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読書熊録

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素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
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2023年12月の記事一覧

2023年最後に読んだ本

2023年最後に読んだ本は、川本直さん『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』(河出文庫、23年11月6日初版発行)になりそうです。12月28日に読了。

トルーマン・カポーティらと同時期に生きた米国作家、ジュリアン・バトラー。当時タブーだった同性愛を正面から、かつ扇動的に描いたトリックスター。という設定。つまり、ジュリアンは架空の作家です。架空の作家の評伝という、実験的な物語スタイルが特徴でした。面

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『おすすめ文庫王国』の楽しみ方

『おすすめ文庫王国』の楽しみ方

12月10日付で、毎年恒例の『おすすめ文庫王国2024』(本の雑誌社)が刊行されました。100ページ超、まるごと文庫本の話を詰め込んだ雑誌。これを読まずして年を越せない。年末年始の読書の友です。その楽しみ方を整理したいと思います。

①本の雑誌が選ぶ文庫ベストテン2023年度巻頭企画は毎回これ。本の雑誌社の編集者や営業社員、経理の方が匿名座談会で毎年のベストテンを選ぶ。でも、かなり適当。それが良い

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この本に出会えてよかった2023

この本に出会えてよかった2023

今年、強く感じたことは「読むことは光になる」ということでした。

冬が終わる前、幼い我が子に発達障害がある可能性が分かりました。人生で味わった過去の戸惑いとは、比べようもないほどの戸惑い、「この先どうなるのか」と、まさに光を失うような状態が続きました。そこから、一冊二冊。障害や、当事者家族の本を開くごとに、足元が照らされていきました。再び歩み出せました。

本を読む目が変わりました。病や困難に直面

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他でもない自分をハグしようーミニ読書感想『わたしに会いたい』(西加奈子さん)

他でもない自分をハグしようーミニ読書感想『わたしに会いたい』(西加奈子さん)

西加奈子さんの最新作品集『わたしに会いたい』(集英社、2023年11月10日初版)に勇気をもらいました。初のノンフィクション『くもをさがす』で、乳がんの闘病経験を語った西さん。その経験が昇華されてなのか、この作品集では病や障害、あるいは自分自身の「からだ」をテーマにしたものが多い。そして、セルフケア、セルフラブ、他の誰でもない、自分で自分を愛する大切さを伝える物語がたくさん詰まっていました。

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「あるべき」をほぐすーミニ読書感想『春、戻る』(瀬尾まいこさん)

「あるべき」をほぐすーミニ読書感想『春、戻る』(瀬尾まいこさん)

瀬尾まいこさんの小説『春、戻る』(集英社文庫、2017年2月25日初版発行)を読めて幸せでした。瀬尾作品の魅力は、家族関係などの「あるべき」を解きほぐしてくれること。それも説教くさくなく、優しく。本書では、「年下の兄」という、なかなか通常考えられない「家族」が登場し、あるべき家族像、あるべき人生の固定観念を溶かしてくれます。

年下の兄、というのはどんなシチュエーションにあり得るか?面白いなぞなぞ

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絶対的で揺らぐ空ーミニ読書感想『幽玄F』(佐藤究さん)

絶対的で揺らぐ空ーミニ読書感想『幽玄F』(佐藤究さん)

ただの会社員である自分は、パイロットとして空を飛んだことはない。ましてや音速の戦闘機を操縦したことはない。その空の青さを知らない。だけど、この本を読むとその峻厳な空間が眼前に広がる。切り裂くような冷気を感じる。佐藤究さんの最新小説『幽玄F』(河出書房新社、23年10月19日初版発行)はそんな小説でした。

著者は、美しい日本語を紡ぐ。磨き抜かれたガラスのように曇りがない表現。そこに、独特の美が、思

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