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三十連発、やけどするぜ! <後半> #創作大賞感想

 前半はこちらから

 

 やけどしそうに熱い作品の数々、引き続きいってみよう! 
 作者名五十音順です。長くなったので二つに分けまして、今回は後半をご紹介。





ナアジマ ヒカルさん

 落語、って実際に聴きに(見に)行ったのは片手くらいの回数です。あと、たまにテレビで。それが、この物語のおかげでグッと身近にやってきました。主人公の若手落語家が、身からでた錆を落としながら歩んでいくさまは、まんま落語の噺になりそうです。知らず知らず主人公を応援してしまい、自分がタニマチになったような気分です。貧乏神、と思っていてもくるりと回ってみてみれば、そうだったのか、と不思議感が腑に落ちてしまう妙。
 お仕事小説って、その世界を知らない人への入門を手助けしてくれたりします。これを読めば興味を持つ方、多いんじゃないかな、と思います。落語の神様のお導きだよ。

猫田雲丹さん

 剣道部でアオハルしている高校生のお話……な、わけはなく、だって猫田ワールドですよ、ここは。ドリルでどこに穴を、切り落とすものは何かしら、ゾンビな本屋で鬼ごっこ。焼き鳥屋さんはいい匂い。そして怪異の中を巡る猫。猫田さんは猫のひとです。私は犬のひとです。つい、出てくる猫をうちのお犬に置き換えて読んでしまいました。そして世界を肌で理解したのです。私、お犬と会えるならこの世がホラーになってもいいよ。で、これはやっぱり、アオハルのひとコマのお話しだと思うんです。

ねむるこさん

 主人公は中学校の文芸部員、先輩と二人だけの小さな部だけれど。小説を書く力は、出来事を先読みする力、とばかりに学校に隠されているというお宝への窃盗予告に挑んでいきます。主人公の口を借りて、作者の文芸論が語られているようで、それがまた興味深く。散りばめられた小物が、伏線として回収されていくのが小気味良く、次へ次へと読めてしまいます。お宝の気配が少しずつ大きくなって、さあ何が出てくるでしょう。読み終わると、タイトルの意味がわかります、上手い、上手すぎる。

はそやmさん

 最初に読了したのが骨皮筋右衛門。真剣にふざけました、という心意気に痺れました。タイムボカンシリーズ、をご存知の皆様なら、あのシリーズの新作にしたらどう? という私の思いに共感していただけますでしょうか。
 と、思っていたらドシャえもんです。対極にありすぎて、この黒々しさに私の頭は真っ白になりました。怖いよ、子供が絡むホラーはもう身がすくむんです。
 考えてみればコメディー、って一番難しいところだと思うんですよ。そう考えれば骨皮筋右衛門からドシャえもんまで、って不思議なことではないのかも。

花丸恵さん

 家族からぶつけられる理不尽。第一話で、主人公と一緒に猛烈に腹を立てました。でも主人公は立腹しながらも、これが理不尽なのだとわかっています。この子は成績は振るわないけれども非常に地頭が良くて、根拠のない自責なんかには支配されない大らかさを持っています。あたり散らしてくる兄は、実はこの子のことが怖いのでしょうかね。主人公は家を離れて、一夏を叔父と過ごすのですが、主人公が叔父から受けた影響より、叔父が受け取ったものの方が大きそう。なかなか、たいした高校生だ、やりたいことが見つかって猛然と勉強を始めたら大化けするよ、と親戚のおばちゃんのように話しかけたくなってしまうのでありました。

福島太郎さん

 文学フリマ東京で出店されていたこちらを、紙の本で読みました。地域の町おこしとお役所の内情。妖精、はその中核をなす事業になります。
 主人公はこれでもか、というほどピンチにあわせて、そこから這い上がらせなさい、というのが小説の書き方の王道のように言われていたりします。でも、そういうある意味ハリウッド的展開に、疲れている人も多いんじゃないのか。現実であろうと小説の中であろうと、前向きな解決が用意されていて欲しい、そんな願いを叶えてもらえて、希望が湧いてくるのです。対立は悪意からでなく、意見の相違からくるものだと、信じていたいのです。

穂音 <自分の作品紹介>

 現実世界に、ありえない何かを置いてみることが好きです。その何か、は話し相手になってくれたり、ピンチを救ってくれたり。物語を作ることは意識の底を掘るようで恐ろしいと思うことがありますが、それでも自分の傷は治癒する方向に向かうことが多いような気がします。
 はそやmさん、ねむるこさん、ナアジマヒカルさん、吉穂みらいさん、豆島圭さん、とき子さん、月山六太さんから感想記事をいただいて嬉しい、では表現しきれないほどの喜びに包まれております。ぜひ、こちらの記事だけでもご覧ください。
 そしてコメントくださった皆様も、読了くださった皆様も本当にありがとうございます。

