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本の森003「本日は、お日柄もよく」(原田マハ著)

27歳の冴えないOL、二ノ宮こと葉は、幼馴染の結婚式で、伝説のスピーチライター久遠久美と出会う。この出会いが、こと葉の人生を劇的に変えることになる。

言葉には、世界を変えるチカラがある。そう強く感じさせられる小説だった。事実、僕自身も物語の中に登場する珠玉の言葉、極上のスピーチに何度も涙させられた。

言葉の持つ力を信じ、胸の奥底に眠る熱い想い、ひたむきな想いを言葉に変えて世界に解き放つ仕事。それが、スピーチライターという仕事だ。日本ではあまり馴染みのない職業かもしれないが、アメリカでは経営者のスピーチからプレゼンテーション、大統領の選挙演説まで、幅広い分野で活躍するメジャーな仕事でもある。僕は仕事柄、社長のスピーチ原稿を考えることもあるからかもしれないけれど、この小説を読んで改めて、言葉の大切さを痛感させられた。特にリーダーは、言葉を大切に扱わなくてはならないと思ったわけです。

敬愛する哲学者、P.F.ドラッカーも言葉を大切にしていた。彼は著書の中で、次のように述べている。

経営管理者は言葉を知る必要がある。
言葉とは何であり、何を意味するものであるかを知らなければならない。
そしておそらく何よりも、人に与えられた最も貴重な能力としての
言葉を尊重することを学ばなければならない。
経営管理者は、話し言葉や書き言葉によって人を動機づける能力がなければ成功しえない。
「現代の経営(下)」P・F・ドラッカー

この「経営管理者」という言葉を「リーダー」と置き換えてもいい、と僕は思う。誰かを鼓舞し、チームをひとつにし、行動へと駆り立てるためには、言葉を知る必要があるのだと、ドラッカーは言うわけです。


では、言葉を知り、言葉を有効に使うとはどういうことなのか?
主人公こと葉の「言葉の師匠」である久遠さんの台詞に打たれました。


ほんとうに弱っている人には、誰かがただそばにいて抱きしめるだけで、幾千の言葉の代わりになる。
そして、ほんとうに歩き出そうとしている人には、誰かにかけてもらった言葉が何よりの励みになる。
「本日は、お日柄もよく」原田マハ


僕たちは、本当に弱っている人に、ただそばにいて抱きしめることができているだろうか?
本当に歩き出そうとしている人に、言葉をかけることができているだろうか?
リーダーとして、経営者として、あるいは親として、相手に届く言葉を紡ぐことができているだろうか?
何度も何度も感動に目を潤ませながら、自分自身を振り返り、反省させられる珠玉の1冊でした。


最後に本書の冒頭に登場する「スピーチの極意 十箇条」をご紹介したいと思います。

1.スピーチの目指すところを明確にすること。
2.エピソード、具体例を盛り込んだ原稿を作り、全文暗記すること。
3.力を抜き、心静かに平常心で臨むこと。
4.タイムキーパーを立てること。
5.トップバッターとして登場するのは極力避けること。
6.聴衆が静かになるのを待って始めること。
7.しっかりと前を向き、左右を向いて、会場全体を見渡しながら語りかけること。
8.言葉はゆっくり、声は腹から出すこと。
9.導入部は静かに、徐々に盛り上げ、感動的にしめくくること。
10.最後まで決して泣かないこと。

胸に刻みたい十箇条でした(^^)

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