【「はじめに」公開】安藤芳樹 著『チャートで考えればうまくいく』
はじめに
誰かに何かを提案する。
どんな業種であれ、どんな職種であれ、ビジネスマンにはそのような機会が幾度となく訪れます。
そんなとき、大きな助けとなるのが、企画書や提案書といった類のものです。それらの出来不出来が結果を大きく左右することは、多くの人の実感ではないでしょうか。
また、場合によっては、企画書や提案書の時点でふるいにかけられる可能性もあり、そうなると、企画書や提案書で相手に自分の意図を正確に伝えられなければその先に進むことさえできない、ということも十分にありえます。
コロナ禍をきっかけに対面ではなく、オンラインでのやりとりが主流になりつつある今、いわゆる「資料」の重要性はますます高まっていると言えるでしょう。
では、「相手にYESと言わせる資料」とはいったいどんなものでしょうか?
・写真などのビジュアル素材が充実している
・数値がグラフなどで可視化されている
・メリハリやインパクトがある
・シンプルである
確かにこれらも大切です。しかし、究極的には優れた企画書の定義
は、次のひとことに尽きると私は思っています。
「真意が伝わる」
つまり、「言いたいことを的確に伝えられるかどうか」というのが資料作成のキモなのです。
たとえどれだけ美しかろうと、シンプルだろうと、意図したこととは違うメッセージが伝わってしまうようでは、なんの意味もありません。そして「言いたいことを的確に伝える資料」の主役となるのは、写真でも数字でもグラフでもなく「言葉」です。
相手を論理的に納得させるのにもっとも効果的なのは、結局のところ言葉(=文章)なのです。
中にはイメージや感情先行で判断を下す相手もいるかもしれませんが、そのような判断で得たYESは再びイメージや感情でNOに転じる危険があります。
そういう意味でも、論理で納得させた上でYESを引き出すことが大事だと言えるでしょう。
だからといって、言いたいことをただ言葉にして並べるだけでは、決して真意は伝わりません。
相手を納得させる文章は例外なく論理的です。「論理的である」とは、例えば「なにが結論で、それにいたる理由はなんなのか」といった「論理的な構造」を有しているということです。
しかし、論理的な文章であれば、必ずしも相手が納得するのかと言えば必ずしもそうではありません。
上の2つの資料を見てください(資料の内容は、インターネットのいくつかの記事を参考にして作成しました)。
パッと見て、わかりやすいのはどちらでしょうか。
論理的かどうか、という意味では、a もb も合格です。それでも、パッと見た瞬間わかりやすいのは明らかにb ですよね。
では両者の違いはなんでしょうか。
それは、「論理的な構造」の見えやすさです。
a の資料で論理の構造を理解するためには文章をしっかり読み込まなければなりません。それが「わかりにくい」と感じさせる要因です。逆にb の文章は「チャート化」という方法によって「論理の構造」を可視化しています。だからこそ、わかりやすいのです。
かつて大手広告代理店に勤務していた私は、数値の意味はチャート化すれば一目で伝わるということを、とある勉強会で学びました。その効果は個人的にも実感できるものでしたが、あるときふと、「だったら文章だって、チャート化すればもっとわかりやすくなるのではないか」と思ったのです。
そこで取り組んでみたのが、ビジネス本の要約でした。250 ~ 300ページくらいのビジネス本を、文章の構造を整理しながら独自にチャート化するという方法で100 シートほどのボリュームにまで落とし込んでいったのです。
試しに知り合いの多忙なビジネスマンたちにそうしてできた「要約シート」を渡したところ、膨大な量のビジネス本のエッセンスが短時間で効率的に理解できると大好評をいただきました。
その反応に気をよくした私は、その後も要約という名の「ビジネス本のチャート化」にせっせと取り組み、気づけば挑んだビジネス本の数は100 冊分、要約チャートの数は1 万シート以上に上っていたのです。
そんな中で私が見出したのは、どんな文章も「論理の構造」には限られたパターンしかないということです。もっと具体的に言うなら、そのパターンはたった7種類(厳密には5種類)。
7 種類のチャートを組み合わせれば、どれだけボリュームのあるビジネス本でも、そのエッセンスを短時間で効率的に理解できる形に変換できることに気づいたのです。
それならば、逆に7 種類の「論理の構造」をチャート化して示すノウハウさえ身につければ、自分の伝えたいことを、わかりやすく相手に伝えることができるようになるのではないか。
そう考えるようになった私は、用途に応じた7つのチャート、すなわちこの本のテーマである「セブンチャート」の構築を始めました。そしてあるとき、クライアントキーマンとの打ち合わせに参加したあと、すぐさま内容をチャートにまとめ、思いきってそれをフィードバックしてみたところ、「モヤモヤしたアイデアが言語化された!」と絶賛されたのです。そしてそれが高い信頼を勝ち得るきっかけにもなりました。