豆島圭さん

 ホラー要素たっぷりの社会派小説「残夢」を、沼に足を取られそうになりながら読了しました。怖かったです、一番怖いものは人なんです。そんなことを思っていますと、老犬パグの登場する物語が現れました。不登校の子供達が通う施設に勤める主人公、どうやら色々と抱えているものがありそうです。眠るパグと対照的におしゃべりなヨウム、組み合わせも登場するタイミングも絶妙。ヨウムのおしゃべりは、いらんこと、のようで、本当は口に出さないといけないやつ、で。相手に対しても自分に対しても、飲み込むクセがついてしまうと、心の中には澱がたまる一方。主人公の再生は、子供たちにもいい影響を与えそう、ってじんわりしながら読了しました。
 同一の作者がこの両極端な物語を、って思うんですけれど。振り子がどちらに振れるか、だけの話で、観察眼の鋭さが流石だからってことですね。

ミーミーさん

 黒の背景に白の鳥居とおねこさま。怖いもの見たさで読み始めてしまいました。ゾゾっと背中に這い上がってくるものがあるのに、止められません。この家族、なんだか変……小学生の娘ちゃんがなかなかのしっかり者で、この子について行ったら大丈夫かな、と思いながら話を追いかけていきます。誰が味方で誰がヤバいのかしら、変な汗が。最後に炎に包まれた中に、あの人とあの人はちゃんと入っていたの、よね。まさか、ミステリーとして完結したけど続編はホラーとか、そんなこと、ないよね。

ももまろさん

 ももまろさんの言葉はとても多彩で、例えば色をつけてみようとしたならば、十二色とか二十四色の色鉛筆では、とてもじゃないけどたちうちできない感じです。こちらの作品では、主人公の壮絶な過去が語られていきます。どこにもぶつけようのない不公平な現実、閉塞感の中にあって、主人公の奥の奥には背筋を伸ばして凛としている女性が隠れているように思えます。そんな主人公を虐げてきた相手に起きた出来事に、思わず喝采してしまった私はもしかしたら悪い奴でしょうか。けれども主人公が今では暖かな場所にあることに、静かに拍手していたいのです。

森葉芦日さん

 ゲーマーの若い二人はリアルに出逢って、惹かれ合って、それはまるで奈落への道筋のようでした。運命だというのならあまりにも残酷で、二人が近づけば近づくほど、離れて壊れてゆく予感しかなくて。一瞬一瞬が生と死の境目を綱渡しているようで切ないというよりも苦い。夏の夜の線香花火のシーンがやるせない。一粒だけでもいいから、幸せとか安らぎとかありきたりな肯定的な何かを得ていて欲しいのですが。
 せめてあの夏を知る家だけでも残ったなら、と思ったけれど容赦ない。それは作者が、自分の作品から逃げていないということなのでしょう、覚悟を感じて震えが来ました。血を流している気がする、すごい作家さん。

山羊的木村さん

 炒飯と焼売にそそられて、最後の皿まで息つかせずに食べます。中華料理屋はバイト先、だったはずが金鉱への入り口が見え隠れします。高校野球でバッテリーを組んだ相手と再開した主人公は、もう一度最強のタッグを組むと、成功への道を突き進んでいく……はずだったのに。いつ、破滅が降ってくるのだろうと冷や冷やしながら読み進めるスリル。ああ言わんこっちゃない、でも、これで良かったとも思います。姿をくらました相棒は、天文の知識を駆使した謎解きで居場所を突き止め、そんな凄腕の名探偵の素性はというと。こんなに絡まった糸をテンポよく解いて、編み直していく手腕は、山羊さんならではだなあと。してやられた感で一杯、だからついつい読んじゃうんだよなあと納得の読後感であります。

吉穂みらいさん

 眠り、というのは拙作でも重要なモチーフとして扱いましたが、吉穂さんの作品は更に深く切り込んでいるように感じます。本人の意思の制御外にある、突然訪れる過剰な眠り。実際にナルコレプシーという疾患がありますが、本作の主人公に起こったこの病態は本当に起こりうるのか、起こりえないことなのか、そのぎりぎりを攻めていて、読み終えた時には起こりうるかも、これは世界初の事例かも、と考えてしまったりします。全ては幻想かもしれません。でも主人公は幻想のゆりかごの中からもう一度生まれたような気がするし、きっと救われたはずだと私は思うのです。

小説ではないけれど コニシ木の子さん

 このところ、noteを開くたびに気になっておりました。これはなんですか。まさにキノコが一斉に顔を出したかの如く、そこかしこに溢れています。そして、この記事を拝読して得心したのです、壮大な創作の試みであったのだと。創作とは文章や音楽や絵画や写真、だけでなく文化を作ることだと思い知ったのです。道を切り開こうとする創始者と、その弟子たちを描いたドキュメントが、この記事だと思いました。創作を何も、小難しい言葉で語る必要などないのです、それは朝顔が咲いては種をつけるように、アメンボがスイスイと進む円を見ていると時を忘れるように、洗濯物が風にはためいてお日さまの匂いがつくように、お犬が前脚でちょいちょいちょっと遊びましょうと誘ってくるように。永遠に書けそうです。
 ここで大きく息を吸って、真っ白い尻尾をふさふさと揺らしながら、わたくしも言わせていただきとうございます。

いつき@暮らしが趣味 さん、三十連発の最後を飾るに相応しい帯をありがとうございます


 それで、つまるところ

 なんのはなしですか。

お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。