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連載エッセイ 『コロナ禍の下での文化芸術〜日本における2020年2月以降の音楽活動自粛を中心に』

連載エッセイ
『コロナ禍の下での文化芸術〜日本における2020年2月以降の音楽活動自粛を中心に』


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1章
「2月下旬の政府によるコロナ対策のイベント中止要請や、安倍総理による全国一斉学校休校の影響で中止・延期になった事例」


※プロローグ〜コロナ感染で中止・延期になった初期の事例(無料公開中)
https://note.com/doiyutaka/n/n7590305397f5



⒈ コロナ対策で政府のイベント中止要請や安倍総理による全国一斉学校休校要請を受けてすぐ中止・延期した事例(引用の文章は各団体HPによる)


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3月1日東京マラソンは一般参加なしとはいえ開催されたし、3月中旬までは、東京五輪の聖火リレーの予定や、東京マラソン開催予定など、国内での大型イベントは、コロナ危機がまるでないかのように実施されそうな勢いがあった。
だが、甲子園の春の選抜高校野球が11日に中止を決定した頃から、コロナ危機の事態の深刻さが世間でようやく認識されていく。その後、3月13日にギリシャでの聖火リレーも中止になり、日本での聖火引き継ぎは行われたものの、国内リレーは3月下旬、中止が決まった。大相撲も無観客での開催となり、コロナ危機がテレビ画面にも印象付けられていった。
そんな中、音楽団体、特にオーケストラやオペラなどの公演は、実施と中止の判断が分かれた。


(1)プロ・オーケストラ


プロのオーケストラ公演は、判断が分かれた。早々に中止・延期を決めた場合と、3月下旬ギリギリまで公演(しかもお客を入れて!)を決行した例がある。その中間的な例として、無観客で配信・収録するという企画を実施した例も複数あった。
判断の分かれ目、その是非について、一概には語れない。だが、全ての公演が中止・延期となって一ヶ月以上となり、現状は公演再開のタイミング、条件の判断が難しい。政府が緊急事態宣言を出したその根拠と、現状の宣言解除の根拠が必ずしも一致しないからだ。はたして、政府が緊急事態を解除したから、すぐに公演を開始できるのかどうか?
しかも、公演を再開するとしても、「ソーシャル・ディスタンス」を保つ必要があるため、客席は1つないし2つ分空けておかなければならない、ということだ。それでどのくらい集客が可能なのか? 以前のチケット価格のままで、はたして演奏団体の維持が可能なのか?
また、演奏団体自体も、舞台上で、1〜2メートル空ける必要があるとしたら、楽器編成を以前のままできるのかどうか? 弦楽器やピアノはともかくとして、吹奏楽器や、歌唱は、飛沫をどの程度飛ばしてしまうのか?
公演を再開するための難問が山積みだと考えられる。


※参考
【緊急提言】
「楽器演奏のエアロゾル飛散検証実験、実は管楽器演奏はコロナ感染の危険は少ない?」
https://note.com/doiyutaka/n/n3d36dadd4136


【2月中の中止・延期】

1)
都民芸術フェスティバル 
2月28日
東京交響楽団

2)
新日フィル
《2月29日(土)14時より予定しておりました定期演奏会ルビー〈アフタヌーン コンサート・シリーズ〉第29回は、新型コロナウイルスの感染拡大防止に係る政府発表および27日の首相発言を受け、中止を決定いたしました。》


これらの、2月下旬で中止を決めた団体は、プロとしては早い方である。


【3月初旬】

1)
大阪交響楽団
関西歌劇団創立70周年記念ガラ
【新型コロナウイルス感染症による公演延期について】
2020年2月26日の政府の新型コロナウイルス対策本部で、今後2週間はスポーツや文化に関するイベントの開催について中止・延期などの対応をとるよう要請があったことを受け、本団におきましても協議の結果、3月1日に予定しておりました、関西歌劇団創立70周年記念ガラ・コンサートの開催を4月26日(日)14:00開演に延期することに決定いたしました。

