457 全国学力学習状況テスト「危機感」
はじめに
7月29日、全国学力学習状況調査の最新のデータが公表されました。今日の教育コラムは、この結果から見えてくることを少しお話してみたいと思います。
全国学力テストとは
このテストは、小学6年と中学3年の全員を対象にした文部科学省のテストと実態調査です。テストの実施日や方法などは厳格に定められています。事前に問題に関わる直接的な指導を行い、正答率を引き上げようとすることができないように、問題の郵送日や保管場所なども事細かに定められています。
せて、今年の全国学力テストは4月18日に行われたわけですが、その結果が昨日、7月29日に公表されました。
今年は、3年ごとに行われる理科の無い年でしたので小学校は、国語と算数のみのデータとなります。また、中学校は3年ごとに理科や英語が加わりますが今年はありませんでしたので、国語と数学になります。
では、この結果を少し見ていきたいと思います。
小学校の結果
小学校の結果ですが、問題数は国語が14問、算数が16問だということを把握しておきましょう。正答率で結果はあらわされます。全問正解なら正答率は100%となります。国語の平均正答率を見ていくと、1位は秋田県で73%、平均正答数は10.2問でした。 2位が石川県、3位が福井県と続きます。
また、算数の平均正答率1位は東京都で68%、平均正答数は10.9問でした。こちらも 2位が福井県、3位が石川県と北陸地域の強さが見てとれます。最下位は、国語が岐阜県、愛知県、滋賀県、算数が沖縄県となっています。
全国の公立小学校の平均正答率は、国語が67.7%、算数が63.4%となっていることからも上位の都道府県と中間との差はかなり大きなものとなっています。10位までの都道府県の平均正答数と正答率をまとめたものが下の表になります。因みに山梨県の小学校の結果は、国語16位、算数31位という結果でした。
中学の結果
中学の結果は、大変な事態となっています。全ての学習の根幹ともなる国語の正答率が58.4%で過去最低となりました。中でも「読む」の技能に課題があることが強く出ています。下の表は、上位の都道府県の結果です。上位勢は、高い正答率ですから中盤より下の都道府県との開きが大きいことを意味します。
前年度との比較をするとわかりやすいのですが、12ポイント近く下降しています。19年度に現在の出題形式に切り替わっていますので、問題に慣れていない、とかいう問題ではありません。本質的に読む力や国語力が低下しているのです。「読む」技能については、危機的状況だと言わざるを得ません。
全国学力テストは、国公私立に通う小6と中3を対象に毎年行われていますので、その変化の様子で教育行政にも大きな影響を与えます。指導の方針や教育の改善方向などもこの結果から見定めていくことが予想されます。
また、対象者は全ての小中学生を基本としていますので、約190万人のデータがもとになっている結果と言えます。各個人に学校から返される個票と全国の正答率を比較すると自分の課題や学力の状況がつかめます。
さて、中学校の国語の実態をもう少し見ていくことにしましょう。国語には、ご存じのように身に付けるべき4技能があります。「話す・聞く」「読む」「書く」の技能別です。その中の「読む」の正答率が48.3%となっているわけです。半数も解けていないことになります。これだけ見ても、前年度比で約16ポイント近く減っています。一方「話す・聞く」は59.1%ですし、「書く」は65.7%でした。こうしてみると読む力がいかに低いかがわかります。
さらに注意すべきは、問題形式別で見た時に記述式の正答率が46.1%と低く、無解答率が高い問題もあったことです。中学の国語に何がどのように影響しているのかを次に考えてみたいと思います。
教科別に見てみると
教科ごとに成績を見ていくことにしましょう。また、前年度との比較もしてみます。小学校の国語の正答率は67.8%ですが、これは前年度比でプラス0.4ポイントです。小学校の算数は63.6%でこちらも前年度比でプラス0.9ポイントになります。
中学校の数学については、平均正答率が53%ですから前年度比でプラス1.6ポイントになります。そんな中で、中学の国語だけがマイナス11.7%ですから問題の質の違いなどを考慮しても、大きな変化であることには違いありません。この原因を児童への学習状況調査アンケートから推察することが可能です。全国学力学習状況調査とよばれるくらいですから、児童が日々、学校や家庭でどのように過ごしているか、学習と向き合っているかなどの状況についてもアンケート調査がされます。
この結果に一つの原因が見えてきます。それが、スマホを用いてSNSや動画視聴を行う時間が増せば増すほど、正答率が下降していくことです。これは事実としてかなり明らかな傾向です。スマホが学力を下げていると勘違いするのではなく、学習の時間にまで余暇の時間が浸食していると見た方が良いのです。手のひらに電話と双方向の会話機能とテレビやパソコンが乗っていると思ったら人間ですからどうしても使ってしまいます。また、友だちに返事を返さないと付き合いが悪いと思われたらと心配になる子は、学習の途中でも返事を返すでしょう。
文字に触れているようで
インターネットをたくさん利用していることで文字に触れていると勘違いしてはいけないのです。語彙を獲得する上で動画を見たり、コメントを読んだりしているようで、自分の好きなものだけを見ている可能性があります。つまり獲得しているものがかなり偏っている可能性があるのです。
するとどうでしょう、好きな本や好きな文章、好きな動画ばかり目にしていることになりかなり読む力は偏りのある状況で育まれていきます。
今回のテストで扱われたような文章に慣れていなければ、読む力の一部が低く出てしまうことになるのです。様々な文章表現に触れ、自分の文学的な教養や語彙を増やし、国語の力を育んでいく必要があるのです。
これは何も普段の生活だけに言えることではなく学校で扱う文章や読書の機会にも同じことが言えます。いずれにしても中学生になりスマホを与えるときは相当に気を付けていても学力の低下に結びつくことになりかねないということです。
今後の中学生への国語の指導が変化するほどの数値が出てしまったことは間違いないでしょう。
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