人類みな兄弟 vol.2
※前回投稿した、人類みな兄弟 vol.1 の続編です。
----オーストリア、ハイリゲンブルートにて----
ここはグロースグロックナーという氷山の麓にある、比較的小さな地区だったと思う。
出発する前から大興奮していた父だが、この地区にはさらなる思い入れがあった様子で、以前にも泊まった、とても素敵なゲストハウスにできればもう一度辿り着きたい!と出発前から口にしていた。
とは言え、5年ほど前に従姉妹や父の友人と来たらしく、難儀だったのは宿の名前を忘れてしまったということ。
確かここやったかな…ここやったかな…
とつぶやきながら、道を進んで行く。
お土産屋さんのような可愛いロッジの前の道を右に大きく曲がったところで、先の方にあらわれた建物を見て父が言った。
「あぁ!!!あったあった!!ここたい!!」
大興奮の父。
それもそうだ。
5年も前に偶然立ち寄って泊まった場所に、かすかな記憶を辿って戻ってくることができたのだから。
大興奮ボルテージを振り切ったまま、ホテルの前に車を止め、とりあえず挨拶しなくては!と父は颯爽と中へ…。
少し遅れて私たちもその後に続いた。
中へ入ると、父が嬉しそうに受付表を書きながら、奥さんに声をかけている。
「アイム!ファイブ、イヤーズ、オールド!ファイブ、イヤーズ、オールド!!!」
父よ。貴方は当時51歳だった。
どっからどう見ても、5ちゃいでは無い。
それを言い残すと、「お父さんは荷物を運ぶから、あとはアンタがよろしく!」と車へ戻って行った。
ものすごいテンションで、5歳だと訴えてくる中年男性に戸惑いを隠せない奥さんだったが、私の拙いドイツ語で誤解の無いようにお伝えしたところ、心なしかホッとしたようだった。
荷物をまとめて部屋に行く準備をしていると、今度はご主人の方が何やら困っている。
そして、私を見つけると手招きをした。
ご主人は受付表を指差して、
「キミのパパのナマエは、コレでいいの?アッテルかい?」
と言うのだ。
一体どういうことだろう?
私はテンションMAXお父さんの書いた受付表を確認した。
【Nobuo Nobuo】
父よ。貴方はしっかりと両親から引き継いだ姓を持っていて、寿限無ではない。
人の興奮は我が名をも忘れさせる。
しかしながら、さすがの父。5歳の寿限無はあっという間にご夫婦とも打ち解け、食事中もニコニコとコミュニケーションをとって、最後には
「また来てねー!」
と笑顔で言ってもらえるのである。
---つづく----
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