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天国のクジラのものがたり

どこか遠くで、キミの声がする。
ボクはキミを探す。
ここはどこなんだろう。

ボクの目の前には、階段がある。
やわらかな光の中、雲を突き抜けて、空へと続いている。
ボクのカラダ、なんかへんだな。
さっきまでは、立って歩くことも出来なくて、
だるく重かったボクのカラダ。
いまはなんだか、飛んでいるみたいに軽い。
長い、長い、階段。
不安になって、ボクは振り返る。
いま昇ってきた階段は、ボクのすぐ後ろから消えてしまっている。
いくつかの雲を追い越した先の、青い空に浮かぶ雲の広場で、 階段はおわっている。
ボクは恐る恐る、雲の広場に、片足からそっと踏み出す。 雲の上は、フワフワしていて、それでいてしっかりと歩ける。

不思議な感じ。
雲の広場には、ボクの他にもいろんな動物がいる。
大きい犬、小さい犬、太った猫、やせた猫。
ネズミやインコ、トカゲみたいなのもいる。
耳を澄まして、キミの声を探す。
鼻を鳴らして、キミの匂いを探す。
キミの声は、もう聞こえない。
キミの匂いも、感じない。
ここは、どこ?
みんなも、不安そうにあたりを見回している。

とつぜん、 『ぶぉーーーーーーー!』
ボクの足もとから、おおきく息を吸い込むような音がきこえた。
つづけて、 『ぷしゅ――――』
雲の広場の真ん中から、勢いよく水しぶきが噴き出す。
噴き出した水しぶきは、キラキラしながら、あっけにとられているボクたちの頭の上にまで降り注いでくる。
降り注ぐ水しぶきは、光を通して七いろの虹を作る。
やがて、虹はボクの足もとの雲とともに、
やわらかい風のなかに溶けていく。
ボクは、立っているほかに、なにもすることができない。
足もとの雲がすっかりなくなっていくかわりに、緑の世界がボクのまわりに広がってくる。

ボクの鼻には、やわらかい風に乗って、
春のような草花の匂いがはこばれてくる。
ボクは、あたりを見回す。
おばあさんが目にとまる。
おばあさんは、あたたかくて優しげな眼を、かたわらの一匹の犬に向けている。
ボクを見る、キミの眼に似ているな。
きっと、あの犬はおばあさんと一緒に暮らしていたんだね。
ボクにはわかるよ。
おばあさんの他にも、隣に犬を連れていたり、
猫を抱っこしている人もいる。
でも・・・。
ボクのとなりに、大好きなキミはいない。

ボクは、一人ぼっち。
ボクは、どうなってしまうのかな。
もう二度と、ウチには戻れないのかな。
ボクは、どこにも行きたくなんかない。
キミの顔を見ながら、あったかいヒザの上で眠りたい。
帰りたいよ。

ボクはまた、あたりを見回す。
目の前の草原はとても広く、暖かい。
やわらかい風に乗ってはこばれてくる草花のいい匂いは、
なんだかなつかしい。
くわえて遊ぶにはちょうどいい木の枝も、
飛び乗ったら楽しそうな丸太ん棒も、たくさんある。
でもいまはまだ、遊ぶ気になんか、なれないよ。
ぐらり、地面が動く。

ボクは、なにか大きな影が動くのを感じて、おもわず振り返る。
草原のずっと先の丘の向こうに、うちわみたいなカタチをした大きな影 があらわれて、また丘の下へと消えていく。
足もとの大地は、ゆっくり、すべるように青空の中をうごき出す。
さっきまですぐそこにあった雲は、あっというまに
はるか後ろの方へと流れていく。

ボクのカラダも、なんだか飛んでいるみたいに軽い。
ボクが子どもだった頃、そういえばこんなふうだった。
あのころ、原っぱを走るのが楽しくて仕方がなかったな。

思い切って、走ってみる。
風を切って走るこの感じ。
思い出すなあ、あのときの風。
キミとよく遊んだ、あの丘のある公園。
近ごろはボクのカラダが重くて、
小さかった頃みたいに走れなくなってた。
でもあの丘に吹く風は、思いっきり走り回っていた頃のボクに戻れた感じがしたんだ。 それがとっても気持ちがよくってさ。
キミは、そんなボクのウットリしたような顔をのぞきこんで、 おかしそうに笑ってたっけ。

