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22 人影の石(HUMAN SHADOW ETCHED IN STONE )が語り掛ける

G7広島サミットが終わり、各国の首脳が話し合った内容がニュースや新聞、インターネットでも発信されています。被爆地広島で行われたことは大きな波紋を広げています。平和というものについて世界がどのように考えたのかに多くの人々の視線が向けられたように思います。

中でも、ウクライナから来日したゼレンスキー大統領のスピーチに今回のコラムでは注目することにしました。ゼレンスキー大統領は、このように記者会見の冒頭で述べていました。「私は、戦争によって「人影の石」のように歴史の石に影を残すのみになってしまったかもしれない国からここに参りました。」私は、この言葉を聞いた時に過去に3回ほど広島を訪れた時に目にした原爆資料館のある展示物のことを思い浮かべました。最初は、学生のころ、2回目は教師になりたての頃、そして3回目は戦後70年をむかえる年に行われた平和教育のシンポジュウムに参加した時のことでした。人影の石は、爆心地に近い建物の入口にあった石造りの階段の一部をそのまま切り出して展示しているものです。1945年の8月6日、多くの人々がそこに暮らし、生きていた場所に原爆が投下されました。原爆は、着弾と同時に強烈な光と熱線を発し、そのすさまじい威力は階段を白く変色させ、人が腰掛けていた部分だけを影のように黒くしました。人影とはその黒く残された色を指しているのです。

ゼレンスキー大統領は、冒頭の言葉に続いて、「わが国の英雄的な人々は、戦争そのものを“影”にするために歴史を巻き戻そうとしています。」と言葉をつづけました。大変に強いメッセージがその後も続いていきました。その様子は、現在もYouTubeで視聴することができます。まだご覧になっていない方は、一度、視聴してみてください。

話を戻します。ロシアの侵攻に直面し、国を守り続けているウクライナの人々を代表して、ゼレンスキー大統領はいくつかの提案をしています。そのひとつ目が、冒頭から述べている「世界から戦争をなくす」というメッセージです。ロシアの侵攻を止める、戦争を終わらせる方法として「平和のフォーミュラ(公式)」というものを提唱しています。会見の中では、「その最初の項目は、放射線と核の安全”です。」と述べ、具体的に大統領自らがその中身について触れています。この「平和のフォーミュラ」には10の項目があります。すでに、国連決議によって確認されていて、ロシアがウクライナに対して行っている戦争を阻止するために必要な内容が含まれています。ちなみに、フォーミュラとは方程式とか構造式といった意味です。

具体的にゼレンスキー大統領が提唱している平和のフォーミュラにはどのような内容があるのかを見ていくことにします。紹介するのは、昨年の11月にG20首脳への演説で戦争終結に向けて提案された、10の項目です。

1.放射線・核の安全 2.食糧安全保障  3.エネルギー安全保障  4.全ての被拘束者と追放された人々の解放

5.国連憲章の履行とウクライナの領土一体性と世界の秩序の回復  6.ロシア軍の撤退と戦闘の停止  7.正義の回復

8.環境破壊行為対策  9.エスカレーションの防止  10.戦争終結の確認

中国などが12の項目からなる和平案を提案する動きもありましたが、ゼレンスキー大統領はそれ良しとせず、侵攻を受けているウクライナの提案するこの10の項目に沿って行われるべきであるという意思を示しました。ここからも、当事者としての強い意志をこの平和のフォーミュラに込めていることが伺えます。

国際連合、通称、国連の安全保障理事会の常任理事国は5カ国あります。その1カ国がロシアです。多国籍軍の派遣や侵攻しているロシアへの非難と即時撤退をたとえ求めたとしても、常任理事国には拒否権があり、一国でもこの拒否権を発動すれば、国連は手を出せないのです。そうした状況の中、だれも止められないロシアをとめようと、ウクライナ国民とゼレンスキー大統領は立ち向かっているのです。ゼレンスキー大統領が世界の支持を集めるために様々な形で発信しているのもこうした理由からなのです。

「広島は、戦争からの復興を成し遂げた都市です。ウクライナは、戦争で荒廃した姿に今ありますが、私たちは必ず復興させます。」というウクライナのリーダーの言葉は、世界を代表する為政者の一人としての自負に満ち溢れていると私は感じました。国際社会は大きなつながりの中で平和も共有していることを、私たちはしっかり学び、考えていかなければいけないのではないでしょうか。

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