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アナロジカル・コミュニケーション(演習解説)『才能をひらく編集工学』【無料公開#28】

8月28日発売の『才能をひらく編集工学』より、本文の一部を無料公開します。「編集工学」とはなにか、「編集工学」におけるものの見方・考え方を知ることができる第1章「編集工学とは?」と第2章「世界と自分を結びなおすアプローチ」、第3章「才能をひらく「編集思考」10のメソッド」より一部公開予定です。今回は第3章メソッド04「たとえ話で突破する アナロジカル・コミュニケーション」より一部を公開いたします。今回は昨日の演習の解説です。ぜひ演習に取り組んでから読んでみてください。

演習4 アナロジカル・コミュニケーション 解説

「たとえ話」が上手い人は、コミュニケーションを円滑にします。

学校で人気のある先生や、会社でチームを上手に動かすリーダーには、この「たとえ話」に長けた人が多いですね。

何かを何かにたとえるアナロジーの力は、単に相手の理解を促すだけでなく、心を動かしたり、好奇心を引き出したり、場合によっては相手の中に新たなひらめきを起こしたりと、さまざまな余波を連れてきます。

この演習は、コミュニケーションにおいてアナロジーが持つ力を感じていただくものでした。

5歳の子どもが持っている語彙や世界像の中から似たものを探して、その構造を借りてきて、説明すべきものに当てはめてみる。

言葉にするとまどろっこしいですが、こうした一連の思考が瞬時に動いていたと思います。

その時に、どこに着目するかで説明すべきことが違ってきます。

たとえば「インスタ」であれば、「アルバムみたいなもの」とか「日記みたいなもの」といった機能の説明もあるでしょうが、「好きなものを見せてお友達に褒められると嬉しいでしょ?あれだよ」というユーザ心理を説明する切り口もあります。

「サービス残業」は会社から見た説明か社員にとってかという立場の違いもありますし、良いこととするかダメなこととするかといった価値観も現れます。

「株価」は企業にとっての意味を話したいのか、頑張って原理を説明しようとするのか、など。

ここでも、どこに「アテンション」を向けて、何を選び取ってくるかの「フィルター」が盛んに動いていたはずです。

そして、A→B→Cと、情報が複雑になっていることに気が付きましたか?

「インスタ」はある事柄ですが、「サービス残業」は「誰に対してのサービスなのか」といった関係性が含まれます。

「株価」にいたっては、市場原理のような複雑なものをどう説明するか。

なかなかチャレンジングです。

以前、「ポケモンカード」にたとえて上手に「株価」を説明した人がいました。

何かのモデルを借りてくることで、見た目の類似から何歩も進んで、複雑な構造まで表現できるのが、アナロジーの力です。

第2章アプローチ04からのヒント

アナロジーの最中には、以下のようなステップを踏んでいること、実感できたでしょうか?

1.何かと何かが「似ている」と思う
2.(似ているものの構造を)「借りてくる」
3.(借りてきた構造を)「当てはめる」

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似ているものを、借りてきて、当てはめる(無料公開#17)。

「これが何に似ているか?」と思う段階で、せわしなく連想が動きます。

「インスタグラム」や「サービス残業」や「株価」をさまざまに言い換えたり、周辺に連想ネットワークを張り巡らせたり。

あれこれ苦労しながら、「何をもって何とみなすか」という照合を、何度もトライアンドエラーしたはずです。

そこには、自分の見方が必ず介在します。

「あなた」の中の5歳児の感覚と、インスタやサービス残業や株価に対する理解や印象がかけ合わさって、「何をもって何とみなすか」の歯車が動き、アナロジカルな発想と思考は抜け出る先を見つけていきます。

カイヨワが言うように、人間には「似たもの探し」に向かう本能が備わっているのです(無料公開#20)。

類似や相似を発見したときのときめきや痛快さが、アナロジカル・シンキングの原動力になります。


著者プロフィール

安藤昭子(あんどうあきこ)

編集工学研究所・専務取締役。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、「イシス編集学校」にて松岡正剛に師事、「編集」の意味を大幅に捉え直す。これがきっかけとなり、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、共創型組織開発支援プログラム「Quest Link」のコアメソッドとして企業や学校に展開中。次世代リーダー育成塾「Hyper-Editing Platform[AIDA]」プロデューサー。共著に『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング、2020)など。

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