな」などと思う。昨晩声を聞けなかったので、朝家族に電話する。「ち◯こち◯こ」と連呼する息子。「家帰ってきたらカンチョウするよ」とも。
主治医の回診の時に「退院後のことが心配であまり眠れなかった」と言ったら、「先のことを心配しても仕方ないので、今を見つめましょう」といったことを言われる。先日読んだセネカ「人生の短さについて」と同じような言葉だった。ショーペンハウアーやゲーテの言葉も最近取り込んだばかりなので、咄嗟に「セネカのようなことを言いますね」とは言えなかった。
午前リハビリは対話中心。
午後のリハビリに来た人は、いろいろ話を引き出そうとしている感じがする。でも良かれと思って広げようとする子どもの話は、却って会えていない寂しさを倍加させてしまうんだよ。寝ながらの運動あれこれ。
病室移動。同室の3名丸ごと隣の部屋へ。光量調節セッティングに、バスタオルと洗濯ばさみが大活躍する。窓の外への視線もバスタオルで塞ぐ。眩しさ避けでもあり、届かない外界を見るつらさを軽減するためでもあり。
これまで病院食3食で満足していたのが、合間に腹が減るようになる。身体を動かした効果か。
同室の、手術直後の高齢者の方のベッド脇にいろいろな機械が備えられる。その動作音の一つに、スマホのバイブ男が小さく長く続くように聞こえる音がある。自分のスマホの不調ではないかと一瞬不安になるくらいの。外界に繋がっている唯一の機器の不具合を恐れる。
そういえば先日リハビリ棟に移動した患者さんが、パソコンに使用していた延長コードが見当たらない、と何度も看護師さんに探しにこさせていた。ずっと穏やかにパソコンに向かっておられた印象だったが、「はよ持ってきて! って怒ってる」と看護師がこぼしているのが聞こえた。何度も探しにきたが見つからず。おそらく鞄の中に先に入れていたかしたのを発見したのだろう。彼の焦りは笑えない。たかが延長コード、ではなく、それは外界へ繋がるために必要な、大切な線なのだ。それがなければ、自分はどこにもいなくなる感覚だったのではないだろうか。
昨日に引き続き本の感想を記事にしてnoteにアップする。はたらくたぬきち「3年間、失敗し続けたら作家になっていた話: 40代主婦の副業「楽しい失敗」記録 (問わず語り文庫)」。現役ノーターさんでもある。
次に読む本をなかなか決められなくなってきた。「いっそ普段なら選ばないような選択肢を」と思うが、恋愛小説やライトノベルには食指が動かない。古典方向へ進むか、再読に行くか。入院記録を読み返すと同じようなことを書いている。
家族とLINE通話。
「みんな元気にしてる?」
「元気は元気だけど、やっぱり寂しいんじゃない? 同じパターンの1日の繰り返しだし」
切り際に息子が「うんこ!」と差し込んでくる。
小学6年生がKindle出版した本を読む。すごい時代だ。
昨日よりは眠れる。副交感神経(寝ている間に活発になる神経)を活発にするために、寝る直前に服を着替えたからか(副交換のために服交換)。
読書記録
「Birthday cake (ツチヤタカユキ)」
ツチヤタカユキ
「ゲゲゲのゲーテ (双葉新書)」
水木しげる水木プロダクション
「いぬほん 犬のほんねがわかる本 どうぶつのほんねがわかるシリーズ」
道雪葵今泉忠明
「臣女(おみおんな) (徳間文庫)」
吉村萬壱
「3年間、失敗し続けたら作家になっていた話: 40代主婦の副業「楽しい失敗」記録 (問わず語り文庫)」
はたらくたぬきち
「このゴミは収集できません (角川文庫)」
滝沢秀一
「ひそかに人気者になりたい小学生のためのお笑いネタ帳: 小学6年生のぼくが自分で書いた「お笑いのはじめ方」 (SunnyDaysーBooks)」
岩田かいと
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