唐鎌大輔(みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト)

慶大経卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会などを経て現職。著書に『欧州リス…

唐鎌大輔(みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト)

慶大経卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会などを経て現職。著書に『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』、『「強い円」はどこへ行ったのか』。所属学会:日本EU学会。※コメントは個人的見解であり所属組織とは無関係です

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    日経COMEMOは、様々な分野から厳選した新しい時代のリーダーたちが、社会に思うこと、専門領域の知見などを投稿するサービスです。 【noteで投稿されている方へ】 #COMEMOがついた投稿を日々COMEMOスタッフが巡回し、COMEMOマガジンや日経電子版でご紹介させていただきます。「書けば、つながる」をスローガンに、より多くのビジネスパーソンが発信し、つながり、ビジネスシーンを活性化する世界を創っていきたいと思います。 https://bit.ly/2EbuxaF

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円相場は購買力平価に向けて上昇するのか?

照会の多い、PPPへの収斂について 11月中旬から下旬にかけて直面したドル/円相場の続落を受けて、円安局面の終焉を唱える声が強くなっていることを感じます: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB211PU0R21C23A1000000/ 過去のnoteでも言及している事実ではありますが、FRBの姿勢に応じて円安局面がピークアウトすること自体は想定の範囲内です。日々、「円安の構造的要因」をお話する機会が増えていることもあって、「私=円

    • 「欧州の病人」から離れていく企業

      直接投資に映る「ドイツ離れ」 過去のnoteではドイツ経済が長期停滞局面に入った可能性を取り上げさせて頂きました: 最近の日本では2023年のドル建て名目GDPの仕上がりに関し、人口規模で圧倒的に勝る日本がドイツに追い抜かれそうであることが話題ですが、「日本がドイツに追い抜かれる」という事実をもってドイツ経済の現状と展望が明るくなるわけでは全くないでしょう: 2023年、先進国では唯一のリセッション見通しに陥っているのがドイツであり、そのドイツにも追い抜かれてしまいそうな

      • ユーロ/円「15年ぶりの高値」の読み解き方~全く異なる08年との状況~

         15年ぶりのユーロ高・円安を読み解く ドル/円相場の高止まりが注目される中、ユーロ/円相場の続伸について照会が増えています: 本稿執筆時点でも164円台前半と2008年8月以来、約15年ぶりの高値を更新し、高値圏での推移が続いています。この点、「ユーロ圏の経済・金融情勢について何が評価されているのか」という問い合わせを多く頂きます。 結論から言えば、ユーロ/円相場の続伸はユーロ圏の経済・金融情勢が評価された結果とは言えません。2002~2008年にかけて起きたユーロ相場

        • 「欧州の病人」は戻って来たのか?~中国とロシアに賭け過ぎたツケ~

          「戻って来た病人(the sick man returns)」 今年8月の英The Economist誌は『Is Germany once again the sick man of Europe?(ドイツは再び欧州の病人なのか?)』と題し、メルケル前政権発足以降の16年間を通して1人勝ちが批判されていたドイツが一転して域内の落第生になりつつあることを論評しました。その後、様々なメディアが類似報道に傾いており、過去にユーロ圏やドイツを分析した著書を上梓している経緯もあって、筆

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          23年度上期経常収支の詳しい読み方

          キャッシュフローベースでの黒字は10分の1 11月9日、財務省が発表した2023年度上期(4~9月)の国際収支統計(速報値)は経常収支が+12兆7064億円と黒字幅に関して「前年同期から3倍」となり、それが「年度の半期ベースで過去最大」であることがヘッドラインで取りざたされました: 「どうだ、昨年悲観論は間違っていたろ?!」と言わんばかりの論調も見られ、絶対値の変化幅に着目して楽観を強める雰囲気を感じます。ただ、もうちょっとだけ話は複雑なので腰を据えて統計見て頂きたいと思

          日独GDP逆転について~IMF予測を受けて~

          遂に日独GDP逆転予測へ 2023年初頭から、「2023年は日独GDPが逆転する年になる可能性がある」という話題が注目を集めていました: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA16D2R0W3A210C2000000/ これは昨年10月のIMF世界経済見通し(WEO)以降、「大幅に進んだ円安によって日本のドル建てGDPが顕著に縮小する」という構図に注目が集まるようになった経緯があります。その後、今年1月、4月、7月とWEOは更新さ

          保険・年金サービスという外貨流出経路について

          カネ関連収支赤字とは何か 前回のnoteでは日銀レビューによる分析を元に、筆者が「新時代の赤字」と呼び、日本の対外経済部門の構造変化の兆候として着目するその他サービス収支赤字に関し、その殆どがデジタル関連収支に由来することを示した: 既に上記noteでも確認したように、日銀はサービス収支を従来の輸送収支・旅行収支・その他サービス収支という3分類から、モノ関連収支・ヒト関連収支・デジタル関連収支・カネ関連収支・その他の5分類に分けています。上図は遡及可能な2014年以降につい

          保険・年金サービスという外貨流出経路について

          結局、デジタル赤字はどれくらいなのか?

