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あの子に教えられたこと

小学4年生の頃、クラスに転入生がきた。

その子は、透けるような綺麗な色白で、華奢で繊細な雰囲気が漂ってて、控えめなんだけど淡々と芯のある言葉を発するような子で、賢くて優しくて、独特なユーモアを持ってて、どこか大人びたところがある、なんだか不思議な空気が流れてるような女の子だった。

今思えば、その子は、人と人との境界線のようなものをわきまえている所があった。自分も人も傷つかない距離を引くのがうまかったのか、来る物拒まず去るもの追わず、と言った感じがよく合っていて、興味を示すとズカズカ主張しがちな私には、その距離感は寂しさを感じさせるものもあった。でもそれ以上に、彼女は優しかったから、私は彼女のそばにいるのが好きだった。多分、多くのクラスメイトがそう思っていて、みんな彼女のそばにいると「好き」って顔に書いてるような表情してた。


転入してきてどのくらい経ってたか、覚えてないのだけど、そんなあの子は学校に来なくなった。元々休みがちだったし、佇まいから、体力的な線が細い子なんだろうくらいに思ってた。しばらく休むと、また静かに教室の席に座ってて、淡々と授業を受ける、何もなかったように。だから私たちも、彼女がしばらく休んでても何の違和感もなかった。またそのうち、気づいたら登校してて、目が合うと柔らかい笑みを浮かべてくれる、特に待ち望むこともなく、本人のペースを自然に待つような感じでいた。

でも、気づいたら「いる」ではなく、気づいたらずっと「いない」。1ヶ月、数ヶ月経っても来なかった。とうとう、学年が終わるまで会えずに、その後どうなったかは分からない。転校したのか、それともお家にいたのか、、あの頃密かに憧れた彼女の姿はパッタリと見ることはなかった。


当時の私は精神的にも本当に幼くて、全く何も知らなかった。知らなかったけど、何も知らなかったということさえ知らなかった。ただ、本当は会いたくて、本当は心配していただけなのだけど、他のクラスメイトにこう言ったことを何故かはっきり覚えている。

「学校なんで来ないんだろう?来なければ来ないほど、勉強も遅れるし、みんなにも会うの気まずくなるから、私だったらその方が余計に面倒だから、そんなことになる前に来るのに…」

ただ素直に疑問だった。本当に「なんでだろう?」っていう気持ちを抱いたこと、あの頃の感覚を覚えている。そして当時の私は学校が楽しくてたまらなかった。登校が「当たり前」だった。


それから約3年ほど経ってから、私自身が全く学校に行けなくなるのだけど、あの時、風のように優しく過ぎて記憶のどこかに行ってしまった彼女のことを、不登校になってから今に至るまで時々思い出す。

彼女に何があって、どんな事情があったか分からないし、憶測で一ミリも言えることはないのだけど、自分が何も知らなかった、ということを知ってから一つだけ決めたことがある。それは、

「分からない事を分かったように振る舞わないこと。分かった気になるくらいなら分かろうと努力しようということ」

小さい自分の尺度で、到底計り知れないことを、決めつけてはいけない。と思った。何故なら、そういった無関心さや、偏った「当たり前」と呼ばれる類のものによって、人を死にも追いやる事ができる程傷つける可能性があるから。そう、私はたった3年前に放った自分自身の言葉に随分傷つけられていたのだ。

あの子はとても賢くて繊細な感受性を持つ子だったから、もしかしたら、そういった事を口に出さなくても、感じ取っていたかもしれない。それでもいつも優しかったし面白かった。


働くようになって、自分自身がよく「うまく使われてるなぁ」と感じることが増えていった。多分、いつもニコニコしてて明るくて、怒らなくて、あまり悩みもなさそうに見えて、それでいて真面目、表面ではこう見られてる事が多いように思う。人って不思議なもので、よく知らない相手さえ、2人、3人と同じ考えの人が集まれば、知る事をやめて決めつけやすいって事が分かった。

うまく線引きが引けたら良いのだけど、難しくて、分かって欲しい!それでいて嫌われたくない!なんて思ってしまうものだから、空回りの連続だった。そして、何もかもできなくなった時に、また再び気づいた。自分自身が一番自分を決めつけていた、ということ。自分が自分のことを軽く扱っていると、周りも軽く扱い始めるってこと。


軽く扱った自分に怒ってもいい、

軽く扱った周りに怒ってもいい、

私は私だ、怒りもするんだ文句あるかーー!!

という気持ちに気づいたら、だいぶ楽になった。そこには、「そんな人たちに、なんで好かれようとそんな必死になるの」とあっさり言ってのけた夫の一言がかなり効いたのだけど。だから、不登校→高校大学→就職→挫折(無職)と、まぁ同じことを繰り返してると落ち込まないでいっか。こういった感情や自分の側面や孤独や人の愚かさや、そして温かさに気づけたのは、「今」なんだから。


あの子ももしかしたら、そこから離れたことに本当はかなりの勇気が必要だったのかな?私が知ってるのはほんの一部に過ぎないのだけど…どちらにしても、私はもっと素直になろう。貴女のこと好きだよ、もっと知りたかったよって。。自分を守るために私も逃げた、逃げてよかった。あぁ、人が好きだったのかぁ、と知った。少しだけ、自分を好きになれた。

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