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【ディスカヴァー春の応援企画】#わたしの上京物語(北海道出身/安永の場合)

もうすっかり暖かくなり、桜も咲き、季節は春となりましたね。

さまざまなニュースが飛び交い大変な今ですが、例年通りこの春からご入学やご入社、転職等で上京される方も多いかと思います。
そんなみなさまに、ディスカヴァーで「上京」といえば『上京物語』


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ということでちゃっかり最後には宣伝もしつつ(笑)、弊社の社員の「上京」の思い出、「#わたしの上京物語」を本日より3日連続のリレー形式でお届けします。

まずトップバッターとして本日は、編集部の安永の「#わたしの上京物語」です。


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高校3年の夏。彼氏にフラれた3日後には、東京に行くことを決めていた。

北海道の田舎町となると、海を渡る(本州に出る)人は珍しい。大体の人は地元にとどまるか、札幌に出ようとする。札幌には国立も私立も専門学校もあるし、生活するには充分すぎるほど都会だから。(札幌だいすき〜!)
わたしも友だちや彼氏と離れるのが嫌で札幌の大学へ進学しようと考えていたのに、フラれてしまったんだから計画はすべて白紙だ。

人生を変えなければ。

もうこうなったら東京に行くしかない。わたしは生粋のミーハーで、おまけに出版業界に興味がある。出版社の所在地はほとんど東京だもの、遅かれ早かれ行くことになるはずだ。そんな失恋の勢いで、進学情報誌よりもRayやCanCamを読みあさって学校を探し、志望校を変えた。

しかし受験はなかなかうまくいかず、合格が決まったのは卒業式もすっかり終えた3月14日。入学まで時間がないので、バタバタと手続きや挨拶を済ませて5日後には母と飛行機に乗っていた。部屋の片付けも終わらないうちに、家を探しにいってそのまま上京だ。空からみる夜景はほとんどが真っ暗な森林で、ぽつりぽつりと街灯がみえた。人生の節目なのでセンチメンタルにもなりたかったが、実感がわかなくて涙は出なかった気がする。

東京に来てみて、最初に戸惑ったのは電車だ。便利な乗り換えサイトの存在など知らず、ひたすらJR(しか知らない)に乗って遠回りしていたし、急行や快速のどちらが速いのかもまったくわからない。都会の駅も迷宮だった。渋谷に行ってもハチ公はみつからない、というか地上にすら行けない。それでも電車がくる頻度や運賃への感動のほうが強く、地元よりもずっと暖かい日差しを浴びながらうきうき電車に乗っていた。

家を決めて最低限の家具や生活用品を買ってもらったあと、母は帰った。
たぶん「頑張るんだよ」とかなんとか言ってくれたと思うけれど、寂しそうな母の顔をみて泣きそうになったから、あっさり見送った。駅でお別れせず空港まで見送りにいけばよかったな、もっともっと感謝の気持ちを伝えておけばよかったな、こういうことは今頃になって後悔する。

住むことに決めたアパートは、セキュリティも弱いし日当たりも最悪。けれど、壁も床もピカピカの「自分の城」だ。これから始まる生活への期待に胸がいっぱいで、不安になることなんてなかった。

たくさんの友だちをつくろう。新しい恋をしよう。受験のためではない、楽しい勉強をしよう。サークルに入って思い出をつくろう。おしゃれなバイトをしよう。しまむらやハニーズはやめて、地元にはないお店で服を買おう。美術館やディズニーランドだってすぐにいける。横浜にいってみたい。お台場にもいってみたい。挙げるとキリがないくらい、やりたいことばかりだった。

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この春、上京して10年になる。

10年前に思い描いていた「憧れの東京でやってみたいこと」は、それほどときめくものではなくなってしまった。
渋谷を歩くのにもすっかり慣れた。美術館やディズニーも特別じゃなくなってあまり行かない。横浜やお台場はもちろん、代官山や六本木にもいくのも怖くない。友だちはたくさんできたけれど、疎遠になった人のほうが多い。

当然、楽しいことばかりではなかった。周りのキラキラした人と自分を比べてしんどいこともあったし、バイト中にはじめて大きな地震を経験して心底不安だったし、満員電車はいつまでも不快だし、物価は高いし、ぼったくり居酒屋はあるし、悪い人もいるし、お酒での失敗も数知れず。

でも、いいことも悪いことも含めて「初めての経験をたくさんした」ことは、この10年の過ごし方として上々だったと思う。どれだけ失敗したって帰れる場所があるから、全然怖くなんてなかった。

環境に慣れていくほど知った気になって、つい日常から一歩踏み出すことが疎かになる。
でも考えてみると、私の生活圏なんてごくごく狭いのだ。話したことがない人ばかりだし、行ったことのないお店ばかりだし、知らないことばかり。慣れていないことをするのは面倒だけれど、それを心底求めて上京したことを思い出す。

東京はもう、特別じゃない。それでもこれからの10年もきっと、否応なしに新しいことが増えていく。
せっかくなら面倒がらずに、「初体験の驚きや喜び」を味わい尽くしていこう。

誰よりも多くの成功を手にした人は、
誰よりもたくさん挑戦した人でしかない。
同時に、誰よりもたくさん失敗を経験してきている。
(上京物語・202P)


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https://d21.co.jp/column/kitagawa_yasushi/


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