映画プロデューサーのお仕事事情-監督とどう違うのか?現役のプロに聞いてみた-
”映画プロデューサー”がどんなお仕事で、映画製作にどのように関わっているのか。”監督”は何となく分かるけど、”プロデューサー”は?
ご存知ないという方も、意外と多いのではないでしょうか。
現役の映画プロデューサーである、松竹株式会社の石塚慶生さんにインタビューをし、プロデューサーという職業とは、普段どのようにお仕事をされているのか、また過去に携わった作品について詳しくお話をうかがいました。
ーずばりなんですが、映画のプロデューサーさんって、どんなお仕事なんでしょうか?
建売住宅を建てる際の施工主みたいなイメージが分かりやすいかもですね。建てるにあたっては、場所や価格帯、購入者のイメージなどの、グランドデザインを「施工主」が決めると思いますが、プロデューサーはそういった立場の仕事になります。この場合、家が映画にあたります。
販売する家を建てるためにはまず、資金が必要です。そして回収することが重要。まずはその構想を立てなければなりません。そして、監督やスタッフを指名して雇うのもプロデューサーです。で、家を建てるのに必要な設計図が、映画においては脚本というわけです。
家の施工だと、内装やる人、外装やる人、水道と電気引いたりだとか、それぞれの専門職を集めてくる必要がありますよね。
そういった技術を持った職人さんをまとめて、実際に現場で指揮をする方、いわゆる現場監督が、映画製作においてもイコール監督です。
ー資金集めについて、プロデューサーはどのような動きをするのでしょうか?
松竹の場合は調整部という部署がありまして、そこは映画を作るための企画書と脚本を出資者にプレゼンして、営業して資金調達をしてきてくれるチームです。
収益が見込めるか、その作品に関わってどんなメリットがあるか、などのいろんな条件で判断し、出資してくれる人達が集まってくる、それで製作委員会ができる、という流れになります。ですので、作品ごとにその製作委員会の構成も変わります。
ー会社に所属されていないプロデューサーさんなんかもいるのですか?
たとえば企画を持ち歩いて提案していく事がメインの、フリーのプロデューサーもいらっしゃいます。撮影現場でスタッフやキャストのスケジュール・予算管理を行うことに特化したプロデューサーはラインプロデューサーと言われますし、映画プロデューサーという職業も千差万別です。
フリーのプロデューサーで、もう一つは自身でプロダクションを持っていて、映画を作りたいと思った時に、テレビ局のプロデューサーと組んで一緒に製作していくっていうケースもありますね。
ーテレビ局のプロデューサーさんとタッグを組んで動かれることもあるんですね。
『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の時は、日テレさんとパートナーでした。企画・脚本はある程度こちらで進めておいて、大泉洋さんが主演に決まった段階で、日テレさんにプレゼンして一緒にやっていきましょうということになりました。
それからさらに、脚本をこうしたいですよねとか、キャスティングとか宣伝プラン、ヒットさせるためにお力を借りて一緒に進めていきます。プロデューサーはそれぞれで色んなルートを持っていますからね、どこどこの事務所さんに強いとか。そうやってお互いに知恵を出し合いながら、さらに作品を良くすることを追求していきます。
テレビ局側の目線で言うと、せっかく映画を作っても、自身で劇場を持っているわけではないので、配給と組まないと映画館で上映することが難しいという事情もあります。つまり自社で商品は作れるんだけど、ウチとか、東宝、東映、ソニー、ワーナーなどの配給会社と組まないと、その商品も映画館に、つまり店頭に出せない。
各社の特色・背景も加味して、テレビ局さんは「配給をどこにお願いしようかな」と選ぶわけです。
ちなみに、売れてる原作の映画化をしようとすると、やはり競合各社がオファーに来ていて、プロデューサー達があの手この手で映画化権を取りに行く、という競争が発生します。なので、売れてる原作モノの映画をたくさん手掛けられているプロデューサーは、企画力と実現力が凄いってことです。
ーそういったお話を聞くと、漫画原作などの映画のクレジットで、プロデューサーさんのお名前をチェックしたくなりますね。
ークレジットには、”エグゼクティブプロデューサー”というのもよく見かけます。どんな役割の方なんですか?
エグゼクティブプロデューサーは、企業でいう役員の様なポジションの人です。わが社の場合ですと、映像本部・演劇本部・事業本部・管理本部っていう大きく4つの部署がありまして、僕のいる映像本部の取締役、松竹が年間で製作するすべての作品の決裁権を持った人が、エグゼクティブとしてクレジットされることが多いです。戦国時代だったら「総大将」といったイメージでしょうか(笑)。
会社組織なので、僕もそういった方々にハンコをもらいに行きます。
ーお仕事柄、いろんな会社や現場に行かれたりすると思いますが、リモートワークをすることはあるんですか?