空にはぽっかりと、白い雲が流れていて。
キミは雲を指さしながら、なんだかクジラみたいだね、って言ったんだ。
それからキミとボクとで、あのクジラ雲に乗って、世界中を見に行く旅に出られたらいいね、なんて話をしたんだ。
ボクはそのとき、キミと一緒にそんな旅ができたら、
なんて素敵なんだろうって思ったんだ。

クジラみたいな雲⋯⋯
ここに吹いている、なつかしい、あのときの風⋯⋯
もしかしたらここって⋯⋯
ボクのココロがざわつく。
草原の端っこまで歩いて、恐る恐る下をのぞきこんでみる。

草原の端っこはガケになっていて、崖の途中にあるビー玉みたいな瞳が、ボクの様子をうかがっている。
ボクは、不思議と怖くない。
ボクはもういちど、こんどは地上をのぞきこんでみる。
すごく離れた空の上にいるのに、キミの姿が小さくてもはっきり見える。
やっぱり、そうだったんだ!
夢中で、ボクはキミの名前を叫ぶ。
見慣れた、あの丘のある公園もみえる。
ちからいっぱい、ボクは叫ぶ。
ボクはここにいるよ!
あのときの、クジラに乗っているんだよ!
キミのこと、見えているよ!
叫んでも、叫んでも、キミはボクに気付いてくれない。

キミのそばに行きたいよ。
でも、ボクは地上から離れた遠い空の上。
ここから飛び降りる勇気は、ボクにはない。
ボクは、もうキミに触れることはできないんだね。
もうキミは、ボクの声は聞こえないんだね。
ボクは⋯⋯。
ボクは、死んじゃったんだね⋯⋯。

クジラの背中で旅をはじめて、どのくらい経ったかな。
ボクは、あたたかいクジラの背中の草原で走り回ったり、
木の枝をくわえて遊んだりしながら、旅を続けている。
ふかふかの草のベッドは、
まるでキミと眠った布団の肌触りみたいに気持ちがいい。
クジラは、ゆったりと空を泳いで、
ボクたちをいろんなところに連れて行ってくれる。
ボクはだんだん、ここが好きになってきている。

ボクのお気に入りの場所は、クジラの背中にあるおおきな池のほとり。 ボクはここで、いろんな友達ができた。 いろんな動物たちと、たくさん話をした。
ここにいるみんなは、 人間と友達になるために生まれた動物だってことがわかった。
おばあさんと一緒にいた犬は、ずっと前からクジラの背中で、 おばあさんと一緒に旅するのを待っていたみたいだ。
みんなの、たくさん愛にあふれた思い出ばなしを聞くと、
ボクまで素敵な気持ちになった。
でもそんな中、名前のない黒い犬は、 とうとう人間とは友達になれなかったと言ってた。 名無しの黒犬は、もし生まれ変われたら、 こんどは素敵な人間と出会って、きっと仲良くなるんだ、とも言ってた。
ボクは生きているとき、とても幸せだったな。
だってボクは誰かと仲良くなるために生まれて、
そして大好きなキミと出会えた。

たくさん、かわいがってもらえた。 留守番で寂しい思いをしたことはあったけど、そのぶんキミは、 ボクの頭やおなかをたくさん撫でてくれた。
それだけでボクは、幸せな気持ちになれたんだ。
キミはボクに、いろんな話も聞かせてくれた。
外の世界での楽しかったこと。
ボクだけに打ち明けてくれた、嫌だったことやツライ思い。
そんな時、きまってボクはキミの鼻をペロッと舐めて、 『気にするなよ。』 なんて言ったんだ。

