見出し画像

「不登校・隠れ不登校」と子どもたち

不登校の増加止まらず 文科省統計


不登校の子どもの数が、年々増加の一途をたどっています。

今年10月に発表された文部科学省の『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』によると、2020年度の小・中学校における不登校児童生徒数(新型コロナウイルスの感染回避や病気による長欠を除く)は、196,127人。
昨年度と比べて14,855人(8.2%)増えた結果となりました。

推移

推移2


「隠れ不登校」という言葉を知っていますか?


文部科学省の定義では、欠席日数が年間30日以上の状態が「不登校」であるとされています。

日本財団(2018)「不登校傾向にある子どもの実態調査」では、欠席日数以外の指標も設定し登校状態を6群に分けたうえで、それぞれのボリュームを把握するための調査が行われ、その結果が示されました。


6段階の定義は、以下のようになっています。

①-1 文科省の定義による不登校:欠席日数30日以上
①-2 文科省の定義外の不登校:欠席日数30日未満
②教室外登校:学校の校門・保健室・校長室等には行くが、教室には行かない子ども
③部分登校:基本的には教室で過ごすが、授業に参加する時間が少ない子ども (遅刻早退が1か月に5回以上など)
④仮面登校A:授業不参加型(基本的には教室で過ごすが、皆とは違うことをしている子ども)
⑤仮面登校B:授業参加型(基本的には教室で過ごし、皆と同じことをしているが、心の中では 学校に通いたくない・学校が辛い・嫌だと感じている子ども)
⑥登校


調査の結果としては、上記のうち
①-2から⑤(=「隠れ不登校」とされる状態)に該当する中学生の子どもが、調査対象6,450人のうち10.2%の割合でおり、不登校の子どもと合わせると中学生全体のうち、13.3%の子どもが不登校傾向にあることが示唆されました。

私自身、高校生時代にある教科の先生がどうしても嫌で年間11回その授業を休んだことがありましたし、保健室にしか来られない子、お母さんと一緒でないと来られない子、不登校ではないけれど休みが多い子など、同級生にも色々な子がいたことを思い返します。この調査でいう隠れ不登校にあたる子どもが10人に1人はいるということは、みなさんの実感としても決して外れてはいないのではないでしょうか。

ダイバーシティ工房が運営する『地域の学び舎プラット』には、2017年の立ち上げ以来、50名以上の不登校のお子さんが通ってこられました。
今回は「不登校・隠れ不登校」の実態を踏まえ、現場で支援にあたる立場からみたお子さんの事例を2つご紹介します。

直接こういったお子さんに関わる機会がない方には、子どもたちの気持ちに思いを馳せていただきながら、もしご自身のお子さん・身近なお子さんがそういった状態にある方がいらっしゃいましたら、対応について考えていただく一助となればと思います。

Aくんのケース:「小学校に入って入学式があって、その後すぐ嫌になりました」

画像6


Aくんは、中学1年生のときにダイバーシティ工房が運営する『自在塾』にやってきました。彼は、小学4年のときから登校時に腹痛を訴えるようになり、だんだんと登校頻度が減っていった、という経緯がありました。

2年ほど関わったあるとき、高校選びの話をする中で、過去に学校についてどう思っていたのか聞いてみたことがあります。中でも、

「小学校に入って入学式があって、その後すぐ嫌になりました」

という言葉が、そんなにすぐに嫌だったのね、と印象に残っています。
何が嫌だったのか尋ねると、

「時間割が決まっていたりとか、みんなと一緒の動きをしなきゃいけないとか、そういうのが無理でした」

と教えてくれました。
他にも、3年生のときの休み時間、クラスの友達と学校に隕石が落ちてなくなればいいのにと話していたことや、おばあちゃんに会うたびに学校に行け行けと言われることが辛かったと話をしてくれました。

ちなみに、Aくんのお母さんは行き渋りがあった当時について、

「毎朝引きずってでも連れて行っていた。その時は私もどうしたらいいのか必死だったけど、今思うと悪いことをしたなと思う」

と話してくれたことがあります。


不登校のお子さんを取り巻く社会資源の状況


各市町村には、教育委員会が設置する「適応指導教室」というものがあります(適応指導というのは制度的な名称で、実際は○○教室、○○ルーム、など個別の名称がつけられています)。

不登校のお子さんを取り巻く社会資源の状況にも、少し触れさせていただこうと思います。

学校に行かなくなった小学生時代のAくんは、市が設置する適応指導教室に見学に行きました。お母さんの話では、少しでも興味が持てそうなPCの活動の時間に行ったものの、入口で泣き出してしまい中を覗くこともできなかったそうです。