以来セブンチャートは、マーケティング・コンサルタントを本業とする私にとって欠かせないものになりました。
新規事業開発の企画書を書くときはもちろん、会議の議事録(兼アクションプラン)を作成するときも、ミーティングや部下とのブレストのあとにその内容をまとめるときも、新入社員の研修資料を作成するときも、セブンチャートがあれば、必要なことをもれなく、しかも効果的に可視化することができます。その結果、企画は通りやすくなり、会議やミーティング、ブレストの結果、あるいは研修の内容が行動につながりやすくなりました。それはすなわち、効果的にメッセージが伝わるようになったことの表れです。
また、部下の書いた企画書を推敲したり、スピーチが苦手な人に指導する際も、セブンチャートを活用します。すると誰もが、「言いたいことがズバリ伝えられるようになった」と嬉しそうに報告してくれるのです。
「セブンチャート」は、文章を分解してはめ込んでいくだけで、誰でも簡単に「論理の構造」を可視化できる、とてもシンプルなフレームワークです。
企画書をどう書けばいいかわからない人、自分が伝えたいことがうまく伝わらないという人、もっと効率的に仕事をしたい人など、すべてのビジネスマンに自信をもっておすすめします。
真意を的確に伝えるこのチャートのノウハウを、資料作りのみならず、仕事の効率化やコミュニケーション力のアップなどに存分に役立てていただければ、開発者としてこんなに嬉しいことはありません。
さあ、さっそくトレーニングから始めましょう。
安藤芳樹
【目次】
chapter 1 一生役立つシンプル思考法「セブンチャート」の基本
なぜ、セブンチャートは効果的なのか?
7つのチャートの役割
1 センテンスチャート
2 定義チャート
3 YES NOチャート
4 要素チャート
5 VSチャート
6 プロセスチャート
7 ランタンチャート
chapter 2 脳内にチャート変換器をインストールしよう! セブンチャートトレーニング
論理構造を可視化するトレーニング方法
課題文
training 1 センテンスチャート
training 2 定義チャート
training 3 YES NOチャート
training 4 要素チャート
training 5 VSチャート
training 6 プロセスチャート
training 7 ランタンチャート
練習問題
chapter 3 あなたは複雑に考えすぎている…思考のアウトプットトレーニング
なぜ、アウトプットするのか?
training 1 言葉の定義を明らかにしたい⇒定義チャート
training 2 なにかのメリットを強調したい⇒YES NOチャート
training 3 要素を整理したい⇒要素チャート
training 4 2つの要素を比較検討したい⇒VSチャート
training 5 時系列や論理の流れを表したい⇒プロセスチャート
chapter 4 「 君の提案書、なんでこんなに見やすいんだ?」実践! YESと言わせる資料作り
頭の中を可視化する
example 1 会社の決裁システムの改善を会社に提案するための資料作成
example 2 自由時間の導入を提案するための資料作成
example 3 目的の精査を提案するための資料作成
練習問題
付録 セブンチャートテンプレート集
センテンスチャート/定義チャート/YES NOチャート/要素チャート/VSチャート/プロセスチャート/ランタンチャート
著者について
安藤芳樹 Yoshiki Ando
「セブンチャート仕事術」開発者
マーケティングコンサルタント
オフィスミクラス代表
1957年香川県生まれ、立教大学卒。株式会社ADKホールディングスで営業マネージャーとして勤務するなかで、ピーター・ドラッカーの理論と出会う。理解・実践しようとするもあえなく挫折。そんなときに、某セミナーで学んだ「1シート1メッセージ」を「1枠1センテンス」に置き換えてドラッカーをチャートによって構造化してみたところ、難解なメッセージがすいすい理解できるようになることを発見。自身の勉強のためにチャート化したビジネス本は100冊を超えた。その後、同じ方法をアウトプットにも応用し始めたところ社内・取引先から「わかりやすい」と高い評価を受けて商談がスムーズになり担当部署の売り上げも3倍に向上した。こうしてたどり着いたのが「セブンチャート仕事術」である。
今までに2万枚の企画書を作るにいたり、今も増殖中。
また、讃岐うどんブームの仕掛け人であり、映画「UDON」のトータス松本の役柄モデルでもある。
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