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本を読んで「女性ってこんなにハードモードなの」と考えた(2019年2月)

2月は、本を読んでジェンダーについて考えました。いま社会にあるのは、ジェンダーギャップでもジェンダーバイアスでもないんだな。それはジェンダーモード。「女性である」だけでゲームの初期設定が「ハードモード」になっているんだと、読んだ本たちが強烈に語りかけてきました。

筆頭は「82年生まれ、キム・ジヨン」。「男女差別なんて今更ないでしょ」「男だって差別されてるよ」という輩がいればこの本を叩きつけて、「これ読んで出直してこい!」と言えるレベルで、女性が人生を通じて味わう辛酸がこれでもかと描かれている物語です。

特に印象に残るのはこのシーン。主人公のキム・ジヨンが夫に「子どもをつくろう。仕事を辞めても自分が養うよ」と言われて、こう言い返すのです。

「それで、あなたが失うものは何なの?」
 「え?」
 「失うもののことばかり考えるなって言うけど、私は今の若さも、健康も、職場や同僚や友だちっていうネットワークも、今までの計画も、未来も、全部失うかもしれないんだよ。だから失うもののことばっかり考えちゃうんだよ。だけど、あなたは何を失うの?」
 「僕は、僕も……僕だって同じじゃいられないよ。何ていったって家に早く帰らなくちゃいけないから、友だちともあんまり会えなくなるし。接待や残業も気軽にはできないし。働いて帰ってきてから家事を手伝ったら疲れるだろうし、それに、君と、赤ちゃんを……つまり家長として……そうだ、扶養! 扶養責任がすごく大きくなるし」(p129)

夫が必死に挙げた「失うもの」はこの程度なんです。「付け足されるささやか苦労」を失うものと勘違いできてしまう。まさに、ゲームのモードの違い。「ハードモード」に出てくるクリボーやパックンが「ノーマルモード」にはいないから、そのステージの難しさを共有し得ないし、「楽勝でしょ」と言えてしまう。

このハードモードは、日常の小さな出来事にまで貫徹されていることを暴き出すのが、レベッカ・ソルニットさんの「説教したがる男たち」でした。

「説教」という小さな出来事を侮るなかれ。「見識豊かな俺が、無知なお前に教えてやる」という姿勢は、女性に対する抑圧の萌芽である。自らが相手をコントロールする権利を有し、本人にはそれがないんだとみなすことは「もっとも小さな独裁主義」であることを、ソルニットさんは喝破するのです。

この小さな独裁主義が最悪の形を取れば、それは女性へのレイプやDVという犯罪になります。また性犯罪被害者の訴えを「妄言だ」とか「同意があったんだろ」と押しつぶす偏見になります。その意味で、説教というのは「レイプカルチャー」の最初の一歩である。説教することで男たちは、社会は、レイプを黙認していると言えなくもない。男性である自分にできることは、まずこのレイプカルチャーの担い手になりうる自分の「男性性」を自覚することなんだろうと感じました。

自分が「加害側」であることを受け入れるのは、暗澹たる気持ちになることは否定できませんが、そこは一つ、読書を支えに前に進むしかありません。2月はもう一つ、noteの深津さんのエントリーをきっかけに「科学的に幸せになること」というジャンルに出会えましたが、まさにうってつけかもしれません。悠木そのまさんの「ハーバード流幸せになる技術」を読めば、「どんな状況でも、いますぐに幸せになることは(科学的に)可能である」ということがわかります。幸せは、ちょっとしたことが大切なのです。

困難を乗り越える、ということについて藤井太洋さんの最新小説「東京の子」が示唆的な気もしています。「2020」を終えた東京が舞台なんですが、主人公の武器が「パルクール」というのが面白い。街中を巧みな身体動作で駆け抜けるスポーツみたいなアレです。戦闘術ではなくて、移動力なんですね、主人公の強みが。

「壁を壊す」のがこれまでのソリューションだとして、実はこれからは「壁を乗り越えてしまう」、つまり既存の対立構造を無効化するような軽やかなアプローチもあり得るんじゃないか。そんなことを考えました。


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