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映画プロデューサー流<顧客ニーズの掴み方と表現方法>

現役の映画プロデューサーである、松竹株式会社の石塚慶生さんにインタビューをし、過去に携わった作品について詳しくお話をうかがいました。

石塚慶生
松竹プロデューサー
2003年に松竹に入社。プロデューサーとして『子ぎつねヘレン』、実写版『ゲゲゲの鬼太郎』(二作)、『はじまりのみち』、『日々ロック』、『植物図鑑』、『ディストラクション・ベイビーズ』、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』などを手掛ける。『わが母の記』はモントリオール世界映画祭で審査員特別グランプリ、日本アカデミー賞の12部門で優秀賞を受賞。同作品で、プロデューサーとして藤本賞・奨励賞を受賞。

松竹映画「100年の100選」より

映画プロデューサーを職業という観点から、特に詳しく解説いただいた前編は下記からお読みください。内容的に後編から読まれても問題ありません。

 ー職業柄、映画をご覧になる時に意識されることはありますか?

小説やマンガを読む時は、おっしゃるように、どうしても自分のクリエイティブにどうフィードバックするか、自分の作品にどう取り込むかっていうことは、考えてしまいますね。

このカメラマンは上手だなぁとか、この俳優さんは存じ上げなかったけど良い役者さんだなぁとか、エンドロールでお名前を確認したりします。脚本や演出も気になります。面白ければ面白いほど、嫉妬もしてしまいます(笑)。

 ー映画プロデューサーならではのエンドロールの活用法ですね。

あとネクストブレイクアーティストを探すっていうのは、常にやっていて楽しいですね。まだそこまで有名でない方であれば、事務所に問い合わせをして会わせていただける事もあるので。自分たちがブレイク前に起用した方が、その後にブレイクしたらすごく嬉しいです。

『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の時でいうと、古川琴音さんと中田クルミさんとのご縁があったのは良かったですね。高畑充希さん演じる美咲役の友達は、新しい才能を探そうって監督と話をして、オーディションをしたんです。

『はじまりのみち』の時の松岡茉優さんもそうでした。その方々がその後、俳優としてどんな道を歩まれていくのかは、いち観客としても見ていて楽しいですし、あの時にご一緒できて本当に良かったなって思います。

松竹株式会社 映画プロデューサー
石塚 慶生(いしづか よしたか)氏

 ー大泉洋さんもそうですか?

最初に出会ったのは、『ゲゲゲの鬼太郎(2007)』のねずみ男役として。あの時の大泉さんは、実はまだスタッフの中にも俳優として知らないという人もいましたね。その後のご活躍は、みなさんご存知の通りですが。

『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話(2018)』では、原作を読んでいる時から、直感的に、主役は大泉さんにやってほしいと思っていて、それを前田監督にも言うと「そうだよね、これ大泉さんしかいないよね」という話になり。

その時には、彼はもう引く手あまたの大スターだったので、この仕事を受けていただくためには、脚本を読んでもらい、「面白い、挑戦したい、自分がやる意味がある」という風に思っていただく必要がある。

という訳で、さぁ良い脚本にするぞって開発が始まるんですが、ノンフィクションの原作ですから、小説ほどは起承転結がしっかりしていない。実話のエピソードを生かしながらも脚色が必要ということで、最盛期には2週間に1回くらいのペースで、監督と脚本家と3人、打ち合わせしては書いてさらに修正の繰り返し。

「大泉さんへの主演オファー」と目標を決めてから、彼の手に脚本を渡せるまで2年半ぐらいかかりました。

石塚さんよりいただいた
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』パンフレット

 ー確かに、もうすでに鑑賞したからというのもあるかもしれませんが、大泉さん以外のキャストは想像つかないです。

それに加えて、やっぱりお客さんを喜ばせたいので、「お客さんが観たいであろう大泉さん」像をうまくキャラクターに落とし込むべく、セリフやアクションとして脚本に生かしていただきました。いちいちぼやいてよく喋るっていう(笑)。また、こうしたハンディキャップを背負った人物の役は大泉さんにとっても初めてで、これも受けてくれた理由の1つかもしれませんね。

結局、こちらからお願いしていたわけではないんですけど、大泉さんは10キロ近く痩せて終盤の撮影に臨まれました。なので、映画のはじめと主役の鹿野さんが憔悴しているクライマックスあたりでは、全然肉付きが違っています。

 ーロケ地も、実際の鹿野さんが住んでいた建物で行われたと聞きました。

(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

撮影の準備がはじまった頃に、鹿野さんご本人が実際に住んでらした本物の部屋が、今も実際に使われてることがわかったんです。10部屋ぐらいの規模のアパートの一番端がその部屋だったんですが、「この時期に可能なら撮影したいんですが」っていう話をしたら、たまたま前に住んでいた方が退去するタイミングだったんです。次の方が入るまでの期間中、奇跡的に撮影に入れました。

