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ドント
2020年12月30日 18:55
「それと、いちばん奥の間ァは、開けちゃなンねぇぞ」 障子戸を開けようとした直前、ヨシエさんは云った。「さあばさまが、おらっしゃるでな」 その言葉に、興味を引かれた。 戸にかけていた手を離して、囲炉裏ばたに座るヨシエさんの方に向きなおる。「ヨシエさん、『さあばさま』って、何です?」 尋ねると、小さな老婆は首を横にゆっくりと振った。「わがらねェ。オラにゃ、詳しいごだぁわがらねェぢゃ」
2020年7月24日 12:12
母が死んでから、父はひどく無口になった。 大学の仕事も辞めてしまい、お手伝いさんたちにも暇を出した。毎日書斎に閉じこもって分厚い本をひっくり返している。かと思えば庭に出て土を調べたり、買ってきた薬品や肥料のようなものを混ぜてみたりしている。 わたしが朝に女学校に行く時も、授業とその後のお稽古が終わって帰ってきた時も、父はひとりきりの広い屋敷でそのような謎めいた行動を続けていた。 怖いと思