キミとの会話はボクにとって、とても大切で、すてきな時間だった。 ありがとう、キミ。
でもキミのことが、すこし心配だな。 だってボクは知っているんだ。 キミがそんなに強いニンゲンじゃないってこと。 そのくせ、つよがりなキミのこと。 ホントの気持ちを話す相手がいなくて、困っているんじゃないかな。
キミに教えてあげたいな。
ボクは、ここにいるよって。
クジラの上から、キミを見ているよって。
だから、話す相手に困ったときは、空のボクに話してよ。
ここから耳を澄ませば、キミの声だって、聞こえるんだよ。
まえみたいに触れ合うことも、鼻の頭を舐めることもできないけどさ。 気付いてほしいな。
ボクは、ここにいるよ。

とつぜん、足もとでクジラがおおきく息を吸い込む音が聞こえた。 『ぶぉーーーーー!』
と、クジラは背中の真ん中から、勢いよく潮を吹いた。 天高く上った水しぶきは、ボク達の頭の上にキラキラと降り注ぎ、 やわらかい光と合わさって大きな虹をつくる。 ボクは、虹が青空に消えていく様子をぼんやり眺めている。
あれはなんだろう。
雲の海の遠くの方。

ぽっかり、うずを巻いた真っ黒い穴が見える。
真っ黒な穴は、近づくにつれて大きくなってくる。
クジラは上目づかいでボク達の様子を確かめると、
『ぶぉーーーーっ』
と、またおおきく息を吸い込み、
真っ黒な穴に向かって勢いよく飛び込んでいく。

穴の中は薄暗く、風がひんやり冷たい。
クジラは、いつもより速いスピードで、薄暗い中を進む。
ぽつり、ぽつり、雨が降ってきた。
クジラの背中に乗ってから、はじめての雨。
かすかに、地上の匂いを感じる。
なつかしい匂い。
ボクはキミと暮らしているとき、雨の日がキライだったっけ。 雨の日は、大好きなキミと、大好きなお散歩に行けなかったからね。
そういえば一度、ボクはひとりで大雨の中、ドアの隙間から外に出て、 ずぶぬれになってキミを困らせたことがあったね。

キミはボクの事をすごく叱ったけど、 そのあとボクの身体を拭くキミのタオルの感触がとってもあったかくて 気持ちよかったんだ。

突然、乾いた大きな音と共にカミナリが光る。
怖くて震えている動物もいる。
雨粒も、大きく、強くなってくる。
クジラの息遣いが、嵐の音にかき消されそうになりながらも、どんどん 荒く激しくなってくる。
あたりは、ほとんど真っ暗やみになっている。 ボク達は、みんなで手をつなぎ合い、暗やみの中、輪になって口々にお 互いを確かめ合う。
ボクの足元で、クジラがギリッと歯を食いしばる音が聞こえる。 いっしょうけんめいに、嵐の中を泳ぐクジラ。

暗やみの先に、ぼうっと小さな明かりが見える。
ボクが暮らした街の明かりだ!
さっきまでの嵐が、みるみる晴れてくる。
なつかしい、ボクの街。
よくキミと遊びに行った、丘のある公園も見える。
あのときみたいなやわらかい風が、ボクの頬を撫でていく。
クジラは、大きなしっぽを力いっぱいブーンと振って、
公園の丘へと近づく。

ボクは、クジラの顔の方まで歩いていくと、 ありがとうの気持ちをこめて、クジラの鼻をペロッと舐めたんだ。
クジラは、カラダのわりに小さな眼をちょっと細くして、
くすぐったそうにしている。
きっとキミは、ボクに気付いてくれる。
あのときのクジラが、あのときの風と一緒に、
ボクをキミのそばまで運んでくれた。
ボクはおおきく息を吸い込む。
それからボクは、ちからいっぱい叫ぶ。
ボクは、ここにいるよ!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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キミがボクの腕の中で息をしなくなった日から、もうだいぶ経ったな。
ああ、今日はひどい嵐だ。
こんな日は、どうしたってキミを思い出してしまう。
だってボクの家の中には、キミのおもかげが、
まだいろんなところにあるんだから。
キミのお気に入りだった、リビングのソファー。
キミのゴハン皿を置いていた、キッチンの下の方。
ダメだよ、とボクが言っても潜りこんできた、ベッドの中。