脚本やキャスティングなどの打合せはリモートでもできますが、実際に製作現場が動き始めて撮影の準備がはじまると、リモートはもう絶対無理ですね。スタッフさんがいて、役者さんがいて、衣装さんやメイクさん、みんなで衣装や小道具を実際に触ったり、見ながら相談したり、ロケ地に集まって撮影することになるので、そういう意味でリモートは難しいです。
撮影は天気や時間などに大きく左右される生モノなので、ハプニングも起きますし、その際には現地での対応も必要です。『はじまりのみち』の時なんかは、川が増水して渡れなくなってしまい、もう1回撮影に来ないといけなくなるという事がありました。そういう物理的に難しい事象もあるので、毎回、現場で判断です。
ー加瀬亮さんと濱田岳さんが川辺で話してるシーンですね。
そうそう、「『陸軍』って映画観たんだよね」って話をしてるシーンです。だから撮影中は、毎日欠かさず天気予報のチェックも細かくしてますよ。朝起きて、予報を見て、今日の気温はどうだろう。それによって対処を考えるというのも仕事の1つです。
ーキャスティングに加えて、スタッフさん選び、”スタッフィング”もプロデューサーが担当されるんですか?
監督には、自分がこうしたいっていう世界観を作るために、どのスタッフさんが必要っていう強いこだわりがあります。ですので、カメラマンや照明さん、美術さんなどは、監督が信頼しているスタッフにオファーすることが多いです。
とはいえ、皆さん他の現場からもひっきりなしに声がかかる有能な職人さん達なので、スケジュールが合わない場合もあります。その時はプロデューサーから監督に、代わりのスタッフ候補を提案することもあります。
優秀なスタッフさんは噂にもなるので耳にしたり、もしくは社内のプロデューサーが過去にご一緒した方で「この分野が得意な人いる?」などと聞いたりします。こういう情報はかなり重要で「1回会わせてほしい」と頼むこともありますね。
ー職業という観点に話を戻しますが、映画プロデューサーってどうやったらなれるんでしょうか。石塚さんはTVCMの世界から入られたそうですね。
僕の小学生とか中学生時代は、ヤマト・ガンダム・マクロスなどのアニメ作品がすごく盛り上がってたんです。その後「東京ラブストーリー」とか、テレビドラマの人気が高まって、流行に乗って、まんまとアニメから実写ドラマの面白さに惹かれていきました。
その当時、テレビ局には大ヒットドラマを手掛けた優秀なプロデューサーが沢山いたというのと、プロデューサーという仕事は、監督とも違う、作品のコンセプトも含めて全体を見ているんだという事が調べたら分かり、興味を持つようになりました。その流れでテレビ局の入社試験を受けました。
ただ、当時のテレビ局は就職先としても、とても人気で競争率が高く、全部不採用になっちゃいました(笑)。そんな中、採用してくれたのが、東北新社っていうプロダクション、制作会社でした。東北新社ではTVドラマ部門に志願したんですが、コマーシャル部門へ配属になり、そこでCMの制作現場を10年ぐらい経験することになりました。そうこうしている内に、長編に挑戦したくなってきまして。
その頃、たまたま松竹が中途採用の募集をしてたんですよ。「30過ぎたらプロデューサーになりたい」と漠然と思っていたので、応募したらありがたいことに採用されて。そこからあっという間に20年が経ちました。
ーこれからプロデューサーになりたいという方は、どうすれば良いんでしょうか。
会社組織なので、映画の制作会社や配給会社に入社すればチャンスはあります。プロデューサーとして作品に関わる部署に、志願して異動できる人もいますし、当然できない場合もある。でも、人事部門にいた方が異動してプロデューサーをやっているというケースもあるので、やはり諦めないことが大事だと思います。
ー若い方、新卒の方でもその部署へ配属されたりするんですか?
わが社に限っては、なかなかないですね。ある程度の経験を積んできたスタッフが来る傾向にあります。一般的な会社と同じ様に、若い方はジョブルーティンでいろんな部署を回って、様々な経験を積んでからウチの部署に異動になることが多いです。
ー松竹さんにも出向ってあるんですか?
