【マンガ】鬼退治の次はカニ退治だな! 巨大ガニが離島を襲う! 『ガニメデ ~殺戮の島~』
『鬼滅の刃』23巻=最終巻、発売されましたね。
暗いニュースの多い中、爆発的な売上、日本映画史に残る興行収入、ムチャなコラボ商品の乱発、急に出てくるムキムキネズミなどで明るい話題を提供してくれた作品が無事完結し、感慨深い方も多いことでしょう。
しかし、これだけのブームと面白さを振りまいてくれた作品が終わってしまうのは、やはり寂しい…………
そんなわけでこの記事では、『鬼滅の刃』に続けとばかりな面白さのマンガを紹介したいと思います。
それはこちら!
『ガニメデ ~殺戮の島~』
人を殺して喰うオニのマンガに続くのは、人を殺して喰うカニのマンガしかない!
オニ退治の次はカニ退治!
選択肢なし!
これ一択!
【あらすじ】
人口1000人強、主に漁業で成り立っていたが、降って湧いたリゾートホテルの建設に揺れる小島「厳天島」
そこで島民三人が殺される事件が発生。遺体ははらわたを喰われ、手足は穴だらけで血を抜かれていた……
小さな島だ。クマや野犬などはおらず、獣害ということはまずない。老人ばかりの島で、殺人事件の可能性もほぼゼロ……
本土からやってきたダンディなヒゲの刑事が現場を仔細に観察していると、といきなり…………
ヒルだああァァァッッッ!!
完全に人を喰うタイプのやつ!!
命からがら現場を逃げ出した刑事が見たものは!!
カニだああああアアアァァァッッッ!!
デカァァァァァいッ説明不要!!
…………本作は、嵐に揉まれる小さな島の人々が、真っ黒なデカいカニ(with巨大ヒル)に蹂躙されながらもそれに立ち向かうクリーチャーパニックホラーアクションである。
このマンガを一言で言うならば、「マジ」に尽きる。
「嵐で孤立した離島」
「冷静で賢く、ちっこいけどバリバリに動けて仕事もできる検視官の女性(実質の主人公)」
「避難所で『ウチの子が!! スミレが家に取り残されとるんじゃ!!』と言いはじめるジジイ」
「『カニ!? ブハハハハハハ! なんじゃあそりゃあ!!』とか言う島民の皆さん」
「横暴でロクデナシなリゾートホテル支配人」
「フィジカルの強い建設員ども」
「本島に連絡を取ろうとすると襲われる」
「『何が巨大ガニだよ!』とか言ってるとちょうどよく現れる巨大ガニ」
「人がボコボコ死ぬ」
「『あれは……ガニメデ様じゃ!』と古い言い伝えを教えてくれる長老」
「ホテル支配人が『あのカニを捕まえて観光の目玉にするぞ!』とか吐かす」
「すごいカーアクション」
「捨て身ムーブ」
…………などなど、クリーチャーパニックホラーアクションの定番、諸要素がガンガンに詰め込まれている。
映画で言うと『ジョーズ』『トレマーズ』『ザ・グリード』『スパイダーパニック』、そういうかんじのアレだ。
しかしこのマンガ、「あぁ、そういうかんじのアレね」「わかるわかる」「知ってる知ってる」なトーンで収まる代物ではない。
メタやパロディやオマージュに満ち溢れた作品がゴロゴロ転がる2020年。このような作品はともすれば類型的(=紋切り型)や「あるあるネタ」に走り、あるいは陥りそうなものだ。
もしそういう典型的、「B級」な道具立てを、こなれた手つきで「ほらどうだい、お前らこういうの好きだろ?」とお出ししてくるようなナメたマンガであったのなら、俺はこの本を放り出し、布団をかぶってグーグー寝ていたことだろう…………
だがこのマンガはそうではなかった。
徹底して「マジ」なのだ。
描いている人が「おれ、こういうの、好き」というのがビンビンに伝わってくるのだ。
「カッ」のコマをもう一度見ていただきたい。これは見開きである。
考えてみてほしい。
2020年のマンガで、雷鳴轟き稲妻が光る嵐の空を背景に、漆黒の巨大ガニが姿を現す…………
そんなあまりにド直球な見開きを、「ナメた」気持ちで、「こういうの好きだろ?」な半笑いな態度で描くことができるだろうか?
いや、できない。断じてできない。
作者は「デカいカニが現れて人を殺す」物語を、マジで信じて愛して描いているのだ。そういうことが隅々から伝わってくる。
典型的なキャラたちも手は抜かれておらず、ピシッとした絵柄で生き生きと、しかしよい意味で「軽く」描かれている。
カニ(withヒル)大暴れシーンでの慈悲なき殺戮の描写も素晴らしい。挟む、ちぎる、突く、投げちぎる、飛ばす、貫く、潰す、ぶつける、吹き飛ばす、そして喰う。まさに多様性、ダイバーシティ大虐殺……ダイ虐殺…………
人の命は大事だけれど、まぁそれはそれとして、創作の中で人が無残にたくさん死ぬのはたのしいのである。
多少のヒネったくすぐりはあるし(ガニメデ様伝説について日和る長老とか)、作者も多少は意識しているらしく、webでの連載広告は「昭和かな?」みたいなデザインになっている。タイトルロゴは80~90年代映画っぽい。
ただしこれらは、ご愛嬌の範囲。いわゆる「B級」「怪獣」「モンスター」「ジャンルもの」的な面白さにこれだけ真摯に向かい合って、しかもモノにしている作品はそうない。
そして物語の目的はいたってシンプルだ。「島を襲うカニを倒す」である。とてもわかりやすい。
そういえば、『鬼滅の刃』も「人を襲うオニを倒す」話だ。その簡素さも大ヒットの一要因だと思われる。
『ガニメデ』はさらにシンプルである。柱も上弦もいないし呼吸とか血鬼術とかもない。普通の人vsカニ(withヒル)の、肉体と頭を使った戦いである。今のところ、他には何もない。潔く何もない。
それゆえ、
「戦略的バトル……すごい伏線……人間ドラマ……なんかそういうの、疲れちゃったな…………」
そういう人にも是非オススメしたい。
閉塞感漂うこのご時世だからこそ求められる、「ただただシンプルに面白い」パワーに満ちた痛快マンガだ。
なおこれは「1巻」ではあるのだが、これ一冊でも「続編を期待させる終わり方をする1本の映画」みたいな幕の引き方をする。
「お次は何だ!?」(©『ザ・グリード』)である。いやまぁ、答えは「カニ」だけど…………
なのでこの「1巻」だけでも、一本の映画を見終えたかのように満足度が高い。
読んでいて
「ウオオーッ」「ウワァーッ」「ギャアァーッ」「ヌワーッ」「検視官の鈴浦さん、もっとメガネかけてくんないかな」「グワーッ!」「バ、バカヤローッ!」「うおーっ!!」「やったー!!」
ただそれだけが心の内に響く。
歴史に足跡を残すような逸品ではないし、何のタメにもならない。
でも読んでいるうちは確実に面白くて、日常の嫌なことを忘れさせてくれる──
これはそのようなマンガである。
要するに、メチャクチャ面白い。
面白いことは、こんなにも力強い。
『ガニメデ ~殺戮の島~』は、そんなことを教えてくれる好著である。寒い冬にあったかい部屋の中で読むにはオススメの一冊だ。
【おわり】
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