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ラディカル・ゾンビ・キーパー 終

 クミにスターバックスに誘われた。
 思っていた通り、駅前のスターバックスは四ヶ月で閉店となった。今日がその三日前で、前に覗いた時よりも少しだけお客さんがいた。
 フウカは一緒ではなかった。
「ナオミのこと、あたし、好きなんだよ」
「え?」
「ナオミがあたしたちのことをウザいって思ってるのは知ってる、フウカは無神経でそういうのに全然気がつかないからあれだけど、あたしは知ってるよ、だけど、あたしはナオミのことが中学の時からずっと好きなんだよ、だから、ウザがられても一緒に帰ろうってずっと声かけてたの、何が好きかって言われたら具体的には言えないんだけど、これから、卒業したら別々のガッコに行くでしょ、それでもたまにこうやって話したいなって、フウカにもアサミにもエリコにも思わなくて、ナオミだけには思ったの」
 私はキャラメルマキアートを口に含んで、ケンと一緒にいたアメリカ人の言っていたことを思い出した。
「ラド? ラドはラドだよ、ケン? ああ、本名はそんな名前だったな、ラドは別になんともないよ、ラドはオレの友だち、仲間だからね、ラドにはもう会えないよ、オレが友だちだと思っていてもラドがオレを友だちだと思っていないみたいなんだ、悲しいよね、ラドとは今までの人生の中で一番気が合ったんだ、今日のことでもっと近づけたと思ったのに、ラドはオレのことを悪魔とか死神とかそんなのだと本気で思ってるよ、ラドも同類なのにね、それに気がついたらラドもまた俺のところに謝りに来るかもしれない、だから、もう一度ラドに会いたかったら、横須賀に来ればいい、横須賀の芸術劇場の裏にドブ板通りってとこがある、ラドとはいつもそこのバーで飲んでいたんだ、ダーツをしたりビリヤードをしたり、楽しいねえ、ラドはきっと来るよ、喜びを分かち合った仲っていうのは何があっても裂けないんだ、苦しみを共にしたんじゃだめだって言ったのは誰だったかな? そう、だからラドは必ず戻ってくる、人の繋がりは螺旋であり円環なんだ、必ず戻ってくる、だからラドにもう一度会いたいんなら、横須賀においで、きっと会える日が来るよ、オレと一緒に待とう、その間にラドに聞かせたのと同じ話を聞かせてあげるよ、何からがいい、砂漠のアルバイトからにしようか、知りたいだろう? だって君は、ラドが好きなんだろう?」
あれから三ヶ月近くが経つけど私はまだ一度も横須賀へは行っていない。ただ、ビデオの仕事は辞めた。
「ナオミは高校、楽しかった? 私はあんまりだった、自分の思い通りに出来ないっていうか、バカやったけど、ただ周りに合わせてるだけな気がして、たぶん、将来、結婚して子供が出来て、子供にお母さん高校生の時どうだった? って聞かれたら、本心から楽しかったって言えないと思うんだ、なんか、高校の思い出が嘘っぱちみたいで、だから、その中で本物だったナオミだけは、友達でいたいんだ、友達でいて、ほしいんだ」
「ニーチェって知ってる?」
「え?」
 あのアメリカ人が言っていたのはニーチェの言葉だ。最後の援助の男が残していった、ニーチェの言葉だ。
「苦しみを共にするのではなく、喜びを共にすることが友人をつくる」
「え?」
「だから、今度、横須賀、行ってみない?」
「横須賀? 何かあるの?」
「うん、楽しい話がいっぱい聞けるんだって」
クミと友達になるのはそれからだ。クミと友達になって、ケン…ラドが現れて、アメリカ人も入れて、ミオ、も、連れて行こう、五人で、ダーツとビリヤードをやろう、ビールを飲んで、タコスを食べて、あ、そういえば、あのアメリカ人、こんなことも言っていた。
「ラドは戦っているんだ、前へ進む恐怖とね、人は死ぬまで成長する、今、ラドはその局面にいる、もし、変化を受け入れずに惰性で生きることに逃げてしまったら、ラドは終わりだ、でもオレは信じている、あいつは違う、あいつは気づいているはずだ、成長を拒むこと、それは人に反している、それは死人だ、生きる屍、ゾンビだ、ってことにな」

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