松竹撮影所というプロダクションだったり、松竹衣装という衣装会社だったり、あとは映像センターと呼ばれる主に編集を担当している会社など、グループ会社がたくさんありますし、そこに出向するケースもあります。また各社で、現場経験を積んでからプロデューサーになるという方もいますね。
ー変に勘違いをしていたわけではないですが、本当に”会社”ですね。
そうです。なので、きちんと売り上げを立てていかないと、残念ながら自分の査定評価も下がります。ただ、難しいのは、自分の企画したプロジェクト=映画作品の1本を仕上げるのに何年もかかったりするので、自分の関わった映画が公開されない年も発生するんです。
その間の査定はどうなるのか、ということがあるので、着々と企画や脚本を進めて、製作過程における結果を残しておかないといけないのです。
ーたまたま別のプロデューサーさんとお話しする機会がありまして。なぜ「映画」というメディアでなくてはならないのか、という事を意識されていてとても新鮮でした。漫画・小説・舞台でもなくて、なぜ映画なのか。
ー石塚さんは、映画というメディアがどのような特徴を持っているとお考えですか?
映画自体も時代と共に変遷しているというのは間違いないですよね。3Dが流行った時期もありましたし、今は4Kリマスターブームが来ています。配信プラットフォームの台頭も大きいですよね。これによって配信作品との差別化をしなければならなくなりました。お客さんにはサブスクだけではなくて、やはり映画館に足を運んでほしいですから。
他の業界と同じですが、お客さんの生活スタイル、満足度やニーズの変化を考えて、喜ぶものを提供し続けないといけません。定番の商品も大切にしつつ、ちょっとマニアックな商品も提供したり・・・。そういったバランスも考えながらですね。
定番商品は、たとえば東映さんであれば仮面ライダーとかプリキュアとか、東宝さんですとゴジラですよね。ウチで言うと寅さんです。
話を戻すと、映画というメディアは、僕自身の原体験で言えば、やっぱり自分が持っている価値観ではないものを提供してくれるものだと思っています。単純に笑って面白い時も、感動体験もあれば、泣いたり、怖い体験もある。自分の感情が揺さぶられる、それをわずか2時間で味わえる、しかも一生忘れない時もある。
ー何か印象に残っている作品はありますか?
先日、何十年ぶりかに『ブエノスアイレス』が4Kバージョンになったということで観に行ったんですけど、とんでもないなこれは…と改めて思いました。今観てもなんでこんなに凄いんだと。最初に観た20代の頃の自分は、さぞかしもっと驚いたんだろうなって。
帰宅してからすぐにサウンドトラックを引っ張り出して、聴きました。壮大なイグアスの滝と男二人の壮絶な生きざま。この映画が、自分にずっと寄り添ってくれるというか、格好つけて言うと一生添い遂げることができる。そういった力がやはり映画にはありますね。
ー映画館でしかできない経験ってありますよね。
だからこそ、”そのうち配信されるから映画館に行かなくても良いかな”って思われてしまうのはとても悲しい。確かにお客さんは、お金を払って、時間を作って観に行くので、当然ミスをしたくないでしょう。2時間も使いたくないからファスト映画になるという方もいる。でもそこに抗い続けていきたい。
その点『トップガン マーヴェリック』はやっぱり凄かった。映画館でこそ真価を発揮しますよね、ファスト映画で観てもしょうがないですから。こういった観る人を圧倒し歓喜させる映画がたまに生み出されるし、自分でも生み出してみたい。そんな夢を見ることができるから、この仕事はやめられない(笑)。
ー製作に携わる方の苦労あっての映画という事をあらためて感じました。
映画製作は携わる関係者の人数が多いし、その過程でいろんな人の意見や要素が入ってくるから、行き先がブレることも多々あります。それを調整してゴールまで持って行く仕事が、プロデューサーだと思っています。
たとえば、僕と監督が『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』で主演を大泉さんにお願いしなければ全然違う作品になっていたと思います。でも、大泉さんにオファーを受けていただいた事から一つの方向が定まり、そこからもっと大きな作品に広げていく事ができました。そこには運命や縁もありますけどね(笑)。
最初の話に戻りますが、映画製作は一つ一つ足場を固めて、安全とクオリティを確保しながら、みんなで理想の家を建てていく、そんな作業に似ています。
ーありがとうございました。
ー後編では『こんな夜更けにバナナかよ愛しき実話』やそのほかの過去作品、加えてまさに今、製作を進められている2023年公開予定の新作『大名倒産』についても詳しくお聞きしたいと思います。
▼後編はこちら
(写真:若槇由紀)
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