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『地方から無数の企てを』(福島民報「民報サロン」2021年11月12日寄稿)

 「地方創生」という言葉はやや色褪せた感がありますが、今、注目なのは「ローカル・ベンチャー」という概念です。「ベンチャー」は新興の「企業」のことと思われがちですが、「新たな取組み」「企て」といった意味です。
 日本各地で地域活性化の企てや地域課題解決の企てが勃興しており、ここ福島県浜通り地域もその最前線になりつつあります。
 震災で全町避難となっていた南相馬市小高区では、「小高パイオニアヴィレッジ」から起業する若者が次々に生まれ、これまでにないお酒を造る酒蔵「haccoba」や、町中や海岸を馬に乗って散策する「小高馬さんぽ」などのワクワクする事業が生まれています。私の住む浪江町でも、商工会議所や青年会議所が、商品開発を行ったり次々に新たな企画を催したり、チャレンジが溢れています。
 地方には、人口減、高齢化・少子化、財政難など枚挙にいとまがないほど課題がありますが、裏を返せば課題を解決する事業の可能性もそれだけある。そして、あらゆる地域が同様の課題に直面しているので、その課題解決ビジネスは他地域に横展開できる可能性も大きいと言えます。
 この可能性を地方に見た外部の大手企業も、この浜通り地域で、自社の技術や能力を活かした課題解決ビジネスづくりに取り組んでいます。私の運営するNoMAラボも、南相馬市小高区で買物に困難を抱える方のため、またそういう方が帰還しやすい環境を創るため、東京の大手企業と共にVR(仮想現実)技術を使い自宅にいながら買物ができるサービスの実証実験を行っています。


 この「ローカル・ベンチャー」という概念は、企業・民間分野に限られたものではなく、自治体の公務員や公的機関も「地方の企て」の重要な担い手です。むしろ、公的分野での企みこそ、地域を活性化させ、地域の課題を解決する鍵になると考えています。
 地方の課題は、社会保障や過疎化など、市場メカニズムに委ねれば解決するという類のものではないことが多く、ビジネスという手法では対応できず、社会政策・公共政策における企てが必要になります。そこで自治体・公的機関の役割が重要になりますが、今までは、前例主義と形式主義により、公的部門からは新しい企てがあまり起きませんでした。しかし、逆に言えば、前例主義や形式主義がはびこる分野は新たな試みによりすぐに他地域と差別化しやすいとも言えます。
 「ローカル・ベンチャー」自治体の先駆者、宮崎県日南市は、「日本の前例は、日南が創る」というキャッチフレーズを掲げ、「マーケティング専門官」を置き、「移住ドラフト会議」を開催するなど、前例や形式に捉われない企みで大きな成果を挙げました。公務員・自治体が覚悟を決めれば民間とは比べられない大きなインパクトをもたらすことができるのです。


 こうして、官も民も、ワクワクする取組を同時多発的に起こしていくことで、各人が自分らしく生きる、彩り豊かな地方を作る。そんな企みをこの浜通り地域から無数に起こしていきます。

*この記事は、福島民報「民報サロン」(2021年11月12日)に寄稿したものです。

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