そんな環境だったので、撮影中は、キャストもスタッフも少し緊張している様子でした。いつ何時、空の上から鹿野さんに見られてるかも分からないっていう、良いプレッシャーがあったのかもしれません(笑)。

同じようなことが、実は『わが母の記』の時にもありました。井上靖役の役所広司さんが使っていた書斎と居間は、これも奇跡的に実際の井上靖先生の自邸で撮影できたんです。世田谷区にあって、今はもう取り壊されてしまったんですけど、解体をギリギリまで待って下さいとお願いをして。

書斎と応接間だけは、そのまま旭川にある井上靖記念館に保存されていて、現在も見学できるようになっています。

(C)2012「わが母の記」製作委員会

「バナナ」の撮影時に、この記念館を訪れることができました。そういった、仕事で携わらない限り、触れることがなかったかもしれない人や場所、物事と関わりを持つことができるのは、この仕事ならではの醍醐味ですね。

 ー『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲監督とは、今ちょうど製作を進められている、浅田次郎先生原作の『大名倒産』でもご一緒されていますね。

 ー石塚さんが今まで携わられた作品は全て監督が違うので、再タッグは初となりますね。

そうですね、前田監督のことは作品でご一緒する数年前から存じ上げていて、いつか一緒に仕事しましょうって話をしていたんです。なので、「バナナ」を一緒にやらせてもらう事が決まると、お客さんに向けてどういうものを作っていけば良いのかというのを、率直に話し合うことができたのは良かったです。

やっぱり"意見交換をしながら磨き上げていく"っていう作業を一緒に取り組めて、しっかり結果を残せた事が次に繋がりました。相手の意見を聞きながら、じっくり煮詰めていくのが好きな2人なのかもしれません。

来年公開される『大名倒産』は、どういった経緯で企画が立ち上がったんですか?

原作が面白いから読んでみて、と前田監督から紹介してもらったことが始まりです。

さっそく原作を読んでみると、ページをめくる手が止まらない(笑)。登場人物たちが、実際の俳優のイメージとして頭の中にパッと出てきましたし、自分の中でおぼろげながらも映画全体のイメージができて、間違いなく面白い映画にできると確信しました。ただ同時に、これだけの原作から映画の脚本にするのは、とんでもない難題だとも思いました。

そこから脚本の開発を行いつつ、どれくらい予算が必要なのかを見きわめ、興行的なイメージも作り上げていきます。その映画におけるビジネスモデル全体をどう組み立てるのかは、プロデューサーの重要な仕事です。

そういえば、『大名倒産』でご一緒しているカメラマンさんはとても優秀な方なんですよ。「コンフィデンスマンJP」などを撮られている女性のカメラマンです。私も以前に『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』でご一緒した方です。「コンフィデンスマン」のようにポップな感覚で楽しく見てもらえる時代劇になりそうです。ぜひ、お楽しみに。

『大名倒産』については、まだお伝え出来ないことも多いんですが、引き続きの続報、そして2023年の劇場公開を楽しみにしていただきたいです。

 ー私たち観客は、ホントに美味しいところだけ楽しませてもらってるんだなと再認識しました。

映画だけではなくて、世に出ているものには等しく様々な失敗があって、試行錯誤の上で成り立っていますよね。お客さんからすると、その過程はなかなか想像できないと思います。

でも、その「想像する」という行為が、いかに映画にとって重要か、とも思います。

たとえば、「バナナ」を作るまでは、僕もハンディキャップを持った方達の生活については深く知りませんでしたけど、製作に携わることで、自分の実人生にとっても意味のある多くの事を学ぶことができました。これも映画製作の醍醐味です。

あまり詳しくないというお客さんでも、たまたま大泉さんが出てるからって観に来たら、「こういう現実もあるのか…すごいな」などと考えてもらえるかもしれない。学びみたいなものになるかどうかは人それぞれですが、映画には自分が今まで生きてきた目線がダイナミックに変わるというチカラがあると思います。

(C)2018「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」製作委員会

「バナナ」で気を付けたのは、社会的なテーマを、シリアスな雰囲気そのままにストーリー映画にしても、なかなか多くの方に興味を持ってもらうのは難しいので「どうエンタメにするか」ということです。じゃあ大泉さん演じる鹿野さんのキャラをどうするか、って。おチャラけてて、いい加減で、女好きで、たまに核心を突くような名言を言う、そんな人にしたらどうかと。

で、それは何かというと”寅さん”なんですよ。

言われてみると確かに、と思うでしょうけど、意外と気付かれない。こちらとしては、そういったことも楽しかったりするんです。

取材にご協力いただきありがとうございました。

(写真:若槇由紀)

2022,12,14追記
映画『大名倒産』主要キャストと予告編が公開されました。
来年の公開をお楽しみに!


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