深夜特急【読書でユーラシア大陸横断!】
皆さん"旅"はお好きですか?
私は旅が好きで、日常に飽きた時にふと行きたくなりますが、"旅行記"を読むのも同じくらい好きです。
旅行記は人によって、注目する場所や印象に残るできごとの切り取り方が違い、読んでいて楽しいです。
特に、惹きつけられる文章だと、自分も同じ場所を一緒に旅している気分を味わうことが出来ます。
今回ご紹介する『深夜特急』はバックパッカーの"バイブル"・"伝説の書"と言われるほど人気作品で、海外旅行記と言えばこの作品をまず思い浮かべる方も多いと思います。
スマホはもちろん、携帯やパソコンもない、当時26歳の沢木耕太郎(著者)がユーラシア大陸を横断する壮大な旅行記は全6巻あります。
【本記事はこのような方にオススメ!】
※読み終えるまで:5~10分程度
皆さんもこの本で、一緒にユーラシア大陸を横断してみませんか?
○著者
沢木 耕太郎
・1947(昭和22)年 東京生まれ
・ノンフィクション作家、小説家として数々の賞を受賞
○ジャンル
ノンフィクション、旅行記
○あらすじ
「地球の大きさをこの体で知覚したかったから」
ある朝、目を覚まし、26歳の若者(沢木耕太郎)はこう決心する。
他に理由や目的はない。
香港から始まり、マカオ、マレー半島、シンガポール、インド、ネパール、シルクロード、トルコ、ギリシャ、地中海、南ヨーロッパ、ロンドン。
スマホで調べて一発で解決、Google翻訳なんてことは当然できず、携帯やパソコンも使えない、現代では想像もしがたい旅。
陸路での長旅を通して、若者が得たもの、見つけたもの。
そして、何が変わって、何が変わらなかったのか。
○各巻の紹介
深夜特急1
バックパッカーの"バイブル"・"伝説の書"ついに開幕!
ユーラシア大陸を横断することを思いつき、日本を出発し、最初の目的地である香港に向かった著者。
しかし、「計画通りに動くなら、このような旅をする意味はない」ということで予定を一切立てなかった結果、その日の宿すら決まっていないという、いきなりハードモードのスタート……
『深夜特急』では、このような著者の信念や頑固さのようなものが度々みられ、それにより自ら旅を難しくしている点も否めなくは無いです。
しかし、人生経験も浅い26歳が、たった一人で世界を旅するには、こういった強い意志や、ある種のたくましさのようなものがないと乗り越えられないということも分かります。
【ここが凄い!面白い!】
・ひとまずインドのデリーからイギリスのロンドンへバスで行こうとするが、デリーに到着するまでの間に様々な場所に滞在する。
・若者なのでお金がそれほど無い、しかも、これからユーラシア大陸を横断しようとしているのにも関わらず、マカオでギャンブルに興じる著者。
ある意味、若者らしく、人間らしくもあるが、読んでいて思わず、「あ…」となる(笑)
・他人のギャンブル録を見てると、「なぜここでお金を使ってしまうのか……」と冷静になれるが、当事者にしかわからない状況がきっとそこにはある。
・ホテルにゴキブリは私には絶対無理!
・海外での旅と聞くと、最初に不安に感じるのが"言語の壁"。しかし、著者はそれをモノともせず、とても勇敢。
著者は英語が堪能なわけでもなければ、他の言語が話せるわけでもなく、繰り返しになるが、当時はスマホも携帯も無い。
私達は国外での旅行や生活に対して、言語の壁を持ち出したくなってしまうが、それはもはや言い訳かもしれないと思わされる。
深夜特急2
舞台はマレー半島、シンガポールへ。
【ここが凄い!面白い!】
・香港での生活が刺激的すぎて、どこか物足りなさを感じてしまう著者の葛藤のようなものがリアルな感じ。
・旅出発前に著者がどんな仕事をしていたのか、会社を初日で退職した話など、著者自身に関することも書かれていて興味深い。
・「何かを決断することで状況が固まってしまうのを恐れる」というのは、とてもよく分かるし、現代でも同じ感覚の人は多いのでは?