「無理かな」

そうお母さんは感じ、外出をしない生活がその後も続いていったとのことでした。遠かったことや、自習のような形式だったことも難しいと感じたそうです。

私たちが運営する『地域の学び舎プラット』でも、他にも子どもがいるなら行けない、という子も多くいますし、それ以外にも周りの音への敏感さがあったり、対人関係への苦手さや失敗経験などから不安な気持ちが強かったりと、様々なハードルがあり、かなり個別的に対応しないとそもそも場所に通うということ自体が難しいということを感じています。

プラット全体

(プラットの室内)


中学生になり、Aくんは学校内の適応指導教室に通っていた時期がありました。市町村や学校によって、学校内に不登校の子どもを受け入れる教室を確保している場合があります。この教室に通いだしたのは私たちの塾に通いだした後のことでしたので、様子について時折教えてくれることがありました。

学校によって運営方法や参加人数はかなり異なるようですが、Aくんの話では、

・生徒が自分以外に1、2名いる
・先生は時間割ごとに交代で来て、前の机で作業をしている
・先生には何か聞けば教えてくれるのだろうが、話すことはほとんどない
・特にこれをやるということがないので、することがあまりない

といった様子のようでした。

10時ごろに行きお昼前に帰る、という形を週に1~2回、数カ月続けていましたが、ある日、子ども2人に対し5~10人の先生で、机を丸く並べて給食を食べるような状況を作られたことが本当に嫌だったようで、

「行く意味がわからない」

と言い、それ以来教室自体に行かなくなってしまいました。


地域の学び舎プラット』『自在塾』では定期的に保護者にアンケートを実施していますが、不登校の子どもの通い先の少なさについては、保護者の方からも下記のようなご意見をよくいただきます。

今の学校教育に合わない、合わせられない子のためにもっと多様な教育を選べる支援を望んでいます。プラットが地域にあり、通えるようになりとても嬉しいです。プラットのようなところで日中学校に行くように毎日通って過ごせたらと強く願います。
不登校の子どもにも 1日安心していられる居場所と学習の機会 社会性を学ぶ機会を得られる場所がほしい。 


2021年10月に発表された文部科学省の2020年度の調査統計によると、全国の公立小中学校の不登校の子どもの中で、学校の“内外”で相談・指導等を受けていない割合は34.5%という結果になっています。

捉え方は様々あると思いますが、十分な選択肢がなく、それでも何とかしようと苦しい思いをしている家庭がかなりの数でいらっしゃるということは、ぜひみなさんに知っていただけたらと思います。


Bさんのケース:「学校が久しぶりで体が慣れていなかったけど、少し経ってこんな感じだったと思い出したからもう大丈夫」

画像8


小学3年生のBさんは、学校に行く時間になると動けなくなることが頻繁にあり、少し遅れて行ったり、親御さんと一緒なら行けたり、といった状態でした。

少しずつ色々な気持ちを話せるようになってきたBさんですが、「そういう感覚なんだな」と印象深いことを話してくれることがあります。

夏休み明けのことです。親御さんから連絡があり、やはり行き渋る様子があるとのこと。プラットに来た時に、9月から学校が始まったけどどう?と尋ねてみました。

Bさん:「不安だった」
私:「その不安な気持ちは変わった?それとも変わらない?」
Bさん:「変わった。学校が久しぶりで体が慣れていなかったけど、少したってこんな感じだったと思い出したからもう大丈夫

他にも、
「学校は楽しいと思うことがない」
「人と競うのが嫌」
なども話してくれました。

Bさんは、朝早く起きて好きなゲームをして気持ちを落ち着かせてから登校するそうです。まじめな性格なので、ちゃんと学校には行きたい、他の子と仲良くしたい、楽しいこと・色んなことを経験したいといったポジティブな気持ちもおそらく持っていて、自分なりに折り合いをつけて対処していることが本当に偉いなと思っています。

一方で、小学3年生の小さな子どもが、大変な早起きをしてまで気持ちを落ち着かせないと学校に行けないということ自体が、その子に課されている状況として、一人の大人としてはとても切ないなと感じざるを得ません。


「教育」に含まれる2つの考え方


教育には、
1.今あるものや、遊びから学んでいくタイプの教育
2. 出口から逆算するタイプの教育
という2つの方向の考え方があります。

後者は、自分にとってそれが意味のあることであると感じられないと、上手く取り組んでいくことができません。

教育2つ


「この人が言うならやっておいたほうがよさそう」
「この人がやれっていうことなんてやりたくない」


といった関係性の問題や、

「自分の○○という目標に、この勉強が必要だ」
「こんなことやったって意味ないでしょ」


といったタスク的な問題もあります。

「方程式なんてやって将来何の役に立つんですか?」

という子どもの疑問と、
「やらないと、とは思っているけど中々できない…」

という大人・子どもの姿は、古今東西のものです。


小学3年生で「学校は楽しいと思うことがない」と語るBさんの学校生活は、仮に高校卒業まであるとすれば、あと10年です。

・授業は楽しくなくても休み時間は楽しい
・1年に1回ある校外学習は楽しみ
・パソコンの授業は好き

など、少しでも楽しみを感じられる学校生活を送ってほしいと願いますが、もしそれが叶わず辛い学校生活が続くのであれば、いっそ学校に行かなくてもいいのではないかという思いも浮かんでしまいます(安易に選択できることはではありませんが)。こういった状況で葛藤している家庭が、実際に数多くいらっしゃいます。

