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短編戯曲 「さよならがなごる。」

登場人物 ・姉 東京から帰ってくる元アイドル。
     ・弟 姉の帰り支度の手伝いをしていた。

 とある東京発の新幹線の車内。窓際にあるに二つの席。通路側に弟が座っている。スマホで暇を潰している。しばらくすると、姉がやってくる。

姉 さっきの子供。
弟 ん?。
姉 さっきの、ホームで盛大にお別れしてた。
弟 小学生?。
姉 うん。
弟 どうしたの?。
姉 スンとしてた。 
弟 え?。

 姉が窓際に座る。

姉 あんなに泣いてたのに、スンとしてた。
弟 泣き疲れたんじゃないの?。
姉 なんかいいね。
弟 何が。
姉 外の景色見て、スンとして、ドラマチック。
弟 姉ちゃん、普通だね。
姉 あ、朝乃山と小錦いたよ。
弟 うそ!?。
姉 うっそ〜。
弟 なんだよ。
姉 私は普通だよ。
弟 ないの?。
姉 何?。
弟 未練とか。
姉 ないよ。
弟 そう。

 姉は外を見ながら。

姉 私、過去は振り返らない女なんだ・・・。
弟 ・・・。
姉 なんか言えよ。
弟 東京、楽しかった?。
姉 何、急に。
弟 いや、聞いてみたくて。
姉 そう。
弟 どうなんですか、元アイドル。
姉 元。
弟 そうでしょ。
姉 元アイドルって言えるくらいやれたのかな。
弟 歌って踊ってたじゃん。
姉 まあ。
弟 舞台もやってたじゃん。
姉 ちょっとだけね。
弟 じゃあ、いいんじゃない。
姉 そう。

 姉は外を眺める。
 弟は立つ。

弟 トイレ。

 姉は外を眺め続ける。
 弟が帰ってくる。

弟 人いた。
姉 そう。
弟 あ、子供。
姉 ん?。
弟 スンとしてた。
姉 でしょ。
弟 さよならって感じ。
姉 さよならの名残。
弟 名残?。

 弟は座る。

姉 名残、なごってたでしょ。
弟 なごってた?。
姉 さよならの名残・・・。
弟 (笑いながら)カッコつけんなよ。
姉 カッコつけてない。
弟 さよならの名残って・・・受け入れたの?姉ちゃんは。
姉 私は。
弟 テレビとか。
姉 テレビは・・・柄じゃない。
弟 柄じゃないって。
姉 柄じゃないんだよ。
弟 そう。
姉 もういいんだよ。

 間

弟 昨日の夜。
姉 何。
弟 部屋の片付け終わって、呑みに行ったじゃん。
姉 うん。
弟 その時、ずっと普通の人に戻るんだー明日から普通の人なんだーって言ってたから。
姉 ・・・うん。
弟 なんか頑張ってるように見えた。普通の人に戻るの。
姉 別に・・・頑張ってない。

 姉はスマホを持つがそれを見ずに、ぼんやりと前を見つめている。

弟 本でも持ってこればよかった。
姉 え。
弟 暇。
姉 うん。
弟 あ、トイレ。

 弟はトイレに立つ。
 姉は外を眺める。
 しばらくすると、弟がハンカチで手を拭きながら帰ってくる。
 弟は姉が外を眺めている姿を見る。やがて、姉は弟の存在に気づく。

姉 何。
弟 ・・・。
姉 何よ。
弟 いた、朝乃山と小錦。
姉 うそ!?
弟 うそだよ!わかれよ!。

 弟は座る。

姉 あと、どのくらい?。
弟 1時間くらい?。
姉 近いね。
弟 まだまだじゃん。
姉 たった1時間。
弟 長いよ。
姉 近いよ。

 姉はまた外を見る。

姉 近いんだよなあ。

 弟はそれを見て

弟 これからだよ。
姉 ・・・うん。

 間

弟 本当にいたらなぁ。
姉 え。
弟 朝乃山と小錦。
姉 それもう飽きた。

 2人は笑う。
 新幹線はトンネルに入る。

 おわり





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