育児から逃げファミレスへ 「フラリーマンの本音」に集まった反応。モヤモヤの価値 #ずるい文章術 vol.7
こんにちは、奥山です。
ウェブメディアをやっていると、たまに、
ありえない数字の「爆ビュー」を経験することがあります。
見たこともない数字が表示され、どんどんユーザーが増えていき、Twitterのシェアが止まらない。
これはこれで目指すべきゴールではありますが、
ちょっと気をつけたい瞬間でもあります。
デジタル空間では、無条件で賛同を得やすい正解が語られがちだからです。
ズバッとした意見を言う人が目立ち、何かを断定する投稿が多くの反応を集めます。断定調の文章はわかりやすく拡散もしやすいのは事実です。
その結果、反対意見を攻撃する〝焼け野原〟のようなビューの稼ぎ方をしてしまうことが少なくありません。
でも、考えてみてください。
多くの人は、それほど極端な考えをもって生活しているわけではありません。むしろ、どっちつかずの中にいるはずです。
だとするならば、そっちのほうが現実感があって、文章を超えて、デジタル空間を超えて、「つながり」に発展することが多いのではないでしょうか。
爆ビューより正解かも
実際、8年間編集長をつとめたwithnewsでは、そういう企画をいくつか手がけることができました。
連載をまとめて書籍にしたいというオファーをもらったり、担当者にイベント出演の依頼が来たり、プラットフォーム側から一緒に企画をしませんかと誘われたり。
そういう反応は「爆ビュー」に勝るとも劣らないうれしい成果だと言えます。
そして、それは、もしかしたらウェブでの発信の正解に近いかもしれないと思っています。
「爆ビュー」だけで終わっても、なんかむなしい。
企業だったらビジネスに結びつかないという現実的な問題があります。
withnewsで取り組んだ企画に「平成家族」というものがあります。
平成の30年間を振り返り、人びとの価値観の変化に迫った連載です。
この企画、連載にとどまらず、書籍化もされ、さらにそこから後継企画「父親のモヤモヤ」にもつながりました。
単なる「爆ビュー」で終わらなかったのです。
どうしてか?
「平成家族」でよく取り上げたのが、育児に向き合う男性のリアルな姿です。例えば、育児参加を前にモヤモヤしている男性を取り上げたこの記事。
子育てに参加できるよう早めに退社できる会社の制度を使ったのに、家には帰らずファミレスで時間をつぶす男性、通称「フラリーマン」の実態を伝えています。
家事が不慣れなため、妻から「タオル、たたみ方がまた違うよ」といった注意をされ、それがストレスとなり、帰宅したくなくなってしまったという本音を紹介しています。
男性の子育てが広がる一方、育児に参加できる時間が十分とは言えない。男性たちの職場の意識も急には変わらない。結果、依然として母親中心の状態が変わっていない問題が背景にありました。
もちろん、フラリーマンの男性は自分の行動に非があることは自覚しています。
わかっているのに、やめられない。煮えきらない気持ちがリアルです。
従来のアプローチなら、仕事も育児も完璧にこなす夫婦のモデルケースを伝え、そこからユーザーがまねできるメソッドを紹介するのが一般的な書き方だったでしょう。
あるいは、夫婦間の摩擦が離婚のような事態に発展した事例から、そうならないための解決策を探るという伝え方になるかもしれません。
モヤモヤをそのまま伝える
しかし、記事では、フラリーマンの男性を否定も肯定もせず、
ただ、そのモヤモヤした姿をそのまま伝えています。
結果、理想の姿や最悪のケースがなくても、記事の背景にある問題を自分ごととして受けとめてもらえたのだと思います。
モヤモヤによって「私はこう思う」「私はこう感じる」といったユーザーの気持ちの入り込む余地が生まれる。
そして、自分の思ったこと、感じたことを発信したくなる。
わかりやすい結論に偏りがちなデジタル空間だからこそ、
日常に寄り添う中で見つけたモヤモヤが輝くのだと思います。
といったことを『スマホで「読まれる」「つながる」文章術』という一冊の本にまとめました。「知りたい」の次に来る「支えたい」という気持ちへのアプローチ、防げたかもしれない炎上トラブルのパターンなど、実際の事例を踏まえて紹介しています。よろしかったらぜひ。
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