画像9


第三者が関わる意義


『プラット』に来る子どもたちとは、学校生活が上手くいかなくなってから出会うことが多いので、先ほどの教育の二つの考え方でいうと、できること・楽しいことから関わりを作り、子どもが感じていることを聞いたりその子にとっての必要性を一緒に考えながら、将来に向けて必要だと思うことに時間をかけて取り組んでいく、という流れをとっています。

学校の中ではルールとしてできないことも多いですし、こうした子どもたちが学校の人に自分の内面に関わる話はしない場合も多いでしょう。

保護者の方も、自分の子が将来どうなっていくのだろうという不安を抱きつつ、家の中で動画を見たりゲームをしてばかりいる子どもの姿を見ながら、腰を据えてじっくり対応するというのも難しいことだろうと思います。

学校や家庭の中でできることももちろん多いとは思いますが、中で閉じずに、第三者が関わっていくことがやはり私たちとしては大事だと思います。

キャプチャ

特に、子どもの気持ちには言葉にできない・できていないことが膨大にあります(大人も同じですが)。

実際に、現状では全く勉強に取り組んでいないお子さんでも、

・(勉強は)やらないよりはやったほうがいいとは思っている
・将来に向けて何もしないのは不安

とこぼすことがあります。色々な子どもの姿を見ていると、ほとんどの子は大なり小なりこういった思いを持っているのではないかと感じさせられることが多々あります。

言い換えると、子どもの世界は「やりたいこと」と「やりたくないこと」に二分されているわけではなく、やりたいことだけを選ぶと社会との接点が少なくなってしまうことや、やりたくないことをやらないままでいいのかという不安を、表には出てこなくとも、子ども自身が実は感じている場合も多いようなのです。

私たちのような第3者が実際に関わることで、こういったものをキャッチできる関係性や、話しをする機会を作るということが、圧倒的にしやすくなるように思います。

行動選択



おわりに

もし悩んでおられる方、もしくは身近で悩んでいる方がいらっしゃいましたら、私たちが運営する拠点・サービスも選択肢の1つとしてご紹介ください。

放課後等デイサービス『プラット』
不登校や発達障害など、学校の内外でサポートを受けづらいお子さんの居場所として、可能な限りマンツーマンに近い状態で対応を行っています

個別指導塾『自在塾』
発達障害や不登校の状況にあったり、勉強への苦手意識が強いお子さんを対象とした個別の学習指導、進路相談を行っています


また、LINE相談「むすびめ」では、生活における困りごとの相談をなんでも受付けています。対象年齢や相談内容の制限は設けておらず、保護者の方からの子育てにおけるお悩み、お子さんからのご自身が抱えている学校や家庭での困りごとなどにご対応しています。ご利用の場合は、下記ウェブサイトより「むすびめ」を友達登録してください。


~ご寄付のお願い~
LINE相談「むすびめ」は、困った状況にある方と全国どこからでもつながれるよう、助成金やみなさまからのご寄付をもとに、利用料無料で運営をしています。昨年のサービス開始以来、多くの方にご利用いただき、相談から必要とされる支援へ展開させています。今後も1人でも多くの方に適切な支援をお届けできる相談窓口として存続できるようみなさまからのご寄付によるサポートを、よろしくお願いいたします。





文責:武笠隼士

画像11

「地域の学び舎プラット」責任者/社会福祉士
相談員として外部機関に出向後、2017年「地域の学び舎プラット」の立ち上げから関わり、同事業所内で行う『自在塾』『放課後等デイサービスプラット』「無料学習教室プラット』の管理を通しておよそ100名の子ども・家庭の支援を担当。


<関連記事>
子どもの権利保障と学びの深刻な関係

「子どもを勉強で追いつめない」3つのポイント

子ども達は、自分の学びのスタイルをよく知っている。その上で、大人にできることはなにかを考える


NPO法人ダイバーシティ工房は、発達障害や不登校の状況にあるお子さんの居場所となり、安心して学べる教室を運営しています。その他、医療的ケアが必要な子も通える保育園や、社会的養護の狭間に落ちてしまう女性のシェルター/自立援助ホームなど、あらゆる生きづらさと向き合い活動をしています。活動報告やイベントのお知らせを配信中ですので、ぜひメールマガジンにご登録ください!

メルマガバナー


最後までお読みいただきありがとうございます。 これからも、活動を継続してまいりますので、応援したいと思ったら、ぜひ「スキ」のボタンをポチッと押していただけると、励みになります! サポートをいただけることも、とっても嬉しいです。