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メロンパンにメロン入ってない問題


(※今回の記事における「メロンパン」は、全体的に薄黄色で、上部がビスケット生地になっているものを想定しています。オーソドックスなメロンパン。絵に描くときに一番に描きそうなタイプのあのメロンパンを想像してください。)



メロンパンはメロンの味がしない。

そもそも、メロンパンにはメロンが入っていない。

なんなら、メロンパンにはメロンの香料すら入っていない。


私がこの衝撃の事実に気がついたのは、割と大きくなってからで、確か高校生か大学生の頃だったと記憶している。自分の気付きがそんな時期だったので、大人になっても気付いていない人もいるのだろうなと思って生きてきたのだが、どうやらそれは違うらしい。「メロンパンにメロン入ってないの知ってた?」と聞くと大抵「何を言っているんだ」というような顔をされる。私は至極真面目に、何なら知らない人には教えてあげようという親切心で言っているのに、思い描いた反応が返ってきたことは今まで一度もない。どうやらメロンパン啓蒙活動は始まる前に終わっていたようだ。

そして、この事実に気付いた時のショックの大きさも人によるようだ。こんな記事をわざわざ書くぐらいの熱量から察していただけると思うが、私はメロンパンにメロンが入っていないと初めて知った時、とてつもなく大きなショックを受けた。正直、どのようなシチュエーションでそれを知ったのかうまく思い出せないのは、ショックの大きさゆえに記憶が飛んだからなのではないかと思っている。決して記憶力が残念なことになっているからではない。当時のことは全く思い出せないが、ものすごく驚いたし、メロンパンに裏切られたような気持ちにさえなったのだ。

しかし、多くの人はそうではないらしい。

「メロンパンにメロンって入ってないよね」
「あー言われてみればそうだね」

これで終わり。ショックなどは受けずに、当たり前のことのように受け止める。受け流す。どうしてそんなに平然としていられるのだろうか。私には到底理解できない。

「メロンパン」と言われたら、それは「メロン」の入った「パン」だと誰もが思うだろう。「あんぱん」は「餡」の入った「パン」だし、「カレーパン」は「カレー」の入った「パン」だ。

我々は幼い頃からこのような法則の中で生きているのだ。「肉じゃが」には「肉」と「じゃがいも」が入っているし、「たこ焼き」には「たこ」が入っている。先ほどはメロンパンに引きずられてパンばかり挙げてしまったが、この法則が適用されるのはなにもやなせたかし界隈のみではないのだ。広く一般にこの法則は適用される。

もういっそ「メロンパン」に「メロン」が入っていないのは仕方がないとしよう。私だって流石にその事実を受け入れるだけの準備はできている。私が今更強く反論したところで、どうせこれまでの長い歴史の中でメロンパンにメロンが入ってこなかった事実は変えられないのだ。

こぼれたミルクを嘆いても仕方がないし、入らなかったメロンを恨んでも意味がない。しかし、「メロンパン」に「メロン」が入っていないことを人々が簡単に受け入れすぎているこの事実が、私は信じられないし、最早恐怖にも感じるのだ。


私は幼い頃から何の疑いもなく「メロンパン」を受け入れてきたし、「メロンパン」には「メロン」が入っているということをこの胸に信じて生きてきた。心のリーゼントは嶋大輔ばりに突っ張っている。なんなら10年ほど口にしていないが、チョコチップメロンパンが大好物だった時期もあったくらいだ。

メロンパンはキャラクターのモチーフにもなっているので、物心つく前から我々の多くは「メロンパン」に触れているし、同時に「あんぱん」や「カレーパン」も履修する。それらを同時に学んだら、そりゃあ前述の通り「メロンパン」は「メロン」の入った「パン」だと思うだろう。そのまま素直にまっすぐ成長した結果、私はメロンパンにメロンが入っていると信じて疑わないティーンエイジャーになったのだ。こんな私の純粋な思いを、素直な心を、誰が馬鹿にしていいというのだろう。

しかし、初めてメロンパンの真実に触れたときにショックだったという話を人にすると、「なんで?だってメロンの味しないじゃん」「メロンの形をしたパンってことでしょ?」と大体なんでもないことのように言われる。どうして伝わらない。そういうことではないのだ。

確かにメロンの味はしない。それはまぁ……わかる……。実はこれにもあまり納得はしていないが、「まぁそちらさんが入ってないって言うならそうなんでしょうね。そうですか。」くらいのスタンスでなんとか事実として受け止めることはできる。

