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編集者が本づくりを始めるために行っていること
こんにちは。娘のために今にもDWE(ディズニー英語システム=税込98万1200円!)を買おうとする妻をどう諭すべきか悩む、ディスカヴァー編集部の安達です。
本を作るには企画のタネが必要。誰が何を書くか。
それを計画するために、編集の人は皆さん、さまざまな執筆者候補に会いにいきます。
「あなたと一緒に本を作りたいんです」
これは本を出してみたいと思っていた人を振り向かせる魔法の言葉です。
とはいえ、最初から執筆候補ご本人とアポが取れ、マンツーマンでお話しできることはまれです。だから、書いてほしいと思う人が登壇するトークショーやイベントに、私は何度も参加します。
まずは遠くから彼らの話を聞くだけ。そんな時間も多々あります。
でも、イベント終了後、ねばって会場に残っていると、ときに登壇者に近づくチャンスが生まれます。
イベント会場のスタッフさんが撤収作業をしているそばで、私は主催団体の関係者らしき人にひとこと。
「登壇者の方とご挨拶させていただいても良いでしょうか」
「イイっすよ、どうぞ」
意外と軽い返事でOKをいただくことがあるのです。この機会を逃さぬよう、私は慎重に偉い人(登壇者)がいらっしゃる近辺に歩み寄ります。
何人かの先客を待ち、ついに自分の番がやってきました。(サイン会でもないのに、ときに30人を超える長い列ができていることがあります)
「おつかれさ、、、ス」と私。
待ちくたびれ、緊張で口が乾き、第一声がちゃんと言えない。そんな夜もけっこうあります。
「おお、疲れたよ、ほんと。でも来てくれてサンキューね」
初対面なのに……。強面なのに……。や、やさしい。
「前から一度お目にかかっ、ご挨拶、、、さスていただき、、、」
やさしい受け答えに度肝を抜かれ、ますます口が回らなくなる夜も。でもどうにか気を取りなおして続けます。
「出版社○○で本を作っています」
「あ、出版の人ね。さっきも一人きてたね」と偉い人が言います。
なぬっ。
「あ、もしよろしければ企画書を見ていただけませんか」
「え、用意してきたの? やるねえ」
宿題を褒められた小学生のように嬉しくなり、でもこのやさしさは長年培われた社交辞令の一種なのかとも勘ぐります。
いずれにしても私は急いで鞄のなかからA 4一枚の企画書を偉い人に手渡します。企画書はなるべく大きい字で書くようにしています。
偉い人は紙にすばやく目を走らせ、
「なるほど、あんた珍しいこと考えるねえ」
とおっしゃるではありませんか。
「じゃあさ、今度ちゃんと時間をとってブレストしようよ。西麻布までこれる? こっちのメアドに企画書のデータ送っといてよ」
と名刺に記載されているのとは違う連絡先を紙に書いて渡される……。
こういう展開が実現すると、嬉しすぎて私は数秒間、口が開きません。
2秒たってよく見ると、偉い人が私の腕をとって握手していたなんてこともありました。私との話を早く切り上げるための握手かも?……とにかく、ねばって列に並んだ甲斐があったと思える結果です。
でも、こうしたファーストコンタクトの成功例は実に1割くらいの打率でしょうか。(しかも次回面談の約束ができたというだけで、本を書くとは言われていません)
「出版のことは秘書に連絡して。あっちの方にいると思うから」
「今年はねえ、去年出した本のプロモーションだけを考えたいんだよ」
「なんで出版やねん、儲からんやろ。動画作れよ」
と、企画書を見ていただく前に門前払いとなることの方が圧倒的に多いのです。
そのため私は登壇者がその日、話されたテーマではなく、話の途中にときどき脱線する雑談のほうにも意識をフォーカスさせるようになりました。
「本を出すようになったからって、『先生』と呼ばれるのがほんとうにイヤなんです!」
「こんなふうにしゃべらせていただいていますけど、僕は意識めちゃ低めな人間なんです。毎日マンガを読まないとモチベーションなんて上がりません」
何度も講演を聴講し、脱線トークにも注意を向けていると、登壇者には次の4つの気持ちが隠れていることに気がつきます。
(1)本を書きたいと思っている
(2)いいアイデアをもらえたら、書きたくなるかもしれないと思っている
(3)いい提案があっても、しばらくは書きたくないと思っている
(4)今は絶対に本を書くべきではないと思っている
これらはトークショーの台本にはない、登壇者たちのホンネの部分です。
もしその人の本音が(4)であった場合、私は(1)(2)(3)のケースと同じく、ねばって挨拶しに行きはしますが、その場で所属企業名を出すことはありません。もちろん名刺も渡しません。
トークショーで(4)の心境を察知できると、代わりに私は手持ちのノートか本にサインをねだりに行くだけになりました。
登壇者がサインをしてくださるとき、決まってメッセージの前に「○○さんへ」とサイン依頼主の名前を書こうとします。このとき私は自分ではなく娘の名前を書いていただくことにしています。
すると後日、偉い人と2度目のコンタクトがとれたとき、
「ああ、あのときの○○ちゃんのパパですか! ○○ちゃんの漢字、ちゃんと書けてた? まちがっていなかった?」
と返事をいただくことが多いのです。
私の名前は知らなくても、娘の名前はしっかり覚えておられて、それにつられて対面した私の印象も思い出していただけるのです。ビジネストークをするのは、それからでも遅くはありません。
(4)のようなケースであっても、作者のホンネと向き合うことができれば、ちょっとした知人(友人)として付き合いがスタートすることがあります。
すると、いつか(1)(2)のような、本を出そうという気持ちになっていただく可能性だってあるのです。
最初に「編集の人はさまざまな執筆者候補に会いにいく」と書きましたが、さまざまな人に「会いにいける」職業であることが編集者の醍醐味なのかもしれません。
そうやって今日も企画のタネを探しています。
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ディスカヴァー編集部が本にまつわることを自由に書くエッセイリレー。次回は10/7ごろの公開予定です。
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