・"早期退職"、"何者かになる"、"自由を求める"、"別のところに自分のすべき仕事があるのではないか?"など、令和になってよく叫ばれることを、著者は先に経験している。
案外、いつの時代もブームや風潮は多少違えど、根本の思想や欲求は大して変わらないのかもしれないと思った。
・第1章と同じく、旅行記としてもちろん面白いが、どちらかというと著者の自己と向き合う内面が描かれるシーンが多く、個人的に好みの章。
深夜特急3
舞台はインド、ネパールへ。
【ここが凄い!面白い!】
・言語が堪能でない著者が、臆せず現地の商人相手に価格交渉をする姿は勇ましい。
・一昔前の南アジアと聞くと、何となく"貧しい"イメージがある方も多い。実際、物乞い、貧民、カーストなどがこの章では特に登場し、それに対し著者は何を考えるか。
・現地の日本人との交流
・世界を1人旅する際の不安事項として、言語の壁と並ぶのが体調不良。特に、言葉も分からない状態での体調不良はさらに不安を倍増させるが、著者はこの危機をどう乗り越えるのか!?
・死体焼き場
・『深夜特急』は各巻末に著名人との対談が掲載されており、そちらも面白い。
特に、著者が旅全体を振り返った時の、この一言はカッコよすぎる!
(○の部分は、ぜひ実際に本書を読んでみてください)
・こちらは、世界を1人で旅するという経験を実際にした人にしか分からない感覚が生んだ言葉。
深夜特急4
いよいよ中盤戦!
舞台はシルクロードへ。
【ここが凄い!面白い!】
・爆速バスカーチェイス
旅先では想定外のことも起こる。
・映画館爆破容疑
言語も使えない国で犯罪者扱い!?どう乗り越える!?
・海外で長期間の旅をしていると、当然日本語を使う機会は減る。著者も日本語での会話への飢えを感じ始める。
・旅先で様々な親切に触れてきた著者だが、それに対する感謝と葛藤を抱える。
・いくら26歳でタフな著者でも、一人で長旅を続けていれば心身の疲労が出てきて嘆きたくもなる。
・見知らぬ土地で、言語も分からない状態での人探し。あなたならどうする?
・お金に余裕がない1人旅で、それなりに発生していた価格交渉。たとえ、成功しても、全てがスッキリ解決とはならず、思うこともあるわけで……
・旅人にしか分からない将来への不安、それを巧みに言語化
深夜特急5
ついにアジアからヨーロッパに!
舞台はトルコ・ギリシャ・地中海へ。
【ここが凄い!面白い!】
・舞台がアジアからヨーロッパへ移り変わる。土地、人、物、環境…はどのように変化していくのか?
・冒頭で「計画を立て、その通りに動くくらいなら、このような旅をする必要はない」と語っていた著者の、この旅唯一の目的が本章で明らかに。
それが、あるトルコ人女性に会うための使者となること。
・熊と対決!?
・アメリカ人若者と200m競走!?
・"人生は旅"という言葉があるが、これだけの旅を続けてきた著者が、人生と旅を重ねた時に何を思うのか?
・長旅を続けてきたことで、徐々に感動が薄れていく著者。
それは土地や人が変わったから?それとも自分自身が変わったから?
・この旅はどこへ行きつくのか。
どうなれば終わりとみなすことができるのか。
それとも終わりなどあるのか。
いよいよ"旅の閉じ方・終わらせ方"を著者は考えるようになる。
深夜特急6
ついに完結編!
