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たったひとりの魂の番

ひとには魂の番がいるんだって。愛を注ぎ注がれるような、たったひとりの魂の番のようなひと。

52ヘルツのクジラたち 町田そのこ


『第二の人生では、キナコは魂の番と出会うよ。愛を注ぎ注がれるような、たったひとりの魂の番のようなひとときっと出会える。キナコは、しあわせになれる』


大丈夫、きっといるよ。それまでは、ぼくが守ってあげる。

大丈夫だよ。

蟻地獄に落ちるということわざを知ったとき、これはまさしく今の私にぴったりの表現だと思った時がある。

気がついたらポッカリ空いた落とし穴の中にいた。

抜け出したくて、一歩上に登ろうとする度に、砂漠みたいにサラサラした砂の中に足元が沈んでいく。

頑張ろう、前を向こうと気持ちを奮い立たせても、身体が思うようにいかない。食欲はないし、夜眠れない。

心と身体が火を追うごとにバラバラになっていく感覚。

そんな時、ある人の言葉をお守りにしていた。

大丈夫だよ。

この物語で、アンさんが貴瑚にかけた言葉と同じ言葉だ。


あのとき、アンさんのその言葉だけで生きていけるような気がした。魂の番などいてもいなくてもいい。

人生で一番辛く苦しかった時、“淵”に立っているような時、自分を繋ぎ止めてくれるものはお気に入りの本でも、音楽でも家族でもなかった。

ある人からもらった言葉を大事なお守りのように握りしめて生きていたことは、私だけじゃない気がする。

アンさんは貴瑚にそんなお守りの言葉をあげた人だ。

なのになんで、アンさんは自分にその言葉をあげられなかったんだろうと考えては悲しくなる。


大丈夫。しあわせになれる。自分にも魂の番がいるし、誰かにとって自分がかけがいのない魂の番なんだって、アンさん。

他人にはこんなに素敵な言葉をかけてあげられるし、幸せを祈ることができたのに、自分だけが例外になってしまうアンさんの魂を思う。

きっとそれがアンさんだけじゃなくって、私たちの魂のような気がする。

生まれた時からどこかが欠けていて、誰かからの愛とか肯定でしか埋まらない部分があるんだと思う。

ひとというのは最初こそ貰う側やけんど、いずれは与える側にならないかん。いつまでも、貰ってばかりじゃいかんのよ。


この物語をぎゅっとまとめるとこの一文になると思う。

人は与えられた分しか与えられない。

人は与えた分しか与えられない。


そうだとしたら、アンさんが貴瑚にあげたものの大きさを感じずにはいられない。


絶対読んでほしい一冊です。絶対に。


Written By あかり

アラサー女


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