おばあちゃんの愛が詰まったうちのカレーのヒミツ
このようなタイトルだと、なにか特別なレシピであったり、特別な隠し味が入ってると思われるかもしれないが、全くもって我が家のカレーは普通である。じゃあ何がヒミツなのか。
我が家のカレーのヒミツは肉に隠されている。
カレーの肉といえば、西は牛肉、東は豚肉を入れるという話題がテレビなどで取り上げられることがある。
私は関西に生まれ育った。だから、地域的にみればビーフカレーが一般的だ。しかし、小さい頃から家のカレーといえばチキンカレーが定番だったし、これが世間的にも普通だと思っていた。
実はこのチキンカレー。ちょっとしたうちの歴史が隠されているのだ。
小学生くらいの頃、どんなきっかけだったかは覚えていないが、周りの友達の家はみんなビーフカレーなのに、うちのカレーだけチキンカレーだということを知って衝撃を受けたことを覚えている。ものすごく小さなことだが、小学生のわたしにとっては自分の普通が、普通ではないことが大きな発見だった。家に帰って母にたずねてみた。すると母は『あ〜、確かに関西は普通は牛肉やなぁ。関西は肉といえば牛肉やからね。』と言った。そもそも『関西だから』というような地域によって定番があるということも驚きだった。ふと、そういえば、父は関東出身だからそれに合わせたのかな?と一瞬納得が言ってそのまま、それを母に尋ねると、『関東は、豚肉やで』と言われた。『え??じゃあ鶏肉はどこからきたの?なんでうちは関西の定番でもなく、関東の定番でもない鶏肉なの??なんで?なんで?』小学生の私の頭の中に?がいっぱいになった。
すると母は母の子供の頃の話を教えてくれた。母の父と母、つまり私の祖父と祖母は二人とも西日本出身。つまり牛肉文化地域の出身である。したがって、母が小さいとき祖母が作っていた家のカレーはもちろん牛肉だった。
しかしある時、突然祖父が病気となり生死を彷徨うこととなった。医者には『覚悟してください』『会わせたい人はすべて呼んでください』と言われるほど危険な状態だったのだそう。祖母は、もちろん祖父に死んでほしくない思いもあったと思うが、それに加え、もしものことがあった時のことを考えると気が気じゃなかったと思う。祖父は一人っ子長男。となると曾祖父母(つまり母の祖父母、祖母の義父と義母)の面倒を祖母が見なくてはならない。さらに母はまだまだ小さく手がかかる年頃。今でさえそのような状況になれば大変だが、女性が働くのは大変な時代を考えればなおさらだったのだと思う。泣いてばかりいる曾祖父母を尻目に祖母はなんとかできることは全てしようと立ち上がった。そして、祖父に元気になってほしい一心で色々なお寺や神社に行って拝んだんだそう。その中に『牛肉断ち』があった。
願いが叶うまでは牛肉を食べないというやつだ。牛肉はそれなりに高いので、そもそもそんなに食べる頻度は少ない気はするのだが、地域の文化が今以上に根付いている世代。その地域のいわゆる『肉』が食べれないというのはそれなりに我慢という感じだったのかもしれない。
お陰様で祖父は回復し、90を超えた今もなお二人揃って元気だ。
最近はアルツハイマーになったりして、こんなカレーの肉なんて小さなことを覚えているかわからないが、二人の仲の良さは健在だ。
祖母のカレーは母に受け継がれ、そして私に受け継がれている。この秘密が詰まったなんの変哲もないカレーはそのうち私の娘に引き継がれるだろう。
うちのカレーは普通のなんの変哲もないチキンカレー。けれど、その中にはおばあちゃんの愛情がたっぷりと詰まったヒミツがあるのだ。
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