アムステルダム国立美術館所蔵のバッグの作り方を見つけた話 (1)
昔のレース編みについての備忘録として使おうと思って、随分前にnoteのアカウントだけ取っておいたのだけど、以来何年も触らないままだった。それなのに、今になってどうしても1つ目のnoteを書こうと思うほどシェアしたくなったものに出会ってしまったので、なんとか始めてみます。なぜだかレース編みについてではない...。
ことの発端は
昔のレース編み作品を探して、いつものように博物館のデジタルアーカイブを散歩していたある日、アムステルダム国立美術館 (Rijks Museum Amsterdam 以下、ライクス)所蔵、1825年頃制作という、一見ロール編み(コイル編み)にみえるpurse(小さなバッグ)を見つけた。
面白い!でも、ロール編みにしては不思議な感じ。
それに、1825年頃の制作でロール編み?
”Purse , anonymous, c. 1825 crocheting, l 9cm × w 5.4cm × h 2cm” (以前見た時には気づかなかったけどタイトルにcrochetingとある。私も最初はレース編みかと思ったのだけど、これはかぎ針編みではなさそう。以下本文に)太字by me
https://www.rijksmuseum.nl/en/search/objects?q=purse&p=1&ps=12&st=Objects&ii=0#/BK-1974-29,0
(参考まで、ロール編みというのは刺繍でいうバリオンステッチのかぎ針編み版でクルクルと糸を巻いて作るステッチ。コイル編みや巻き編みと呼ばれることの方が多い。英語ではbullion stitchほかの呼び名があります。私のnoteのアイコンはロール編みを使って編んでみたものです)
出来る範囲で資料を遡ってみようとはしているものの、いつ頃からレース編みにロール編みというステッチが使われるようになったのか、私にはまだ分からない。でも、いくらなんでも1825年は早すぎる。
年代が間違っているのか、他の技法なのか、とよく見ると、とがったモチーフの中心のあたり、なんだかロール編みとは違うようだ。
ではなんだろう?と更に探していたら、同美術館に、ほとんど同じ技法と思われるpurseをもう1点見つける。
”Purse with a clasp of lion’s heads, anonymous, c. 1820 - c. 1830 forging, l 10cm × w 7.3cm × h 2cm”
https://www.rijksmuseum.nl/en/search/objects?q=purse&p=1&ps=12&st=Objects&ii=2#/BK-NM-12905-B,0
拡大してみたら、こちらのほうが糸のつながり方がはっきりと見える。やはりレース編みではない。
この技法は、よく刺繍で使われるステッチと同じではないかと思っていたところ、ツイッターのフォロワーの方からも、テープレースやニードルレースのかがりに使われるRibbed spider's web, Spinning wheelに見えると教えていただいた。それにしても、博物館のページに”unknown technique"「不明の技法」と書かれているのが引っかかる。
というのが2016年春のこと。
このあたりのことは、このツイートのスレッドに
https://twitter.com/nunomaniac/status/720130077250478082
作り方を見つけた!
それから3年の時がたったある日、こんどはかぎ針編みでは最古と言われているパターンが掲載されている、1823年発行オランダの雑誌Penélopéを眺めていた(読めない!悔しい!)。
すると、なんと、その雑誌の中に1825年ごろ制作のpurseそっくりのデザイン画とその作り方を見つけた。予想した通り、レース編みではなくspider's web系のステッチのようだ。(図の右下参照)
それにしても、山型に尖ったモチーフ(というか、個々の枠の中の丸いところ。以下モチーフ)といい、モチーフ中心のビーズといい、2色の糸使いやビーズのタッセルといい(開口部にあしらわれた金属のバーとリングこそないものの)ライクスのpurseはこの雑誌を見ながら作ったとしか思えない。
1823年発行の雑誌と1825年頃制作とされるpurse! これは!!
Google Books
リンクしたページ下部の目次で、図はp.7に、説明文はp8 から
(Penélopé, of maandwerk aan het vrouwelijk geslacht toegewijd オランダ語をグーグルにかけてみたら、副題は「女性のための月刊誌」という意味らしい)
それが今年の初夏のこと。
この7月1日のツイートあたり
https://twitter.com/nunomaniac/status/1145656343652532225
英訳が届く!
なんだかうれしくなったのだけど、ライクスの説明に「不明の技法」とあるのがなお気にかかる。そこで、同美術館に「オランダ語は読めないけれど、同じ作り方と思われるpurseが1823年のPenélopéに掲載されている」とメールしたところ、すぐに「確かにそっくり!作り方は英訳して送ります」との返事、そして数日して英訳が届いた。
!!!!!
V&Aは問い合わせには対応してもらったことがあるけど、METは問い合わせ用のアドレスすら見つからないし(無理やり他の部署にメールしようかと思いつめたことも何度か...)、まさか英訳までして送ってもらえるとは。
そんな経緯で、手元に英訳があります。
再現してみたい!
当時、まだ手芸の説明法が確立されていなかったであろうこともあり、昔の手芸書には、現代の、特に日本の手芸書のように微に入り細を穿った説明は期待できません。また、私がこの方面に明るくないこともあって、うまくイメージできない部分もある。だけど、折角英訳までしてもらったのだから、作りたい気持ちが湧いて来ました。
もともと作ることよりも、作り方を知りたい、そして試行錯誤すること自体が好きな性分、挑戦してみたい気持ちも高まる。
糸を巻くところは、上手下手はともかくとしてなんとかなると思うのだけど、ポイントは仕立て方とモチーフを突起状に作るところあたりではないかと想像しています。
ともあれ、1823年発行の婦人雑誌掲載のパターン、美術館所蔵のpurseの再現ってちょっとワクワクしませんか?私には完成できるのかどうかもわからない。でも、この周辺の手芸に通じている人なら、すんなり作れるのかもしれません。
というわけで、次のnoteに英訳をアップします。
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