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花畑お悩み相談所 プロローグ 

律子の元に孫の悠人からメールが来た。馬鹿なーー中学生になったばかりの悠人は、意識不明の状態なのだ。次々と届くメールの内容は有名な童話に基づいた物語で、登場人物はまるで自分たち家族のよう。込められたメッセージを読み解こうとする律子の元に「花畑お悩み相談所」と名乗る不思議なセールスマンが現れた。半信半疑で小さな悩みを託したところから、糸口がほぐれ始める。夫を亡くし女手一つで息子を育てあげた律子は、一人で何もかも抱え込んできた。家族たちにも自分の胸にしまってきたものがあり、悠人も例外ではなかったと、セールスマンの助けを借りて気づく。物語の謎を解くことは悠人を救うことと信じて進む律子と家族のお話。

あらすじ


プロローグ

 寝る前にスマホを見ないのは、良い眠りのためのお約束だそうだ。
 そう言われましても。若い頃からずっと夜型で、寝室へ向かう前に最後のメールチェックをしてしまう。退職した今でも、その習慣は変わらない。富原律子とみはらりつこは老眼鏡をかけると、スマホの画面をタップする。
 深夜のリビングに、かすかな金属音が届く。家の前の空き地に、マンション建設が始まっていて、今夜は突貫で電気工事をすると知らされていた。
 律子の耳からその音がすっ、と消えた。
 息は小さく、浅くなり、自分でも手が震えているのがわかる。
 差出人は孫の悠人ゆうとだ。かなりの長文だが食いつくように追う、一回、もう一回、そしてもう一回。
 送信予約をしてあったのだろうか。おばあちゃんが夜更かししないようにと、朝六時に届くよう予約して長文メールを送ってきたことは、今までにもあった。
 いや、でも、悠人であるはずがない。
 中学生になったばかりの悠人は、ひと月ほど前に森林公園の斜面で足を滑らせた。打ちどころが悪くて。
 意識不明の状態が続いている。

<続く>


第一話 悠人からのメール(1)赤いスカーフの女

第二話 律子、リンゴをすりおろす

第三話 セールスマン、お尻を向けられる

第四話 悠人からのメール(2)七匹の侍

第五話 律子、息子のお悩みをきく

第六話 悠人からのメール(3)三つのおうち

第七話 律子、小さなお悩みから始める

第八話 悠人からのメール(4)水車小屋の少女

第九話 律子、迷いを捨てる

第十話 セールスマン、はたかれる

第十一話 律子、家族会議を開く

第十二話 律子、お悩みを共有する

第十三話 律子、謎に迫る

第十四話 悠人からのメール(5)狼と少年 〜 律子、狼の正体を知る

第十五話 悠人からのメール(6)てんとう虫星人 〜 エピローグ



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