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[SDGs×絵本]に思う #2

前回は、私が、SDGsのどんなところに興味を持ったかということやワークショップを企画したけれども、新型コロナ(COVID-19)の影響で、実現しなかったということなどを記しました。今回は、SDGs×絵本の選書を実際にする中で、気づいたことについて、述べたいと思います。

(1)SDGsでの選書は、むずかしい

私は、これまでに300回以上の絵本イベントに関わってきましたし、絵本の選書を頼まれることもありましたので、その要点は、自分なりに考えがあります。それは、一言でいうと「余白を活かす」ということだと思っています。

例えれば、イチゴのケーキが大好きなひとに「イチゴのショートケーキ」を見せるより、「熟れたイチゴ」や、場合によっては「ステキなお皿」を見せた方が、イメージがふくらむということと同じで、完全にハズレではないのだけれど、程よくハズレた、そういう部分に発見や心地よさが生まれてくると思うのです。

Note素材

脳科学は、詳しくありませんが、人間の脳は、提示された物事に対して、自分との関係性や意味を探しに行く習性があるんだろうと思っています。つまり「これはいったいどういう意味なんだろう?」とか「なぜこんなことが起きたのだろう?」と自分に問いかけて、ハッと気付いたことに意味を見出すという作用だと思っています。絵本は、基本、絵と文で成り立っていますが、それぞれに表現の余白があることから、そのようにハッと気付くという作用を引き起こしやすいのだと思います。

一方、SDGsが掲げる17のテーマは、かなり個別具体的です。例えば、テーマ➀は、「貧困をなくす」です。一般書であれば「貧困問題を考える」というようなタイトルのものがあれば、《どストライク》の本ということになろうかと思います。しかしながら、いざ絵本で選書するとなると、そのような《どストライク》のものは、ほとんどないという現実もありますし、一方、余白を活かすという観点からすると、どこまでハズして良いのものか?悩ましく感じられるわけです。

(2)オールマイティゆえに悩ましい

元ロッテの捕手で、現野球解説者の里崎さんは、現役時代1番から9番まですべての打順を経験したらしいですが、絵本もそういうオールマイティなところがあって、ひとつのテーマに納めるのがなかなか難しかったりします。

「ムダをださない」という考えは、SDGsの骨格になる考えでもありますが、それを象徴する「もったいない(Mottainai)」という表現は、今やそのまま英語表現されるくらい、世界に認知されています。

そこで、SDGsの絵本というと、真珠まりこさん作の「もったいないばあさん」(講談社)が、脳裏にすぐに浮かぶ一冊なわけですが、この絵本をいずれかのテーマに分類しようとするとそれがなかなかに悩ましいわけです。

破棄物を減らすという点では「⑫つくる責任つかう責任」が《どストライク》ではあると思いますが、ごはん粒を残さず食べるシーンは「②飢餓をなくす」にも関連しますし、水道の出しっぱなしをとがめるシーンは「⑥安全な水と衛生」につながってきます。子どもの生活を守り、お年寄りも元気に生き甲斐を持つという点で見れば、「④質の高い教育」「⑧働きがいと経済成長」「⑪住み続けられるまちづくり」「⑯平和と公正をすべての人に」などとも関わってくるでしょう。

絵本には、余白があるというオールマイティさに加えて、SDGsのテーマ同士も複層的に絡み合っている構造が相まって、一冊の絵本をひとつのテーマに紐づけするのは、かなり困難な作業であるというのは間違いありません。

そういう困難さは、感じつつもひとつのトライアルとして、えみラボ(えほん未来ラボ)では、[SDGs×絵本]をテーマに選書を行いました。

(3)さらにチャレンジな一歩~保育向け選書

そんな折、神奈川県川崎市にある保育園さんから、えみラボ(えほん未来ラボ)あてに、「新たな試みとして、SDGsを軸にすえた保育を実践したいので、絵本の選書をしてほしい」というご依頼がありました。

これまで絵本の活動はしてきましたが、ほとんどが大人を対象にしてきましたので、保育という領域で事を為すという感覚が私にはほとんどありません。正直、チャレンジングなことになるだろうとは思いました。

