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振り返りの質を向上させる「メタ認知力」を高める方法 #リフレク本

「振り返りがうまくできない」、「振り返りをしていても、次に生かせていない」と悩んだ経験はありませんか?そんなみなさんに、すべての経験を学びに変え、成長につなげるために有効な「リフレクション」という力をご紹介します。
リフレクション(Reflection)とは、自分の内面を客観的、批判的に振り返る行為であり、日本語で言うところの「内省」です。経済産業省が提唱する「人生100年時代の社会人基礎力」としても重視されています。
※本記事の内容は2021年3月19日発売の『リフレクション 自分とチームの成長を加速させる内省の技術』より一部抜粋したものです。

メタ認知力を高めて自分を知る


リフレクションには、あらゆる経験を学びに変え、自分をアップデートしつづける力があります。しかし、ただやみくもに取り組んでも、理想を実現するための知恵や気づきは手に入りません。

注意しなければならないのは、リフレクションの質です。リフレクションを実践する前に、まずはすべてのベースとなる「認知」の枠組みを整理するフレームワーク「認知の4点セット」を押さえましょう。

このフレームワークの目的は、メタ認知(認知していることを認知する)力を高めることです。事実や経験に対する自分の判断や意見を、「意見」「経験」「感情」「価値観」に切り分けて可視化することによって、自分の内面を多面的に深掘りし、柔軟な思考を持つことができるようになります。

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認知とは、心理学の領域において使われる用語で、「外界にある対象を知覚し、それが何なのかを判断する」ことを意味します。聞き慣れない言葉かもしれませんが、誰もが、呼吸と同じくらい当たり前に、生まれたときから実践している行為です。

■ 認知(知覚と判断)の例
(知覚)朝の空を眺めて→判断)今日は晴天だ。
(知覚)上司の表情を見て→(判断)今日は機嫌がよさそうだ。
(知覚)資料に目を通し→(判断)価値のある箇所に、アンダーラインを引く。

たとえば、経験を振り返るときに、何を振り返るのか、その経験をどう意味づけるのかは、自分の認知が決めています。その認知がそもそもずれていたら、どれほどリフレクションに時間を費やしても、本当に大切な学びを手に入れることはできません。

認知(知覚と判断)には、「過去の経験により形成された『ものの見方』を通して行われる」という法則があります。この認知のメカニズムを、アメリカの教育学者クリス・アージリス氏は「推論のはしご」(図1─2)を使い解説しています。

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認知は、事実や経験の中から、ある特定の事実を知覚するところから始まります。このとき知覚した事実をどのように捉えるのか(判断)は、過去の経験や知識によって形成されたものの見方に依存します。
新たな事実に対する知覚と判断を行うと、その経験を通して新たなものの見方が再形成され、蓄積されていきます。


メタ認知のフレームワーク「認知の4点セット」


マサチューセッツ工科大学上級講師のピーター・センゲが提唱する組織論「学習する組織」では、推論のはしごを通して形成されたものの見方を、「メンタルモデル」と呼びます。「意見」「経験」「感情」「価値観」の「認知の4点セット」は、このメンタルモデルを可視化するツールです。
簡単な事例で、「認知の4点セット」を活用し、メンタルモデルがどのように形成されるのかを見ていきましょう。

例として、犬に対する「好き」「嫌い」という認知について考えてみましょう。

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犬が好きな人は、犬を飼ったりかわいがったりといったポジティブな経験によって、「犬はかわいい、癒しの存在」というものの見方が形成され、犬を見ると近づいていきたくなります。

一方、犬が嫌いな人は、犬に噛まれたり、追いかけられたりといった怖い経験があり、「犬は危険な存在」だと思っています。このため、犬を見つけると、犬を避けるようになります。

