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『コロナ禍の下での文化芸術』 3章その2 「大イベントのコロナ禍での再開と断念」

『コロナ禍の下での文化芸術』
3章「日本での文化芸術の流され方と欧米でのあり方、抵抗、復活への強固な意思の差〜固有の文化芸術と、借り物のそれとの差が緊急事態下で露わになった?」

その2 「大イベントのコロナ禍での再開と断念」


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※参考記事
http://amass.jp/140981/

《ドイツの科学者 屋内コンサートの「コロナ感染実験」の研究結果発表 感染対策を十分取っていれば広がるリスクは低い》(2020/11/04 09:29掲載)
「ドイツの科学者たちは8月、大規模な屋内コンサートにおいて新型コロナウイルスがどのように拡散していくのかを調査する実験を実施。この研究結果がオンラインで発表されています。このプロジェクトは「Restart-19」と呼ばれ、8月22日にドイツのライプツィヒにあるアリーナにて、同国のシンガーソングライター、ティム・ベンツコらを迎えて行われています。」


上記のドイツでの8月の実験結果を待つまでもなく、日本では、夏に予定されていた音楽イベントはほとんどが中止、あるいはリモート開催となった。

※参考
https://www.walkerplus.com/article/1002407/

その一方で、スポーツ試合は、観客を制限した形で徐々に再開され、夏の時点ではプロ野球やJリーグが、時折感染者を出しながらも、シーズンを継続していった。
高校野球も、夏の大会は予選だけで終わったが、春の大会を記念試合という形で甲子園で開催する、という強引な運営が行われた。幸い、球児たちのクラスターは起きなかったが、他の運動競技では、寮生活を伴う学校などで各地にコロナ・クラスターが発生した。体育会系運動部でコロナ感染が根深く蔓延していることも、報道は意図的に小さく抑えられていたようだが、各地のローカル報道で流れた。

※参考記事
《相次ぐスポーツ強豪校でのクラスター 寮生活の感染予防の難しさ浮き彫りに》毎日新聞2020年8月19日
https://mainichi.jp/articles/20200819/k00/00m/040/221000c

スポーツ競技の場合とは違って、音楽イベントは、学校行事や音楽系部活の発表でも、全国コンクールは中止となり、演奏会やライブも、無観客やリモートなど、イレギュラーな形を余儀無くされた。

※参考
https://www.asahi.com/corporate/info/13362503

http://www.ajba.or.jp/2020shukijigyou.pdf

高校野球やプロ野球、サッカーなどは開催を許可されているのに、音楽の方はなかなか行えないという、基準がよくわからない自粛が夏中続いたが、秋になってようやく少しずつ再開されつつある現状だ。
しかし、コロナ感染の方は秋から冬に近づくにつれ、再び感染拡大の傾向になっている。このまま、音楽イベントが再開していけるかどうか、まだまだ流動的だ。
それというのも、日本では、音楽や演劇、舞台芸術全般とアリーナでの大イベントにおける、コロナ感染対策の明確な基準がないことが、事態を複雑にしている。基準が示されても、その基準に科学的根拠が希薄であり、何も検証されないまま、ほとんど印象で規制が続いている。どうして日本では、ドイツでの実験のような科学的根拠を求める動きがないのだろう?

※参考
管楽器の飛沫実験などは行われているが、それが広く周知されているとはいえない
「#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」について
〜クラシック音楽演奏会・音楽活動を安心して実施できる環境づくり〜
2020年6月22日 クラシック音楽公演運営推進協議会
一般社団法人日本管打・吹奏楽学会

https://www.classic.or.jp/2020/06/blog-post_22.html

https://storage.googleapis.com/classicorjp-public.appspot.com/200622covid19project_issue.pdf

その一方で、最近、経済政策を優先しようとするあまり、逆に前のめりな公開実験が行われつつあるのも、大いに疑問だ。
下記の球場での感染実験だが、これはドイツでの実験の場合と違い、条件付けが曖昧で、実験目的が不明確だ。方法も場当たりで、はたして危険を冒してやっただけの成果があるのかどうか? 厳密な条件で行われていない実験の結果は、信用するに値しない。そんなずさんな実験に参加した観客たちが、もし感染して重症化でもしたら、一体誰がどう責任を取るつもりだろう?


