米ビジネススクールファイナンス専攻卒が考察する、日本で起業家を増やす方法(前編)
先日、とある経営者の方とお話しさせて頂いたときに思った事を書こうと思う。
自分はプロフィールにある通り、大学卒業→銀行→米ビジネススクール→起業というキャリアを歩んできている。お話しさせて頂いた経営者の方が、私の経歴に興味を持って頂いたのか、このようにコメントしてくださった。
「自分も仕事柄、色々な経営者と話すことが多いんだけど、あまり高学歴の経営者っていないんだよね。前、働いていた会社の社長も中卒だったし。だから、ドンファンさんのように高学歴の人が起業して、どのくらいまで成功するのかがとても気になる。」
私自身も、学生時代からアメリカに留学するまで、様々な学歴・経歴とお会いしてきたが、誠に失礼ながら、高学歴できらびやかな経歴をお持ちの経歴の方をあまり拝見したことがない。
いや、実際にはいるだろう。
私が個人的に好きで、最近かなり数字を伸ばしているビジネス系YouTubeチャンネル「Pivot」では、高学歴・高経歴で成功されている経営者が多く特集されている。
「学歴」と「起業の成功率」の相関関係が調べられた論文やデータがないことから、学歴と起業の成功率は関係ないことが通説となっている。
しかし、私が銀行員時代に担当していたクライアントを含む100人以上の経営者や、東大・早慶等高学歴の友人・知り合いと会ってきた経験から、
「低学歴の人の方がリスクをとって起業をし、高学歴な人ほど、一流企業でのキャリア形成を望む傾向がある。」(仮説①)
というのが仮説である。
さらに踏み込むと、
「日本特有の終身雇用制度が、日本の起業家精神(アントレプレナーシップ)を妨げている」(仮説②)
と考察する。
では何故、「低学歴の人の方がリスクをとって起業をし、高学歴の人ほど、一流企業でのキャリア形成を望む傾向がある。」と主張できるのか。
結論、学歴と起業の成功率は変わらないこそ、高学歴をレバレッジして、一流企業に勤めるキャリアを形成する方が、人的資本の価値を高く評価しやすいからである。
これはどういうことかというと、ビジネススクールやMBAで学ぶファイナンスの考え方でDCF(Discount Cach Flow)法というものがある。
M&Aのシチュエーションで、企業を買収する企業が、買収される企業の価値を算出する時などによく使われる。
DCF(Discount Cash Flow)法とは簡単に説明すると、将来得られることができるキャッシュの総額を、それが得られないリスクで割引き、現在の価値を計算する方法である。
公式は省略するので、興味のある方は自分で調べてみてほしい。
外資系金融機関で勤務を経て、現在作家としてご活動されている藤沢数希氏が、著書「なぜ投資のプロはサルに負けるのか?」の作中において、DCF法を用いて人間の価値を計算した例を挙げていたので、理解しやすいように紹介する。
自分は以下の例を見て、一回でDCF法の概念を理解し、留学先の米ビジネススクールで成績Aを取得することができた。
引き続き、このDCF法を用いて、人間の価値を計算すると、起業家を目指すよりも、一流企業(ex.5大商社、外銀・外コン等の大手企業に入ったほうが、人的資本の価値は高く評価できることが考察できる。
特にJTC(Japanese Traditional Campany)に関しては、クビになるリスクがほぼ無いので、Discount Rateをかなり低く見積もることができるからだ。
三菱商事や三井物産等の五大商社などは、30歳で年収1500万、40歳で年収2000万以上稼ぐことが出来る上に、ほぼクビになることはないため、これらの会社の入ることができれば、”勝ち組”と称される。
終身雇用に賛否両論あり、このような日本の雇用制度が変わりつつあろうとしているが、終身雇用制度は人的資本のバリュエーションを最大化するためには、これとない良い制度だと思う。
一方、起業するとなると、将来得られるキャッシュフローが不明瞭かつ、失敗する(倒産)リスクがあるので、Discount Rateを大きく見積もらなければならない。(人的資本の現在価値はほぼない。)まさしく、ベンチャーキャピタルのベンチャー企業を投資する際の企業価値算定と同じ考え方である。
では、どのようにすれば、日本での起業家を増やせるか。
それは、日本の終身雇用を廃止することである。
冒頭で述べた、「日本特有の終身雇用制度が、日本の起業家精神(アントレプレナーシップ)を妨げている」という主張の理由ともつながる。
起業家大国であるアメリカでは、失業率が高いことで有名である。私もアメリカに留学していたが、景気の悪化でリストラをされている人をLinkedinで山ほど見てきた。
つまり、失業率が高い国に住んでいる彼らからしたら、良い会社に入っても、クビになるリスクが高いのであれば、起業して自分で事業しようという感覚なのではないか。
逆に日本も、終身雇用制度を廃止すれば、受験戦争を勝ち抜いて、倍率何100倍の就活戦争を勝ち抜いても、クビになるのであれば、起業する人が増えるのではないか。
誠に失礼ながら経営者に低学歴な方が多いのは、「低学歴の人の方がリスクをとって起業をし、高学歴な人ほど一流企業でのキャリア形成を望む傾向がある。」(仮説①)ともつながるのだが、先ほどのDCF法の概念から考察すると、会社に入社した場合、大学卒等の高学歴と比べると得られるキャッシュフローがどうしても少なくなってしまう。したがって、失敗するリスクを負ってでも、自分で事業したほうが、人的資本を最大化できることを潜在的に判断しているからではないか。
話は戻るが、日本の起業家を増やす方法として、日本特有の終身雇用を廃止するべきと書いたが、現実的でないのは明らかである。
では、現実的に日本での起業家を増やすにはどのようにすれば良いのか。
次回、「米ビジネススクールファイナンス専攻卒が考察する、日本で起業家を増やす方法(後編)」に続く。
*参照
藤沢 数希. なぜ投資のプロはサルに負けるのか? (pp. 133-135). ダイヤモンド社
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