「もはや震災後ではない」へ向けて

 ~2019年の振り返りと2020年の抱負~

 明けましておめでとうございます。
 2020年になりました。なってしまいました。
「もはや戦後ではない」と経済白書が太平洋戦争後の日本の復興の終了を宣言したのは戦後11年経った1956年のこと。東日本大震災から10年となる2021年3月がいよいよ迫ってくる中、「もはや震災後ではない」と宣言し、東北から「被災地」という冠をとるために、今年は勝負の年です。
 以下、昨年の振り返りと、今年の抱負をもって新年のご挨拶と代えさせていただきます。

【振り返り】
 2019年、3つの仕事を通じて、無数のプロジェクトに取り組んだ1年でした。

<オイシックス・ラ・大地>
 オイシックス・ラ・大地全体としては、2018年度の食品通販売上高でイオン様を抜いて日本で最大になったと発表されました(通販新聞社2019年7月発表)。食の宅配流通プラットフォームとして一層の責任を感じます。
 海外では、4月にアメリカのビーガン食のミールキット宅配「Purple Carrot」社を完全子会社化。12月には、香港にてOisix Hong Kongが「Most Valuable Companies Award」を受賞致しました。また、中国に3年連続で有機栽培米を輸出、中国での展示会にも積極的に出店をして中国への食の輸出拡大の素地を作りました。
 なお、ジェトロの運営審議会の審議委員(農水産品の輸出に関する分科会)も務めさせて頂きました。


<東の食の会>
 2019年は、震災以降ずっと取り組んできた東北の食を、ヒーロー生産者達を、いよいよ海外に本格的に発信するフェーズに入ってきました。

・「東北グローバルチャレンジ」
 夏に「東北グローバルチャレンジ」プロジェクトを立上げ、単に食品を輸出するのではなく、東北の食文化を生産者がチームとなって海外に発信し輸出していく取組を始めました。
 11月には生産者の皆さんとともにパリとタイで体験型の試食商談会を開催し大きな手ごたえを得ました。
 その一環として、福島県相馬産の鮮魚をバンコクの最高級デパートの催事で販売し、震災後初めて福島の鮮魚をタイに輸出・販売することに成功しました。実は、2年前にバンコクに初めて相馬のヒラメが輸出された際、販売直前で現地で反対運動が起こり販売中止となったことが関係者の方々のトラウマとなっていただけに、それを乗り越えることができて感慨深いものがありました。

・「せかいむすび」
 2020年に向けて日本の食を世界に発信すべく、新たなプロジェクトを立ち上げました。日本のお米と世界各地の具材とを掛け合わせ、おむすびを世界の食のプラットフォームにしようという「せかいむすび」です。オリパラのホストタウン自治体が相手国の食材と地元の米・食材を使ったおむすびのレシピを考案し、相手国と一緒にOmusubiを握り、それが世界に広まっていくことを目指します。
 第一弾の岩手県釜石市では、地元の高校生とオーストラリアの高校生のラグビーチームが試合後に一緒におむすびを握りました。
 この取り組みは10自治体に広がっており、今年、オリンピックに向けてさらに広げていきます。(ホストタウン自治体につながりある方は是非ご紹介ください。)

・三陸水産業
 三陸では、「Fisherman's League」の下、漁師・水産加工業者による地域横断プロジェクトを手掛けており、今年は漁師主導で「ワカメ・サミット」を開催、また地域横断のウニ養殖プロジェクトも始動しました。
 「サヴァ缶」シリーズは、お陰様で累計販売数600万缶(売上約25億円)を突破、アーティストとのコラボ缶も生まれるなどさらに大きなりました。(今年は、日本を代表するバンドとのコラボ実現します!)
 三陸水産業で残る大きな課題の一つ、ホヤ(ホヤの課題をご存じない方はこちらをどうぞ)。大好きな食材でずっと「ほやラブ」キャンペーンを行ってきましたが、今年、ついにプロデュース商品「ホヤ缶」をローンチでき、順調に販路を広げています。ホヤへの愛を通じて日韓友好にもつなげたいと思っています。

・福島農業
 福島では、農家のマーケティング・ブートキャンプ「ふくしまFarmers' Camp」、福島の食のファンクラブ「チームふくしまプライド」の活動もさらに拡大し、多くの素晴らしい生産者に出会うことができました。
 そして、日本一のデパ地下、新宿伊勢丹店での催事「サロン・ド・アグリ」(「復興」文脈ではなく、日本農業の本当によいものを紹介)で、2年連続、「チームふくしまプライド」のブースが一番の売上を上げて、福島農業最強説を証明したことが嬉しかったです。
 商品プロデュースも、福島の伝統的漬け床をリブランディングした「358」第二弾、Cool Agriとコラボしたリンゴ酢サイダー「リンゴスター」清水薬草店のお茶シリーズなど、ヒット商品の種を撒くことができました。ここからしっかり育てていきます。

