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辺境人の時間 #3

ボクは、辺境人(マージナルマン)が大好きだ。遠い昔から、自分自身が、辺境人でもあると思っている。仕事や遊び、どこかに属していても、メインストリームにいない気がする。でも、それでよい。いやその方がよい。だって、辺境から見える地平の方が、より遠く未来を指し示すような気がするから。辺境人こそが、イノベーターにもっとも近い人だと思っているから。

【marginal man】互いに異質な二つの社会・文化集団の境界に位置し、その両方の影響を受けながら、いずれにも完全に帰属できない人間のこと。社会的には被差別者、思想においては創造的人間となりうる。境界人。周辺人。(Weblio辞書より)

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前回に引き続き、浪人時代のことについて記したいと思う。

前回は、予備校の名物講師の影響で、第一志望を変えたことや古代ギリシャの哲学者のような気分で、毎日のように、京都の町を歩いていたことなどについて書いた。今回は、そんな中で、およそ浪人らしからぬことを始めたことについて書こうと思う。

そのおよそ浪人らしからぬこととは、「同人誌」を発行するということだった。

今の時代で言えば、SNSやこのnoteに自分の思いを綴るのと似た感覚だと思うが、机にかじりつき、参考書や問題集をこなすことは、自分には不向きにだし、それだけで時間を過ごすことは、到底できないのだった。社会の当たり前に呑み込まれ、自分を失うことへの抵抗感が多分にあったと思う。

受験勉強だけじゃ嫌だ!

同人誌であるからには、自分以外にも寄稿者が必要である。高校時代の友人で、大阪と神戸で、同じく浪人生活を送っているふたりにお願いをした。高校時代、教職員の垣根を越えて、さまざまなテーマで語り合う「シンポジウム」という課外活動(正式な部活ではなく、ゲリラ的・自然発生的な集まり)があって、そこにも一緒に参加するメンバーで、とてもウマがあった。高校時代から、学校の管理体制へ批判的な意見を言ったり、お互いの恋愛観についても赤裸々に話す間柄だったと思う。

どんな風に彼らを誘ったかは定かではないが、きっと「受験勉強ばかりやっていて良いのか?」というような疑問を伝えたと思う。拒絶された記憶もないので、それなりに乗り気でやってくれたと思う。そうして各自が何篇か、エッセイなど(詩とか小説もあったかもしれない)を寄稿しあった。

私が何篇か寄稿したもののひとつは、「祇園祭」についてのエッセイで、巡行する山鉾から観客に投げ込まれるちまきが、有料のスタンド席にだけに投げ込まれる様子を目撃して、伝統文化が商業主義に陥ることを懸念するようなことを書いた。今思うと大げさな気がするが、その頃の自分には《歪んだ社会》の一面を象徴しているように見えたのだろう。

祇園祭での、ちまき投げは、祭りを盛り上げるパフォーマンスとして、昭和50年代までは行われていたようですが、観客が押し寄せる事故などがあって、その後、自粛したとのことです。もしかしたら、私が目撃したのもそのような自粛が行われる少し前のことですから、事故を回避するという理由から、そのようなちまき投げが行われていたという側面もあるのかもしれません。

同人誌には、みんなの思いを寄せ集めるという気持ちで、確か「寄せ木」というタイトルをつけた。表紙には、青年が大木の根っこあたりに寝そべって、空を見ているようなイラストを自分が描いたような気がする。きっとみんなの思いと希望をその一枚に表現したかったのだ。

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今であれば、同人誌を作るのに、デジタル的な手法がいろいろあり得るだろうが、まだワープロさえも普及していない時代だったから、制作方法は、それぞれの寄稿文を清書したり、台紙に貼り合わせて、それらをコピーして、ホッチキスで止めるという古典的な方法だったと記憶している。コンビニもないわけだから、当時、京都・百万遍の交差点にあったコピーセンターというセルフコピーの専門店で、友人といっしょに製本作業をして、わずか10数ページの冊子ではあったが、100部を完成させたと思う。

少しばかりの金銭をいただいたりして、冊子はすべて、友人知人に配ったので、私の手元には残っていない。高校時代から懇意にしていただいていた教師にも読んでもらって、何か充実した気分になった記憶がある。今、自分が読んだら、その稚拙さに赤面してしまうかもしれないのだけれども。

その後、「寄せ木」は、2号か3号までは発行した記憶があるが、結局、大学に合格したタイミングには、止めてしまっていた。つまり、受験生として、心のバランスを取るために必要なものが、同人誌の発行だったのかもしれないと思う。



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