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実需に裏打ちされるユーロ高

ユーロと円の違いはどこに
7月以降、為替市場ではドル安の流れが続いています。こうした中で円は対ドルで一時104円台をつける場面も見られましたが、結局はドル安の動きが鈍ると直ぐに106円超まで戻されています。一方、ユーロの対ドル相場はなかなか調整する気配はなく、依然として高止まりしています。具体的に、ユーロ/ドル相場は3月の安値から最大で+12%以上も上昇し、年初来高値を断続的に更新しました。円の対ドル相場が年初来高値(101.18円)までは至らなかったこととは大きな違いに思えます。実際、ユーロの強さに着目する記事も今夏、多く見られました。例えば以下のようなものです:


こうした動きを踏まえ、「ユーロにあって円に無いもの」を検討してみたいと思います。もちろん、それは1つや2つではないでしょう。例えば、最もシンプルな理由として「主要国の中で欧州の立ち上がりに最も期待できそうだから」という考え方はあると思います。6月に改訂された国際通貨基金(IMF)世界経済見通しでは2020年こそユーロ圏の成長率は日米欧で最低となりそうですが、21年にかけての戻りに着目した場合、日米よりも大きな伸び幅が予想されています。

ちなみに単一通貨ユーロが誕生した1999年から2019年までの21年間について、ユーロ圏の成長率が米国のそれを上回ったのは7回だけです。その際、最も両者の成長率が乖離したのが米同時多発テロ攻撃(9・11)のあった2001年であり、1.2%ポイント、ユーロ圏(2.2%)が米国(1.0%)を上回っていました。ですが、現在のIMF見通しに基づけば、21年はユーロ圏(6.0%)が米国(4.5%)を1.5%ポイント上回ることになり、過去最大の欧米逆転という構図になります。新型コロナウイルスの感染防止策も米国が大きく劣後している印象があり、「長い目で見てドルよりもユーロの方が安心して買える」という思いが、芽生えている可能性はあります。


圧倒的な貿易黒字という実需
ほかにも「ユーロにあって円に無いもの」はあります。それは経常黒字構造の違いです。実際、これに着目する記事も出ています(というか私が取材を受けたものではありますが・・・):

単純に経常黒字額に着目した場合、ユーロ圏は世界最大、日本は世界第2位の規模を誇ります。2019年を例に取ると、ユーロ圏は3200億ユーロ(季節調整前、以下同じ)の黒字で、GDP比では+2.7%に相当しました。これは3220億ユーロにもおよぶ貿易黒字で稼ぎ出されたものです。周知の通り、このユーロ圏が誇る世界最大の経常黒字および貿易黒字はほぼドイツに由来します。2019年、ドイツの経常黒字は2455億ユーロであり、このうち貿易黒字は2213億ユーロでした。ユーロ圏の経常黒字は確かに世界最大ですが、ドイツ単体でも世界最大であり、2019年までに4年連続で世界最大の経常黒字国となっています。これに対し、日本の経常収支は20兆円の黒字で、GDP比では+1.7%です。経常黒字の大きさは世界第2位なのですが、このうち貿易黒字は3812億円にとどまっています。片や、第1次所得収支は21兆円の黒字であり、これが経常黒字のほぼ全てを支えています。

まとめます。日欧ともに経常黒字大国であることは共通しています。しかし、ユーロ圏は財を売ることで、日本は過去の投資からの収益を得ることで外貨を得ているという大きな違いがあります。この違いは為替相場への影響を考える上で小さくない意味を持ちます。というのも、第1次所得収支を構成する証券投資収益や直接投資収益は、外貨のまま再投資される部分が相応に大きい項目として知られています。つまり、外貨売り・自国通貨買いに必ずしもつながらないため、黒字額がそのまま通貨高圧力に転化されるとは限らないのです。片や、貿易黒字は外貨の売り切り(自国通貨の買い切り)となることが期待されます(アウトライト取引、と呼ばれたりします)。

こうした理解の下、巨額の経常黒字を理由に上昇が期待されるとしたら、それは円よりもユーロの方という議論になります。「ユーロにあって円に無いもの」を検討する際、シンプルですが、そうしたユーロ圏(≒ドイツ)が抱える巨額の貿易黒字の存在は避けて通れないと思います。


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