家の外にも。
散歩で通りかかると、決まって庭先に出て、
キミの頭を撫でてくれた近所のおじさん。
すれ違う、顔見知りの犬たち。
ボクとキミの姿を映した、クリーニング屋さんのガラス窓。
キミの指定席だった、クルマのシート。
そして、キミとよく遊んだ、丘のある公園。
見るたび、触れるたびに、キミを思い出してしまうんだ。

ボクはね、キミに聞いてほしいことが、まだたくさんあったんだ。 キミ以外、他の誰にも言えないことさ。
ボクにはね、今でもときどき、耳の奥でキミの声が聞こえるんだ。 空耳だって、わかっている。
もうキミに会えないってことも、わかっている。
だけどボクのココロには、ぽっかり穴が開いたままなんだ。
ボクの暮らしの中には、いつもキミがいた。
一緒に、いろんなところにも行った。
一緒にいろんな景色を見て、たくさん話もしたよね。

ボクが外に出て嫌な気持ちになった日。 家に帰るとキミはいつもの上目遣いの顔をぼくに向けて、 『気にするなよ。』 って、ボクの鼻をペロリと舐めて、励ましてくれたよね。
キミと過ごしているだけでボクは、
なんだか気持ちが軽くなったんだよ。
キミと過ごす時間がボクを強くして、背中を押してくれたから、 ボクは頑張れたんだ。
ありがとう。

ああ、そうそう、こんなこともあったね。
今日みたいな、ひどい嵐の日。
ボクはキミとの散歩をあきらめて、
リビングで居眠りしちゃってさ。
キミはカミナリの音におどろいて、
窓の隙間から外に出て行ってしまって。
ずぶぬれになったキミを散々叱ったあと、
タオルを何枚も使ってキミを拭いたんだ。
キミは叱られたくせに、
嬉しそうにカラダをクネクネさせて喜んでいたよね。
それが、かえってキミらしくってさ、
結局ボクまで一緒に笑ったんだ。

今では、すべてが楽しかった思い出。
ありがとう。
そういえば、キミに面と向かって『ありがとう』なんて
言ったことなかったな。
言っておけばよかったな。
もう一度会えるなら、言えるのにな。
ふと、外に目をやってみる。
いつのまにか、雨は上がっている。
窓越しに見える外の空。
雲の隙間からは、いく筋かのオレンジ色の光が、
カーテンみたいに地面に伸びている。
窓を開けると、やわらかい風がボクの頬を撫でながら、
部屋の中に入ってくる。

この風、なんだか、なつかしい匂いがする。
この風を、もっと感じたい。
夕暮れの街を、ボクは風に誘われて歩き出す。
あのクリーニング屋さんの前を通って。 しぜんと向かっているのは、キミとよく遊んだ、あの丘のある公園。
もう、あたりは紫色に染まってきている。 ボクは公園の丘の上に立ち、眼を閉じて深呼吸してみる。 雨上りの澄んだ空気がボクの中に入ってきて、すこし気分がよくなる。

ボクはまた、キミのことを考える。
キミは、いまどうしているのかな。
また、さらさら、やわらかい風。
空を見上げると、月には明かりがともり、
いくつかの星は、またたいている。
キミは年老いて、あのときはもう走り回ることもできなくて。 でもこの場所で、一緒に風を感じていると、 キミはとても気持ちよさそうに、眼を細めていたね。
ボクは、そんなキミを見るのが大好きだった。
そう、あのときの風も、こんなふうだったな。
空には、おおきなクジラみたいな雲が浮かんでいてさ。

また、やわらかい風が、ボクを優しくなでる。
ボクは顔を上げて、空をながめる。
目線の先には、月明かりに照らされてぽっかり浮かぶ、
ひとかたまりの雲。
クジラみたいな形をしている。
クジラ雲⋯⋯。
やわらかい風⋯⋯。
キミとの思い出にあふれた、この丘の上⋯⋯。
ボクは眼を閉じる。
あのときと、同じだ。
ボクのとなりに、キミを感じる。