舞台は南ヨーロッパ・ロンドンへ。
【ここが凄い!面白い!】
ふとした衝動で始まった、長旅もついに最終章。
香港から始まり、マカオ、マレー半島、シンガポール、インド、ネパール、シルクロード、トルコ、ギリシャ、地中海と続き、そして、ついに南ヨーロッパ、ロンドンに到着。
・この巻の最大の見どころは、どうやってこの旅を終わらせたのか!その時何を思ったのか?これに尽きます。
○全巻通しての感想
【巧みな文章や言葉たち】
・全巻、文字以外は地図のみで、絵も写真も無いのに、街や建物、人の様子といった情景が思い浮かぶことから、著者の文章表現の巧みさが窺える。
・実際に体験した人にしか書けない言葉の数々は説得力がある。
・きれいごとや良いところだけでなく、悪いところも包み隠さず書かれている。
・旅の様子を伝える旅行記としての側面はもちろん、旅を通して自身について深く考える内省的な側面も個人的には結構好き。
【無計画の凄さ】
・無計画の海外旅行は、もちろん楽しいだけでは成立せず、様々な困難もあるため、実際にそれを成し遂げてしまうのは凄いし、憧れる。
・現地に辿り着いてから「さあどこに行こうか」と、何となくの勘で歩き始めるのがカッコ良すぎる。
・明確な理由や目的なく、"何となくそうしてみたいから"で行動するのは簡単そうで、実際なかなか難しい。
我々は"何のため?"、"どういうメリットがある?"というように、ついつい理由や意味を欲しがるが、素直に感情に従うのも人間の良さだと感じた。
【著者の謙虚さ、こだわり】
・著者は決して分かったフリをしない。
これだけの大きな旅を成し遂げれば語りたいこともたくさんあるだろうに、自分が見てきたのは、その国のほんの一部分であり、本当のことは全然分からないというように、決して知ったかぶりをしないところに、著者の謙虚さを感じる。
・世界の大きさ、広さを"体感"するため、著者は飛行機や電車が利用できる移動区間もあえてバス(陸路)を使う。
それだけ、自分の体を通して世界を感じることに重きを置いており、そのような自分にとって譲れない考え、こだわり、意志を持つことも時には必要。
・著者はこの本を通して「若者よ!ぜひ海外へ旅にでかけ、人生観を変えるのだ!」的なメッセージを伝えている訳ではなくて、「あくまでも実際に行ってみたら自分はこうだった」というように、読者に強いることは決してしない。この辺りにも、著者の人柄のようなものが窺える。
【自分について】
・読書を通して、自分もユーラシア大陸を横断している気分になれた。
・いかに今の自分の生活が甘ったれているか(良く言えば、恵まれているか)を痛感。
・旅行に限らず、広い意味で「もっと冒険してもいいかも」と感じた。
・たまたま最近、「旅行も移動時間が長い所は、それだけで疲れてしまうし嫌だよなあ」とか、「何もしないで滞在宿でただただぼーっとしていたい」と感じていた。
しかし、私は単純なので、このような本を読むと、冒険心がくすぐられ、「ちょっと遠いところ、何なら海外行くか!」と思わされる(笑)
○著者:沢木耕太郎について
こちらが現在の沢木耕太郎さんです。
私は本書を読んでいる時は、随所にみられる著者のこだわりや、強い意志、たくましさから、勝手に強面の感じをイメージしていたのですが、こちらのインタビュー動画を見てびっくり!
こんなに物腰が柔らかく、優しそうな雰囲気な方だったとは!
インタビューの受け答えからも、お人柄が垣間見えます。
自分も歳を重ねて高齢を迎える際には、このようになりたい!
以上です!
いかがでしたでしょうか。
今回は気合が入り、いつもよりだいぶ長い記事になってしまいました(笑)
皆さんもぜひ『深夜特急』を読んで、読書でユーラシア大陸を横断してみてください!
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私の好きな作家のphaさんが書かれた"旅や移動、生活"をテーマにしたエッセイです。ほっこりした気持ちになれます。
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