また、同じ経験をしたとしても、その経験の中から何を印象に留めるかは人によって異なります。

一緒にハワイ旅行をしたAさんとBさんの、思い出の違いを例にしてみましょう。
Aさんの一番印象に残った思い出は「海辺を散歩したこと」で、Bさんは「スキューバダイビングをしたこと」です。
2人が何を認知し、どのように解釈をしたのか、「推論のはしご」と「認知の4点セット」で見てみます。

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Aさんは、海辺を散歩しているときに、東京との湿度の差による快適さの違いを認知しました。ハワイの海辺を歩いていたら、ハワイ特有の海の色や砂の感触など、東京と異なるものは多数見ていたはずです。
なぜ数ある経験の中で湿度が気になったのか、認知の4点セットで考えてみると、自分が「快適さ」や「清潔感」という価値観を大切にしていることがわかります。

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一方、Bさんがもっとも印象に残ったことは、スキューバダイビングをしているときに出会ったカメの華麗な泳ぎでした。ハワイでスキューバダイビングをすれば、日本の海では見られないようなカラフルな魚を見ることができますし、マンタにも出会うかもしれません。透き通った青い海も印象的です。
Bさんの知覚は、無数の事実の中から、なぜカメを選んだのでしょうか。「認知の4点セット」を使ってみると、水泳を習っていた小学生の頃の経験が紐づいていることがわかります。そのときに感じた「スピード感のある、美しい泳ぎ」という大切な価値観が、カメの泳ぎを見て想起されたのでしょう。

「認知の4点セット」を活用したリフレクションが、メタ認知力を高めるメソッドであるということを、イメージしてもらえたでしょうか。

無数の経験の中から何を知覚し、判断し、意見としているのか。その意見の背景にはどのような経験があり、その経験にはどのような感情が紐づいているのか。そして、その意見の前提には、どのような価値観やものの見方が存在しているのかを客観視することで、メタ認知力を高めることが可能になります。

リフレクションの難しさは、自己の認知に依存するところにあります。人間は、自分の見たいものを見たいようにしか見ないと言われます。その状態でリフレクションを行っていても、大きな収穫を得ることはできません。

自分が何を知覚してどのような判断をしたのか(意見)、その背景にはどのような経験や感情、価値観が存在しているのかを知ることで、初めて、自分のリフレクションを俯瞰することが可能になります。
自分の認知の枠を理解する力を磨くことは、多面的・多角的なものの見方をするためにも役立ちます。

「認知の4点セット」でリフレクションを共有すると、他者との違いが明確になり、人間の認知の多様性に驚かされることばかりです。ですから、一人きりで行うだけでなく、チームメンバーなどの同じ経験を共有する人たちとリフレクションをしてみてください。
他者がどのように経験を意味づけているかを知ることで、自分とは違うものの見方から学ぶことができます。

著者プロフィール
熊平美香(くまひら・みか)

昭和女子大学キャリアカレッジ 学院長
一般社団法人21世紀学び研究所 代表理事

ハーバード大学経営大学院でMBA取得後、金融機関金庫設備の熊平製作所・取締役経営企画室長などを務めた後、日本マクドナルド創業者に師事し、新規事業開発を行う。1997年に独立し、リーダーシップおよび組織開発に従事する。2009年より日本教育大学院大学で教員養成に取り組む傍ら、未来教育会議を立ち上げ、教育ビジョンの形成に尽力。2015年に一般社団法人21世紀学び研究所を設立し、リフレクションの普及活動を行う。昭和女子大学キャリアカレッジではダイバシティおよび働き方改革の推進、一般財団法人クマヒラセキュリティ財団ではシチズンシップ教育に取り組む。Learning For All等教育NPO活動にも参画。文部科学省中央教育審議会委員、内閣官房教育再生実行会議高等教育ワーキンググループ委員、国立大学法人評価委員会委員、経済産業省『未来の教室』とEdTech研究会委員などを務める。2018年には、経済産業省の社会人基礎力に、「リフレクション」を提案し、採択される。著書に 『チーム・ダーウィン「学習する組織」だけが生き残る』(英治出版)がある。


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