キミと一緒に見ていたのと同じ景色が、
ボクの中で鮮やかにひろがっていく。
クジラに乗って、キミが会いに来てくれた。
こんなこと誰かに話したら、笑われちゃうかな。
でもボクには、それが確かだって思うんだ。
ボクの目から、涙があふれてくる。 ボクは丘の上に寝ころんで、眼を閉じたまま、キミに話をする。

キミに聞いてほしかったこと、あのときからの、ボクのこと。 ボクの隣には、やわらかい風に吹かれて、 目を細めながら話を聞いている、キミを感じる。
そのとき、霧のような水滴が、ボクの頬を優しく濡らす。
ボクは思わず眼を開ける。
いつのまにか、ボクの真上には、おおきな雲のカタマリ。

ボクはキミを連れてきてくれたクジラ雲にむかって、
ありがとう、とつぶやいた。
霧のような水滴は、すぐに止んだ。
キミは、そこにいたんだね。
あの日、この丘でボク達が話してたみたいに、
クジラ雲に乗って世界中を旅しているんだね。
キミが息をしなくなったあの日から、
ボクとキミは遠く離れてしまったんだって思ってた。
でも今は、キミとボクはつながってるって思える。
クジラ雲が、ボク達をつないでくれたんだ。

月明かりに照らされて、だんだん遠くに流れていくクジラ雲。 ボクはその様子をずっと眺めながら、願いをかける。
いつかボクが年老いて、命が尽きたときには、
一緒に旅をさせておくれ。
それまで、待っていてくれよ。
だから、ときどきボクの背中を押してくれよな。
あの風を感じたら、ボクは頑張るさ。
空にクジラ雲を見つけたら、きっとキミを呼ぶからさ。
だからキミも、クジラの上からボクを見ていておくれ。

ボクも、ここにいるよ。


あとがき

この物語が生まれたのは、一枚の絵がきっかけでした。 それまで数多くのペットの似顔絵を描いていた長友心平さんは、現世で ご縁のあった人やペットが旅立った後、天国で会っているかもしれないと 想像します。そして、そうした人々やペットたちが、天国で大きなクジラに 乗って楽しく旅をしていたなら、なんて素敵なのだろうと思ったそうです。 この想いを絵筆に乗せ、取り組み始めたのが『天国のクジラ』という作品 でした。 私たちはこの素敵な作品を目にしたとき、『天国のクジラ』の素晴らしい 概念を、もっと多くの方々に届けたいと考えました。
また、先の震災で失われたペットや、社会の歪みによって天寿を全うできず に命を奪われてしまったペット、それらもすべて、このクジラに乗って欲しい。 ペットとして生まれてきた命は、天国ではすべて平等で、楽しくあってほしい。 それと同時に、天界を旅しているこのクジラを、どうにか地上近く、みんなの 見える場所に呼ぶことはできないだろうかと考えました。 このクジラを地上で暮らす私たちが見ることで、現在のペット環境を含めた 社会全体が忘れてしまった何かを思い出すキッカケになりえるのではないか。 私たちの想いは日を追うごとに強く、大きくなっていきました。
そして、この作品の根底に流れる思想や概念をより具現化させるために、 かねてから親交のあった長友さんに、このアート作品に物語を付けることを 提案したのです。 こうした私たちの熱意に、長友さんもご快諾いただき、『天国のクジラ』の 物語化のプロジェクトがスタートしました。 そして、各界の色々な方々にこのお話しをさせていただく中で、絵画や物語 の枠を越え、アート作品や音楽など多種多様な形で、この思想と概念を 具現化させようとする広がりを実感しています。
私たちは、ペットと暮らすかけがえのない時間を享受できる、地球上で 唯一の存在です。 また物語中に出てくる『名無しの黒い犬』を、すこしでも減らすことができ るのも、この社会の仕組みであり、現世に生きる私たちだけです。 この物語が、大切なペットを失い、苦しんでおられる方にとっては救いや 癒しをもたらす存在に、また、現在ペットと暮らしている方もそうでない方に 対しても、ペットと暮らすことの素晴らしさと、これからのより良いペット社会に ついて考えるきっかけの一つとなれますことを、私たちは願ってやみません。
2015年10月





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