短編小説「もちもちでクレイジーなばあちゃんの墓」
うちのばあちゃんが爆発した。
お葬式の最中にも、それを思い出して悲しみたくても悲しめない。
広い荒野の真ん中で、うちのばあちゃんは爆発した。跡形もなくきれいさっぱり。だから、今、目の前にある棺桶の中はおにぎりが入っている。
流石に何もないのは寂しいからおにぎりを入れてくれと、ばあちゃんから言ってきた。ばあちゃんは自分を爆発することを知っていた。
「たまこ、ばあちゃんは爆発するから棺桶の中におにぎり入れておくれ。あ、ツナマヨで・・・。」
たまこというのは私の名前だ。寺 魂子(デラ タマコ)と言う。生まれも育ちも東京。友達からは”デラ・ソウル”と呼ばれている。
何故、おにぎりなのか、何故、ツナマヨなのか、まず何でばあちゃんは爆発したのか?。
親戚一同、集まっていた時に当然、話題に上がった。
が、結局誰もその爆発した理由は知らない。私だって知らない。
おそらく家族に話さなかった秘密があるのだろう。もしかするとばあちゃんはなにかに改造されたのではないのか?。だれに?。秘密結社に?。
とにかく、これは暴かないといけない。私の中に強く湧き上がる使命感が私を外に連れて行った。寺家の使命を背負った気がした。
私はばあちゃんの友達に会いに行ってみることにした。私も何度かあったことがある人で「北千住さん」という。ちなみに南千住に住んでいる。
小さなアパートに北千住さんは住んでいる。私は今、そのアパートの目の前にいた。インターホンを押すと「ビチョ」という音がした。
「はいは~い。」
と、しゃがれた女性の声が聞こえてくると、北千住さんがでてきた。
「あら、デラ・ソウルじゃない。入って入って、肉まん喰ってるから。」
私は言われるがまま、アパートに入った。特にいうこともないような普通の部屋だが、テーブルの上には山盛りの肉まんがあった。
「ばあちゃんがなんで爆発したか知りませんか?。」
「むぉごんむぉごん、おんどぉ。」
北千住さんは、肉まんを頬張りながら喋ってる。
翻訳すると、
「しらんしらん、ほんとぉ。」
と言っていた。
「ばあちゃん、死ぬ前になんか行ってませんでした?。」
北千住さんは肉まんの手を止めた。
「ドラマチックに死にたいって言ってたかなぁ。」
それ以降、何も情報も出ないので、部屋を出た。帰り際に肉まんをビニール袋一杯に持たされた。ばあちゃんが爆発した理由は聞けたので満足したのだが、爆発について知ってそうな人を教えてくれた。
「この近くの団地に”たかおさん”っていう人いるんだけど、その人なら知ってるかもよ。」
「なにものですか?。」
「殺し屋。」
その物騒な職業でありながら、近所の団地に住んでいる”たかおさん”という人に会いに行ってみることにした。
本当に歩いて数メートルの場所にある団地の中に”たかおさん”の家があった。
表札に”高尾山”と書いてある。名前じゃねえんだ。
「すいませ~ん。」
私はインターホンを押すのはいやだったので声で呼んでみた。
「インターホンあるのに。」
当然の答えを言いながら、高尾山がでてきた。
「高尾山さんですか?。」
「ああ、寺さんの。」
私は、ばあちゃんの爆発について聞いてみた。
「ああ、あの人、爆弾が欲しいとか言ってたな。」
「なんで?。」
「しらないよ。」
少しずつだが、ばあちゃんの真相について近づいてきた。
「ちなみになんですけど、殺し屋なんですか?。」
「うん、本業はのこぎり屋なんだけどね。」
ちょっと、この人と話していると混乱してくるので、そそくさと退散した。高尾山の家を後にした時、ニセモノの警察官に絡まれた。
ニセモノの警察官はどうやら爆弾を売っている場所を知っているといった。
「事件の捜査で調べたんですか?。」
「いや、趣味趣味。ニセモノだからね。」
連れて行ってくれたのは、看板に「ギザギザ」と書かれたのこぎり屋だった。当然、中にはいると高尾山がいた。
「え、高尾山さん。」
「ああ、さっきはどうも。」
「ばあちゃんは高尾山さんから爆弾を買ったんですか?。」
「そうだよ。」
「なんでさっき言ってくれなかったんですか。」
「さっきはさっきだよ。」
なんだよそれ。と言いたくなったが、私はばあちゃんがなんで爆発したか聞いた。
「デラ・ソウルが聞きたいって言うんなら言うしかないなあ。レジェンドだし。」
「はあ?。」
ばあちゃんは昔からドラマチックに生きてきたから、死ぬ時もドラマチックに死にたいと高尾山に頼んだという。高尾山も北千住さんも元々はばあちゃんがリーダーを務めていた「ヘッドハンターズ」という野鳥を観察する会のメンバーだったらしい。死人が出るほどの抗争があり、「ヘッドハンターズ」は解散して、ばあちゃんは北千住さんとしか会っていなかったのだが、死を間近にしたときに高尾山に会いに行って、爆弾を買ったらしい。
まあ、結局のところ爆発した理由は「ドラマチックに死にたかった。」という一番最初に聞いたのといっしょで、特に秘密なんてなかった。ばあちゃんがなかなかな変な奴だったってことを知った。
ニセモノの警察官は気づいたらいなくなっていた。私も知りたいことを知れたので、家に帰った。
ばあちゃんの不思議な死に方が、ばあちゃんにとって幸せな死に方だと知って私はホッとした。
盆、墓参りの時期に私はばあちゃんに手を合わせに言った。
私のお父さんはツナマヨの焼きおにぎりを墓に備え手を合わせたとき、私に言った。
「ばあちゃんの墓、触ってみ。ほらほらほら」
私は恐る恐るばあちゃんの墓をつついた。
ぷにっ・・・。
もち肌だった。
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