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『この子は邪悪』をより不気味に感じたい方に勧める2つのポイント

まずタイトルにある「邪悪」って単語のチョイスが良くないですか?日常生活でもなかなか使わないですし、なんならジョジョの5部でブチャラティが言っていたのを真似するぐらい。滅多に登場はしないが、みんな意味は知っている言葉、「邪悪」。

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『ジョジョの奇妙な冒険』5部より

タイトルに邪悪という言葉がある通り、不穏で不気味な空気感が終始漂う、ここ最近では珍しいタイプの映画です。

そんな『この子は邪悪』は、TSUTAYA CREATORS' PROGRAM(以下、TCP)作品。TCPはクリエイターの「発掘と育成」を目的とした「本当に観たい映画企画」の募集から映画化までバックアップを行うコンペティションです。

つまり、現役のプロのプロデューサ―陣を含めた審査員たちが「面白い!」と思った企画を映画化しているものなので、TCPの作品にはエッジの効いたスパイシーで良質な作品がそもそも多いのです。そして『この子は邪悪』は2017年の準グランプリ作品。映画化を勝ち取った”邪悪さ”に要注目です。

不穏(褒めてます)で、不気味(褒めてます)で、気持ち悪い(褒め以下略)んですが、良い意味でのそんな空気感を、より感じながら鑑賞するために、ぜひ意識していただきたいポイントを2つご紹介したいと思います。

(C)2022「この子は邪悪」製作委員会

ストーリー

遊園地で遊んだ帰りに交通事故に巻き込まれてしまった家族。母親は植物状態、父親は足に障害が残り、次女は顔に大火傷、唯一無事だった長女もそのことに負い目を感じ、心に深い傷を負ってしまう。

自分と同じ境遇だと長女に近づく幼馴染の少年、街に広がる謎の奇病、そして目覚める母。”奇跡が起きた”と泣きながら自分を抱きしめる母に、何故か長女は母親ではないのではないかと違和感を感じてしまう。

ポイント①:どの子が邪悪?

タイトルの”邪悪”にばかりフォーカスしてしまいましたが、邪悪なのは「この子」です。じゃあその「この子」ってのは一体誰なんだ?という事を考えながら観るのが、作品を楽しむ良いポイントだと私は思います。

(C)2022「この子は邪悪」製作委員会
(C)2022「この子は邪悪」製作委員会

主要登場人物は、長女(南沙良)、彼女と心を通わせる少年(大西流星)、精神科医の父親(玉木宏)、4年の植物状態から目覚めた母親(桜井ユキ)、そして顔に負った大火傷を隠すために仮面をつけて日常生活を送る次女。

父母は”子”って年齢でもなさそうだし…そうすると「この子」は長女か、次女か、少年か。疑心暗鬼になりながら、各キャラクターの一挙手一投足に注目してみて下さい。

”タイトルの意味を考えながら観る”というのは私が日常的に行っている鑑賞方法で、この結果、鑑賞中に見えてくる事も多く、鑑賞後の余韻に一役買うのでオススメです。

例えば、是枝裕和監督の『三度目の殺人』。

(C)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ

殺人の前科があり、さらに解雇された工場の社長を殺害して死体に火をつけた容疑で起訴されている男(役所広司)と、勝つことに拘り彼の弁護を担当する弁護士(福山雅治)を主軸に描いた法廷ドラマです。

役所さん演じる2回もの殺人を行ったとみられる男、しかし映画のタイトルは『三度目の殺人』。2回は分かるけど、3回目ってどれや…?と思いながら観ることで、この映画の鑑賞後の捉え方が変わります。

『この子は邪悪』も、「どの子が邪悪?」と考えながら観ることが、映画の感じ方により深みを持たせてくれると、私は思います。

ポイント②:音が邪悪

(C)2022「この子は邪悪」製作委員会

注目していただきたいのは、音楽ではなくて「音」です。音の場合でも注"目"って言うのかな、と思って調べたら、やっぱり言わないんですね。「傾聴」とか「静聴」って言うみたいですよ、脱線しましたスミマセン。

”傾聴”いただきたいのは「音」です!

キーボードを打つタイプの音、ノートにボールペンで字を書く音、プリンターの印刷音、木造階段の軋む音、日常ではあまり気にならない生活音が、ことごとく鑑賞者の不安を煽るように耳に届きます。

2021年まで、アカデミー賞に「録音賞」というミキシング(現場で録音されたセリフや効果音等の全ての音源を組み合わせ、各サウンドを調整しバランスを整える作業)を評価する賞があったことから分かるように、場面に応じてどのように音を組み立てるかというのは、映画製作において非常に重要なポイントです。

『この子は邪悪』の音楽はそれ主体というよりも、生活音を強調するような形で添えるように流れている、という印象を受けました。その結果、音楽と生活音の大小で不気味さが伝わるようミキシングされていた事で、”音の引き算”が秀逸な作品であると私は思います。

(C)2022「この子は邪悪」製作委員会

そして劇中においても、とある「音」が物語上、非常に重要な意味を持ちます。『この子は邪悪』では「音」による演出が必要不可欠なのです。

またまた脱線しますが、個人的に”音の引き算”の究極系は「無音」だと考えています。アルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』では、空気が無く音の聴こえない宇宙空間のシーンに、無音もしくは心拍音だけという音数の少ない演出が多用されています。

(C)2013 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

音の数が少ないからこそ"邪悪"な雰囲気が伝わる音の演出を、ぜひ耳で感じながら鑑賞してみて下さい。

おわりに

・タイトルの意味を考える
・音に注意する

この2つのポイント以外にも、分からない事だらけの冒頭から、少しずつ真相が明らかになってくるストーリー展開も素晴らしいです。美男美女が出てくるのに全員不気味(褒めてます)ってのも、なかなかない。

あとそうですね、「音」に注意して欲しいので、是非とも映画館で観ていただきたいです。”気持ち悪い(褒めてますよ、何回も言うけど)音”も結構あるので、その辺も劇場の良い音響で「うわっ…」ってなって欲しいです。

そんなネガティブワードが全て褒め言葉になる『この子は邪悪』、ぜひ映画館でご覧ください。ではまた次回!


※「音」に関する記述をしましたが、より深くお知りになりたい方は過去のこの記事も良かったら読んでみて下さい。

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芦田央(DJ GANDHI)
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