          サービス収支、新しい組替え 筆者は、サービス収支、とりわけその他サービス収支を中心に拡大している赤字を「新時代の赤字」と呼び、執拗な円安の遠因となっている可能性を議論してきました。過去のnoteでも以下のような議論をしています: 10月10日に財務省から公表された本邦8月国際収支統計を見ても、その他サービス収支赤字は8月に▲5229億円、1~8月合計では▲4兆6710億円と前年同期(▲3兆5670億円)から1兆円以上膨らんでいました。片や、インバウンド需要増大と共に注目され

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          円安を延命させる中東リスク~迫力を失う「リスクオフの円買い」~

          迫力を失う「リスクオフの円買い」 今年も残すところあと3か月を切ったところで、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃という地政学リスクイベントが世界中の耳目を引いています: 累次の利上げを経てもインフレ終息が見えてこない世界経済にとっては小さくない話と言わざるを得ないでしょう。筆者の元には為替市場、とりわけ円相場への影響を質す照会が多いため、本コラムでは為替市場を中心に現状と展望を簡単に整理したいと思います。 まず、直感的に想像された通り

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          インフレを輸入する日本

          日本のインフレは持続性があるか 円安が持続する中、ドル/円相場の水準に対する照会は引き続き多いものですが、同じくらい「日本のインフレは持続性を伴うと考えるべきか」という照会も増えています。今年の春闘が30年ぶりの伸び率を確保したことを受け、2024年も強い伸びが続くという思惑は少なくありません: 専門人材に対する高額報酬の話も頻繁に見聞きするようになりました: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB03CZ40T01C23A0000

          「貯蓄から投資」は「円から外貨」という不都合な真実~「資産運用立国」の副作用~

          「貯蓄から投資」の胎動 日銀から9月20日に公表された4~6月期の資金循環統計は相応に示唆に富む内容でした。既報の通り、「資産運用立国」の旗印の下、政府・与党が家計部門の「貯蓄から投資」を後押しすることに躍起ですが、四半期に一度公表される資金循環統計はその進捗度を測る有力な目安となる数字です。今後、政策担当者においても注目度は高い統計として見られていくでしょう: https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB192830Z10C23A9000

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          日銀マイナス金利解除の現実味をどう見るべきか~「可能性はゼロではない」の考え方~

          植田総裁インタビューの考え方 9月9日に報道された読売新聞による植田日銀総裁の単独インタビューを受け、円金利が急騰し、円相場でも乱高下が見られました: 同報道に続き、多くの見方も報じられていますが、ドル/円相場見通しに与える影響などについて照会が相次いでいるため、現状を簡単にQ&A方式で整理しておきたいと思います:   Q1:何が材料視されているのか。 A1:マイナス金利政策の解除時期について踏み込んだ発言があったと解釈されています。植田総裁は具体的な時期に関して「マイナス

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          海外出張で感じる「弱い円」~シンガポールの場合~

          やはり大きい内外価格差 9月初頭、筆者は出張でシンガポールに訪れました。前回シンガポールを訪れたのは5年前になりますが、例によって日本と比較した場合の物価情勢に関し、彼我の差は非常に大きなものになってきているように感じました。 例えば、頻繁に比較対象として持ち出されるスターバックスで言えば、アイスコーヒー(ice americano)のトールサイズが約5.8シンガポールドルであった。本稿執筆時点のレート(1シンガポールドル≒108円)で626円になる。日本では445円なのでシ

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          なぜ購買力平価は無力になったのか?~「過剰な円安」の意味~

          約1年半にわたって円安・ドル高が続く中、購買力平価(PPP)に照らして乖離が大きすぎる状況、言い換えればPPP対比で「過剰な円安」は長続きしないのではないかという照会を未だに受けます。本当のところは事後的にしか分かりませんが、このような疑問について筆者は2点指摘する必要があると思っています。第一に、ドル/円相場がPPP対比で上離れし始めたのは今に始まったことではないということ。第二に、「過剰な円安」と言い切るには輸出数量増加を伴う必要があること、です。双方の論点は合わせて理解

          なぜ購買力平価は無力になったのか?~「過剰な円安」の意味~

          夏を越えても終わらなかった円安

          結局、終わらなかった米利上げと円安 まだまだ猛暑が続いておりますが、早いもので夏が終わろうとしています。年初に支配的だったドル/円相場のシナリオは「早ければ3月、遅くとも5月にFRBの利上げは停止。夏を境に利下げ機運が高まり、これに伴って円高・ドル安が進む」といったものでした。少なくとも年末時点では夏に円高局面に突入しているという識者は多いものでした(というか筆者を除くほぼ全員でした): 現実はまだ利上げも円安も続いており、後者に至っては加速しています。直ぐに反転してしま

          日本人は「持たざるリスク」に目覚めるか

          「持たざるリスク」に直面する日本の家計 岸田政権の掲げる「資産運用立国」に乗じて家計の資産運用を取り上げる報道が増えています。2024年以降にNISAの非課税投資枠が大幅に拡充されることもあって、投資先の取捨選別は多くの家計にとって自分事になっているという面もあるでしょう。8月19日の日本経済新聞は『現預金が10年で2割減も?インフレ下のリスク』と題し、日本の家計部門が資産の大宗を寄せる円の現預金で保有することのリスクを特集しています: 日経新聞では同21日にも『機会損失2

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