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5.注意で世界は変わる

子どもの教育で最も重要なポイントは「子どもの関心」であり、注意を向けるべき対象に、子どもをして自発的に注意を向けさせる、そんな教育者が優れた教育者である、と言われます。仔犬を育てる時にも、何に関心を持たせるか、ということは非常に重要で、その注意と行動の選択は成犬になっても傾向を持ち続けることになると思います。

眼で捉えた光、耳で捉えた音、鼻で捉えたにおいの分子、それらが信号に変えられて脳に届き、脳が処理して初めて、視覚、聴覚、嗅覚という知覚作用が完成します。つまり、脳が関与しないことには、眼に映る光も、耳に届く音も、鼻が捉えるにおいの分子も、認識されることはないわけです。

脳がそれらの信号を処理するためには、実は「注意」という機能が先に働いていなければなりません。ヒトもイヌも脳の注意機能が働いて初めて外部情報を認知することができるわけです。

「見えないゴリラ(Invisible Gorilla) 」という有名な実験があります。

「(被験者は)白い服を着た人々と黒い服を着た人々がバスケットボールをパスしあう短い動画を見るよう求められる。白い方のチームのパスの回数をできるだけ正確に数えることが(与えらえた)課題だ。……被験者は30秒後には意気揚々と正解を答える。しかしそこで実験する側がおかしなことを尋ねる。『ゴリラは見えましたか?』……ゴリラの着ぐるみを着た役者が場面を歩いて横切り、中央で立ち止まって何秒か胸を叩いているではないか。見逃しようがないように思える。実験はさらに、ある時点で被験者の目はそのゴリラを正面に見ていることも示す。それでも被験者にゴリラは見えていない。理由は単純で、被験者の注意の焦点は全面的に白チームにあり、したがって、邪魔になる黒い服ーゴリラの着ぐるみも含めーを着たプレーヤーのこと(=望まない情報)は能動的に抑止しているのだ」
「有名な『見えないゴリラ」実験などの多くの実験が、不注意は視覚の完全な喪失をもたらしうることを証明しており、その点で『見えない』というのは適切な言い方だ」
(「脳はこうして学ぶ Stanislas Dehaene著 森北出版 2021年」)

この成書が言いたいこと、それは、脳の注意資源が与えらない外部情報は、いくら眼や耳、鼻がその情報を捉えても、脳が認識しない、つまり知覚作用が働かないということです。

ヒトとイヌが同じ風景、同じ音、同じにおいの環境に存在していたとしても、同じ風景を見たことにも、同じ音を聞いたことにも、同じにおいを嗅いだことにもなっていない、そういったことが大いにありうるわけです。そして、それはその瞬間だけの問題ではなく、将来に向けて大切な記憶保持という作用でも大きな差異が生じることになります。

ただでさえ、異なる知覚機能を持ったヒトとイヌ、それが、注意を向ける対象が、あるいは注意を向ける程度が異なれば、まったく別世界を生きているようなものです。それぞれの別世界=環世界をどう理解してやれるか、それがイヌとの暮らしを豊かにできるかどうかにかかっていると思います。



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