2)
琉球交響楽団
【第37回定期演奏会中止について(令和2年2月22日)】
この度、新型コロナウイルス感染症が沖縄県でも発生していることを受けまして、
お客様の安全を最優先に考慮し、令和2年3月1日にアイム・ユニバースてだこホール大ホールで
実施予定であった「第37回定期演奏会」の開催を中止とさせていただくこととなりました。

3)
ヤマハ吹奏楽団
3月1日 サントリーホール

4)
日本フィル
3月6、7日 定期

5)
3月10日
トリフォニー
すみだ平和祈念音楽祭2020
上岡敏之 新日本フィル

6)
読売日本交響楽団
3月12日 定期

7)
東京フィル
《【謹告】2020年3月定期演奏会・延期についてのお知らせ
弊団は3月の定期演奏会として不世出の芸術家ミハイル・プレトニョフ指揮の交響詩『わが祖国』全曲演奏をお届けすべく企画しておりましたが、この度の新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に係る政府の要請を受け、延期の調整を続けておりました。本日、各方面のご協力により8月に移すことが可能になりましたのでお知らせいたします。》


このように、3月に入るとプロのオーケストラ団体は軒並み中止・延期を発表していく。



(2)オペラなど


1)
新国立劇場
2月28日〜
オペラ研修所修了公演『フィガロの結婚』

2)


2月29日〜
バレエ『マノン』

3)
サントリーホール
3月13日
サントリーホール・オペラ・アカデミー修了生によるオペラティック・コンサート


4)リサイタル

東京オペラシティ
3月8日
松木さや(フルート)

オペラ、バレエは中止がやむを得ないとしても、上記のフルートのリサイタルを3月早々に中止したのは、珍しい対応だったかもしれない。


⒉  3月中に公演を実施した例


プロ楽団の多くが3月に入って次々と公演中止・延期を発表していった反面、ギリギリの判断で観客を入れて公演を実施した事例もあった。3月中旬までは、世間的にはスポーツイベントも一部、開催されており、まだ気分はそこまで切羽詰まった印象ではなかった。だから、一斉休校要請で全国の学校がほぼ休校に入り、3月に目白押しだった卒業式や入試、部活の発表などの学校関連イベントが次々中止や小規模開催に追い込まれていく様子が、一種異様に浮き上がって見えたほどだった。


3月12日
アンドラーシュ・シフ(ピアノ)
東京オペラシティ

3月21日
東京交響楽団
東京オペラシティシリーズ
飯森範親(指揮)

3月25日
上原彩子(ピアノ)
東京オペラシティ


3月中旬段階で観客入りの公演を実施したこれらの事例は、主催者側によほどの覚悟と決意があったと思われる。すでに緊急事態宣言を出す可能性が噂されていた3月下旬となると、公演を開催したことで下手をすると社会的に非難を受ける可能性すらあった。


⒊  学校関係の事例


プロ団体の場合と異なり、学校関係のイベントや演奏会の中止・延期は、枚挙にいとまがない。2月末の安倍総理の「全国一斉休校」の要請によって、学校行事も部活の発表も次々中止となっていった。卒業式さえ保護者抜き、最小限の人数で行わなければならない学校が多かったのだ。


【2月中の中止・延期】

(1)
光華女子中高吹奏楽部
《2月24日(月祝)14:00より、京都コンサートホール大ホールにて開催を予定しておりました本校吹奏楽部主催の「第34回定期演奏会」開催につきまして、新型コロナウイルス感染症が全国で新たな感染確認のある状況を受け、生徒や保護者、来場されるお客様の健康・安全面を第一に考慮し、開催を中止することにいたしました。》

(2)
桐蔭学園小学部
《2020.02.27 (木)送別音楽会及び学年末保護者会(1~5年)の中止のお知らせ
国内においては新型コロナウィルスの感染事例が連日のように報道されており、今後の感染拡大が憂慮されています。今後も引き続き、感染症への対策に努めていく必要があります。
このような状況を考慮して、3月6日(金)~8日(日)実施予定の送別音楽会日程を中止といたします。
各学年の練習が仕上げに入る段階での判断となり大変残念な思いですが、児童の健康面を第一に考えた措置として保護者の皆様にご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
桐蔭学園小学部》