・東北リーダーズカンファレンス
 東北の各界のリーダーたちのコミュニティが年に一回一堂に会する「東北リーダーズ・カンファレンス」を昨年は4月に福島で開催しましたが、再開したJヴィレッジ(福島県楢葉町)の最初のイベントになり、これも感慨深いものがありました。
 また、この東北リーダーズカンファレンスから生まれた地域リーダーのコミュニティーが、地域・世代を超えて拡大もしています。阿蘇の震災を受けて立ち上げられた「熊本リーダーズ・カンファレンス」第二回にも招いて頂き、さらに、大学生が中心となって「東北リーダーズ・カンファレンスU-25」も開催されました。東北の若者たちの優秀さと視座の高さ、アイディアの面白さに刺激を受けるとともに、東北が新しい社会のモデル基地になっていく未来が見えました。


<NoMAラボ>
 福島県南相馬市で立ち上げた「NoMAラボ」では、南相馬市を含め避難指示が出た12市町村というこの日本のフロンティアで、地域の課題を解決する事業を生み出すべく企業様と複数のアイディアの検討を進めてきました。まだ具体的なインパクトには結びついていませんが、今年こそ具体プロジェクトに落とし込みたいです。


【抱負】
 そして、2020年。

 オリンピックで世界の耳目が日本に集まる今年、「復興五輪」が掛け声に終わらぬよう、これまでの道のりと今の東北の姿をしっかりと世界に発信するとともに、残る課題にしっかりと向き合い、取り組むべき年だと思います。
 
 私自身、実践者として、国内外で、東北の食の、生産者の素晴らしさを、さらには震災後彼らをきっかけに生まれ始めている新たな価値観や社会のあり方を伝えます。
 国際オリンピック委員会は、東京・パリ・ロスと先進国で続く新しい時代のオリンピックにおいては、ソフトレガシー(経済活性化など)に加えて、人々の意識や行動がどのように変化したかという「ヒューマン・レガシー」が重要になる、としています。昨年11月にパリを訪れた際、パリ五輪のヒューマン・レガシー担当チームに対して、東北の震災復興についてプレゼンテーションをする機会を得ました。復興の先頭に立った東北のリーダーたち、とりわけ農業・漁業のヒーローたちの道のりこそヒューマン・レガシーであり、彼らを中心に、東北では価値観の変容を伴う新たな社会の形、新たなWellbeing(幸福)の形が生まれてきているという話をさせて頂き、パリの方々にも大きな反響を頂きました。
 今年、このいわば「東北ルネッサンス」のストーリーとデータをまとめ、東北からOne Voiceで世界に発信し、世界における東北の、福島の、イメージを覆したいと思っています。6月に今年は東京で「東北リーダーズカンファレンス」を開催し、東北のリーダー、生産者ヒーローたちとともに世界に発信します。
 海外では、「東北グローバルチャレンジ」プロジェクトをさらに推し進め、東北の食と食文化をパリやバンコク、さらに他の地域にも発信・輸出していきます。

 一方で、「もはや震災後ではない」と言うために残された課題にしっかりと向き合い、具体的に取り組みます。

 今年は福島の水産業に本格的に取組みたいと思います。三陸水産業、福島農業と来て、いよいよ福島の水産業。いまだ「試験操業」となっている福島の漁業の来るべき本格操業に向けて、新たなプロジェクトを立上げ、福島の漁業のブランドをしっかり取り戻すことに取り組みます。

 また、福島12市町村(原発事故により避難指示が出た地域)への帰還とこの地域の復興を進めるべく、「NoMAラボ」を通じて、テクノロジーを用いて社会課題を解決するプロジェクトを立ち上げ、このエリアを「ディープテック」(根深い課題をテクノロジーで解決する活動)の聖地にすべく活動していきたいと思います。

 世の中、SDGsが盛り上がっています。私もSDGsが掲げる目標自体は素晴らしいと思っていますし、その実現のために実践者として具体的なプロジェクトを同時多発で推進していくつもりです。ただ、SDGsが生まれた背景にある根本的な考え方としての"leave no one behind"(誰一人として取り残さない)という精神に則れば、日本でSDGsに取り組んでいる企業や団体は、何番の目標のために何をすればいいかとか、これは何番にあてはまるか、という小手先の話をする前に、この国で"誰一人として取り残さない"ために、福島の課題から目をそらさずに、One Teamとなって取組み、乗り越えるべきと思います。

 東日本大震災から10年となる2021年3月がいよいよ迫り、いよいよ時の経過に追い詰められて焦りしかありませんが、一匹の窮鼠として、評論家ではなく実践者として、「もはや震災後ではない」にむけて走りまくる所存です。

 本年も何卒よろしくお願いいたします。

 2020年 初春 高橋大就


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