じゃあ何をそんなにネチネチネチネチ言っているのだと疑問に思われるだろう。正直私も自分のことながら「この熱量はなんなんだ」と思っている。メロンパンよりも余裕でカロリーが高いじゃないか。

思うに、私はきっとどこかで一縷の望みにかけていたのだ。メロンの味がしないことを薄々感じながらも、「メロンパン」と名乗るくらいなのだから、そりゃあ1パーセントくらいは、ただのパンをメロンパンたらしめる何らかの果汁や香料が入っていたりするものなのだろうと信じていた、否、信じていたかったのだ。極論を言うと、もうメロンの味も香りも感じられなくてもいいから、事実としてのメロンが欲しかった。メロンの味や香りを加えるという、そういうメロンパン側の気概を、少しで良いから感じたかったのだ。
私、何か間違ったこと言ってますか?

そしてそもそも、メロンパンの由来であると言われる「メロンのような形をしている」に関しても私は思うところがある。(「メロン」の由来は諸説あるが、今回はこれを採用している。)

確かに、味よりもよほどメロン要素があるのはわかる。というか味に関してはもうメロンを諦めているので、メロンパンは今「メロンのような形をしている」という一点においてのみ、なんとかギリギリメロンの名を冠した状態である。

表面の生地の格子状の溝がマスクメロンの網目を表しているとは言うが、いや……あの粗さで……?マスクメロンのおつもり……?お言葉かもしれないが、やる気が少々足りなさすぎるのではなかろうか?メロンパン、どうした?反抗期か?合唱コンクールの練習で全然歌わない男子か?もしかして「本気でやるのはダサい」みたいな価値観だったりする?

メロンパンのやる気のなさにピンと来ていない方は、是非お手元の端末等を使って「メロンパン」と「メロン」で画像検索をしてみてほしい。意外と見比べる機会はなかったと思うが、「その出で立ちでよくもまぁメロンなんて名乗ってくれてるな!」と私と同じ気持ちになってもらえると思う。

実写の画像だと本当に両者が似てなさすぎたので「メロンパン イラスト」「メロン イラスト」で改めて画像検索をしたら、両者のオーソドックスなイメージが表示されてとてもわかりやすかったということもお伝えしたい。(もちろんわかりやすく「似てないな~」と思える。)

メロンも入っていないのに、見た目も別にそんなに似ていないのに、やつらは図々しくも「メロンパン」を名乗る。まぁ確かに面の皮は厚めだし、元々そういう性質なのかしら。嘘で塗り固めるって言葉、もしかしてメロンパンの表面が由来だったりします?

そんな嘘のかたまりを、いわば虚言パンを、世間はいとも簡単に受け入れる。

「確かにメロンの味しないよね~」じゃないんだよ、騙されたとは思わないのか?「あ~メロンみたいな形してるもんね~」じゃないんだよ、目を覚ましてくれ。あの程度のレベルのモノマネで、あんな相当酔ってる飲み会くらいでしか許されないような40点のモノマネで「メロンみたいだもんね~」ってどうなっちゃってるんだよ。

あの程度の寄せ方でメロンだと認められてるなんて知ったら、たい焼きの本気はどうなるんだ。鱗まであんなにつけちゃって、鯛に擬態する気しかないだろう。たい焼きにももちろん鯛は入っていないが、「見た目で挽回しよう」という熱量がメロンパンとはまるで違うのだ。毎日毎日鉄板の上で焼かれてるだけでも嫌になっちゃってるのに、そんな、あんまりだ……あんまりだよ……。


以上のように、メロンパン懐疑派の私は非常に複雑な感情を抱いて今日まで生きてきた。あまりに共感してもらえないので、もう一度自分で自分の思考を整理しようと今回は筆を執った次第である。

自分のために書いたと言いながらこんなことを言うのは非常に烏滸がましいが、この戯言が私と同じ思想を持ちながらも心細くしている全国の、いや、全世界のメロンパン懐疑派に届いたらとても喜ばしく思う。また、メロンパン許容派の皆様につきましても、これから我々が「メロンパンにメロンって入ってないんだよ」などと言い始めたときに、「なにをばかなことを言っているんだ」と呆れるのではなく、少しだけでも耳を傾け(たフリをして)、また、たい焼きの本気にも想いを馳せてもらえるととても嬉しい。



おしまい。




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