※参考記事(産経新聞)

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⒋  一般団体の事例


一般の音楽団体も、特に企業関係と公共ホールを使用する場合、一律に中止せざるを得ない場合がほとんどだったように思える。しかも地方による差はあるが、2月末に出された政府のイベント中止要請を待たずに、先にイベント中止を決めた例が意外にあったのだ。このことは、一般団体の場合はすでに2月後半の時点で、外部からの圧力、あるいはもしかしたら団体内部からの自粛圧力が強まっていたことがうかがえる。


【2月中の中止・延期】

(1)
豊島区管弦楽団コンサート
《2月23日(日曜)「豊島区管弦楽団コンサート」の中止について
【コンサートの中止について(お詫び)】
豊島区ならびに公益財団法人としま未来文化財団は、新型コロナウィルス流行の影響を鑑み、2020年2月23日(日曜)に開催を予定しておりました「豊島区管弦楽団コンサート」の中止を決定いたしました。
これまで会場の衛生環境に配慮の上、準備を進めてまいりましたが、出演者および観客の皆様の健康と安全を第一に考え、最終的に中止の判断に至りました。》

(2)
三井住友海上管弦楽団
《第39回定期演奏会中止のお知らせ
三井住友海上管弦楽団では、国内における新型コロナウイルス感染症の拡大状況に鑑み、2月22日(土)にすみだトリフォニーホールにて開催を予定していた第39回定期演奏会を中止することとしました。》

(3)
さざなみホール・ピアノ演奏会
《シライシアター野洲(野洲文化ホール)・
さざなみホールでは「野洲市新型コロナウイルス感染症対策本部」の
方針に基づきホール主催事業である以下の公演を中止とします。
2/23(日) さざなみホール   ピアノ演奏会》

(4)
合唱組曲「北九州」演奏会
《アルモニーサンク北九州ソレイユホール
出演を予定しておりました、2月24日(月祝)合唱組曲「北九州」演奏会は、福岡県内において新型コロナウイルス感染症の患者が確認されたこと等により、感染拡大防止の観点から、観客の皆様及び出演者の皆様の健康と安全を第一に考え、公演は中止となりました。》

(5)
名寄少年少女オーケストラ・名寄少年少女オーケストラ
《明日2月23日(日曜日)14時から名寄市民文化センター大ホール「EN-RAY」で予定しておりました標記公演については、道内的にも感染の広がりを見せる新型コロナウイルスの影響によるご来場者様及びアーティストへの感染防止などを最優先に考慮し、主催者(名寄少年少女オーケストラ・名寄少年少女オーケストラ保護者会)が、やむなく中止するとの判断をしました。》


⒌  4月以降のイベント中止決定(夏頃まで)


3月下旬以降、春から夏にかけて予定されていた音楽イベントは次々と中止や延期の発表が相次ぐ。クラシック音楽の場合、海外、それも欧米との関係が深いため、欧米でのコロナ感染危機が爆発的に悪化、深刻化するにしたがって、日本国内でのキャンセルがあっという間に増えたという印象だ。欧米のアーティストが関係する音楽イベントは、先方が日本への渡航の見通しが立たなくなった時点で、早々にキャンセルされていったのではないかと思われる。


PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌)
7月10日(金)から8月3日(月)→中止

ラ・フォル・ジュルネ(東京)
5月1日(金)~4日(月・祝)→中止

別府アルゲリッチ音楽祭(別府)
5月開催予定→来年2021年5月8日~6月6日に延期

大阪国際室内楽コンクール(大阪)
5月開催予定→見送り

兵庫県立芸文センター(西宮)
過激「ラ・ボエーム」
7月公演予定→見送り

ミラノ・スカラ座来日公演(東京)
9月公演予定→見送り


⒍  無観客で実施し、ライブストリーミング配信した事例


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