「普通の人の普通の1日」をコンテンツにできるか試したら…全然、できた #ずるい文章術 vol.6
こんにちは、奥山です。
ウェブメディアwithnewsで8年、編集長をやってきたのですが、
1日も更新は欠かしませんでした。
当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これ、けっこう大変です。
ニュースってなぜか大きなことが続けて起きたかと思うと、その次は、何もなくなる時期が来るからです。
「更新するネタがないんです!」
「どうやってネタを見つけているんですか?」
この悩みというか叫びは、メディアの「中の人」だけでなく企業の広報担当や、個人でブログを運営する人まで、所属や場面を問わずよく相談されました。
めったに起こらないからニュースになる
たしかに、ニュースになるような話題はめったに起こりません。
だからこそ、ニュースになるといえます。
一方で、普段の企業の活動や個人の暮らしには、そんなに大きな出来事は起こりませんし、起こらないほうがむしろ幸せです。
こんな時、発想の転換をすすめることがあります。
大きな出来事にしか価値がないのは本当でしょうか?
実は、伝え方を工夫すれば、
普通の人の普通の生活は、十分、読み応えのあるコンテンツになるのです。
例えば、こちらの記事。
通勤中にいつも目にする「靴の修理屋さんの1日に密着する」という記事です。
午前9時から13時間にわたって取材した成果を6964文字にまとめています。
この文字数、一般的なウェブ記事からすると、3、4本分のボリュームがある長編です。
でも取り上げているのは、普通の1日。
実は、ここに「ネタがない」ときの答えがあります。
とにかく1日の一部始終を全部書き出してしまうのです。
その際、大事なのは、朝ごはんや通勤など「普通の場面」を軸にすること。
昼食は誰でも食べるので想像がつきます。
でも、まったく同じであることはありえません。
おんなじだけどちょっと違う。
そこから「社長のひとり誕生日」「新入社員の大晦日」「勤続40年、最終出社の1日」といったテーマに広げることで、ユーザーに響くコンテンツにすることができます。
出勤前の店長の自宅までうかがう形で始まった密着取材では、ミクロな場面の描写が続きます。
玄関で見せてもらった10足以上もあるという、よく手入れされた革靴。
プロの職人としての意識が伝わってきます。
取材当日は雪でした。通勤途中、気にするのは電車のダイヤではなくお店に持ち込まれるかもしれない靴のことです。
休憩時間には、会社の経営方針に対する店長の率直な感想が語られます。
トップが変わって仕事がやりやすくなった。会社員として日々、働く人なら思わずうなずくような、そんな要素になっています。
記事が盛り上がりを見せるのは後半です。
濡れた状態の靴を持ち込んだお客さんに「修理はやめておいたほうがいいと思います」と断ります。
売り上げが減ってもお客さんのためにならないことはしたくない。
浮かび上がるのは、仕事に対して真摯に向き合う職人の姿。
大事なのは、身近なことを身近なままで終わらせていないことです。
「職人としてのこだわり」、「目先の利益よりお客さんを大事にする姿勢」など、描かれる日常の場面は、世の中とつながっています。
社長インタビューではできない伝え方
彼がコンテストで優勝したり、売り上げを全国一位に導いたりしたわけではありません。そもそも、会社の事業のことを紹介したいのなら、社長インタビューのほうがニュースとして価値がありそうに見えます。
ですが、それではユーザーへの響き方が全然違うものになっていたでしょう。大きな出来事が起きない、店長の普通の1日を通してでしか伝えられなかったものがあるのです。
大きな話が世の中を動かすことは事実です。
でも、それって当たり前のこと。
そもそも大きな出来事になっているので、驚きはありません。
日々、膨大なコンテンツにさらされているユーザーに読まれるためには、驚きや希少性の裏を読むことが必要です。
そう考えると、実は、大きな主語ほど、その余地が少ないことに気づきます。
想像がつく「すごい話」より、多様性と意外性に富んだ「日常」にこそ価値が生まれる。それもまたデジタル空間の面白いところだと言えます。
といったことを『スマホで「読まれる」「つながる」文章術』という一冊の本にまとめました。「閉店」のニュースが驚くほど読まれる理由、「新商品」の情報だけだとスルーするユーザーを振り向かせるコツなど、実際の事例を踏まえて紹介しています。よろしかったらぜひ。
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