※参考

神奈川県HPより
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/bu4/jissyo.html

横浜スタジアム技術実証について 掲載日:2020年10月30日

※参考記事
《準備万端の浜スタ、肩すかし 「これで実験になるのか」
朝日 2020年10月31日 7時00分》
https://www.asahi.com/articles/ASNBZ76BGNBRUTIL065.html


だが、この大規模実験の結果が良好だと大きく報道されたら、全国各地で大規模イベントが再開されるのだろうか。
しかし、これから季節は寒くなり、コロナ感染が拡大傾向にあることはすでに確実だ。年末年始に向けて大規模イベントが行われたら、一気にクラスター化して第1波以上の感染になるかもしれない。現に、欧米では、ようやく舞台芸術が21年へのシーズンを開幕するタイミングでのコロナ感染再拡大を受けて、冬場のシーズンを結局あきらめ、来年まで閉鎖する例が続出している。
日本では、はたしてどうなるのだろう? 日本政府がコロナ感染防止に有効な対応をしていない現状では、各地で大規模イベントや舞台芸術、スポーツの大会を再開して大丈夫だろうか? 第3波がちょうど蔓延したら、医療体制に不安がある中、この冬を無事に乗り切れるのだろうか?
不安を否定できないままに、日本の場合は冬に向けて本格的に舞台芸術がシーズン幕開けとなる。

このあと11月中に筆者は、大阪でのオペラ「フィデリオ」演奏会形式の公演を聴きにいく予定だ。6月に緊急事態宣言解除後、本邦初のフル編成オケの再開を担った日本センチュリー交響楽団の演奏だが、あの当時から半年近く過ぎて、音楽の公演もどう様変わりしたか、実例を見聞してくるつもりでいる。その報告を、本章の続きとして書くので、お待ちいただきたい。


その3 「在阪オーケストラは2020年の苦難を乗り越え、2021年シーズンへ〜日本センチュリーの「フィデリオ」と大阪4大オケ共同会見取材を中心に」
https://note.com/doiyutaka/n/n8a8742afee0b

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※前段へのリンク
『コロナ禍の下での文化芸術』
3章「日本での文化芸術の流され方と欧米でのあり方、抵抗、復活への強固な意思の差〜固有の文化芸術と、借り物のそれとの差が緊急事態下で露わになった?」
その1「楽器飛沫実験と、2〜3月の公演延期・中止の是非 特に学校関係の行事・音楽系の学生公演について」
https://note.com/doiyutaka/n/n2c973b89c700

※アーカイブ

『コロナ禍の下での文化芸術』プロローグ
https://note.com/doiyutaka/n/n7590305397f5

1章「2月下旬の政府によるコロナ対策のイベント中止要請や、安倍総理による全国一斉学校休校の影響で中止・延期になった事例」
https://note.com/doiyutaka/n/n3a715c4a552a

(続き)【合唱でのコロナ感染例について】【ライブハウスでの感染例について】
https://note.com/doiyutaka/n/ne88b2c2f3a89

補足編1.5章「コロナ公演中止から復帰するオーケストラの試み〜 関西フィルの検証実験」
https://note.com/doiyutaka/n/n6b0cd35a10f7

2章「リモート演奏が突如、絶対的な決まりになった日 〜 21世紀に盛んになった〈モノ消費ではなくコト消費へ〉という流れがコロナ渦でかき消された」
その1「2020年6月以降の国内クラシック界の現状と今後」
https://note.com/doiyutaka/n/nb068a99bee06

その2「2020年6月中旬、再開されたフル編成オケ演奏会を聴いて」
https://note.com/doiyutaka/n/nd6a806309aa1

その3 コロナ渦で、コーラスをどうやって再開するか?
https://note.com/doiyutaka/n/nfa3c57b3f7ab


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コロナ危機の最中に音楽文化がどうなっていくのか? 感染拡大の緊急事態の中、演奏会やライブが次々中止されていったパニック状況から、演奏会再開…

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