昨今のSDGsへの意識の高まりを背景として、絵本の世界でもかなり直接的にSDGsのテーマと関連付けた作品が増えつつあります。生物多様性であったり、ジェンダー問題であったり、飢餓・紛争の問題であったり、読み応えのある作品も多いと私自身も感じています。

しかし、読み応えがあるということは、一方では、対象年齢も高いということで、0~5歳児を対象とする保育から見るとストライクゾーンからかなり外れていると言わざるを得ませんでした。

子どもが、その子らしくのびのびと、そして、保育園というコミュニティの中で、お互いの違いを認め、成長していくことが理想像だとすると、必ずしもSDGsと謳って、絵本を選ばなくても良いだろうという感覚も強くありました。つまり、SDGsの切り口で選書する行為が、手段でなく、目的化してしまうということを懸念したのです。(これでは#1で書いた「SDGsウォッシュ」=見せかけのSDGsですね)

(4)あえて、プロジェクト化

えみラボ(えほん未来ラボ)の大切なキーワードは「社会実験」です。ですから、取り組まないという選択はありませんでした。考えるべきは、いかにやるか?です。まずは、これをプロジェクト化しました。

えみラボには、活動を支えてくださるサポーターズがいて、その中から数名が、この《保育選書プロジェクト》に名乗りを挙げてくださいました。図書や絵本を通して、小さい子どもたちと関わる経験をしている方もいて、ドンハマ★にとっても、心強いサポーター陣でありました。

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今回の保育選書では、対象年齢を0~2歳児と3~5歳の二つに分け、3~5歳については、17のテーマごとで選書するという方向性を打ち出しました。[SDGs×絵本]と謳うときに、この17のフレームワークで考えてみることは、大切な切り口に思えたからです。

プロジェクトメンバーそれぞれが、SDGsへの理解を深めるつつ、絵本のイメージを作り上げたり、実際に候補となる絵本を手元に準備し、内容を吟味しました。結果、計2回、約10時間に及ぶミーティングを経て、SDGs保育選書プロジェクトは、合計29冊の絵本と1冊の解説本を選ぶことができました。大変ではありましたが、その分やりがいのある作業でした。できあがった選書リストは、Webサイトで公開していますので、ぜひご覧ください。

ラインナップを見て、「サイエンスしすぎない、心に届く絵本たちな感じ」という感想がありました。私自身も絵本の楽しさを活かしつつ、それでいてSDGsという深淵なテーマを深掘っていく選書になったのではないかと思っています。他にも入れたい作品はあったのですが、新刊本で入手可能できるという条件もありましたので、かなりの絵本をあきらめざるを得なかったということもお伝えしたいと思います。

(5)結局、ウォッシュではないのか?

これは、常に自問自答しなければならない問いだと思います。これらの絵本が、保育園の本棚にただ置いてある状態で終わったとしたら、SDGsウォッシュ(見せかけのSDGs)というそしりがあっても致し方ないでしょう。

いかに活かすかを考えたときに、絵本のよみきかせにしても「どんな問いを子どもたちに投げるのか?」「どういう動機付けをするのか?」そういう具体的な取り組みを今後、現場の保育士のみなさんと考えて行きたいと思っています。#1でワークショップのことを書きましたが、そういう実践も必要なトライになるでしょう。ぜひ、現場の方々の声や意見をいろいろお聴きしたいと思います。

【おまけ】「SDGs絵本」とは言いたくない

これは言葉の感覚なので、あくまで「自分としては」という注釈付きなのですが、ときどき見かける「SDGs絵本」という表現には、違和感があります。私は、SDGsの切り口にこだわって、絵本の選書はしましたが、SDGsのために絵本があるのではないし、SDGsのための絵本もほとんど存在しないでしょう。ですから、SDGsと絵本を組み合わせるという発想([SDGs×絵本])はありますが、それが組み合わさったからと言って、「SDGs絵本」になるわけではない、と感じています。

SDGsの世界観は、絵本そのもの。だから「SDGs=絵本」なら、ある意味本質を突いているようにも思いますが。

                         (文:ドンハマ★)




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