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『その名はカフカ』は完結したのか?Kontrapunkt 長めの追記

2023年1月、ピリカ文庫へ寄稿すべく仕上げた短編『その名はカフカ』。その後、長編として2月からは『Preludium』と副題をつけ第一章(全14話)を、続いて『Kontrapunkt』の副題で第二章(全22話)を書き進めてきましたが、先日8月6日、無事第二章の最終話を投稿することができました。

第一章でも、一話を三千字前後で収めるよう書き進める予定だったのが、だんだん長くなり、後半は五千字を越える回もありました。
第二章では更に一回の話が長くなり、二回ほど七千字を越えました。

このように長々、自己満足のためだけに書き進めてきた連載にお付き合いくださった皆様、改めて御礼申し上げます。

本記事は、主に第二章『Kontrapunkt』に関する解説記事となります。
全話を読んでくださった読者様向けに書いていきますので、「これから小説のほうを読む予定」でこの記事にたどり着いた方は、ぜひ小説のほうからお読みになっていただければ、と思います。


物語の終わり

まずは、この記事のタイトルとして掲げました「『その名はカフカ』は完結したのか?」に関して。

長編小説『その名はカフカ』、書き手としても、「これで完結でいい」状態までは書けているかと思います。
物語の最重要テーマだった「カフカの謎」は解けてしまったし、主人公レンカの過去に関する最大の問題も解決したし、当初長編を書き始めた時に計画した分は、全て書き終わってしまいました。

しかし、最終話『Kontrapunkt 22』をお読みになった方はお気づきだと思いますが、最後の絵の手前に「その名はカフカ III. 1へ続く(後に『その名はカフカ Disonance』と改題)」と書いてあります。

つまり、まだまだ続編を書く気があるということ…?

書く気がある、と言うより、この物語を書くにあたって作り上げたキャラクターたちが、私の中で眠ってくれない、というのが問題でして。
最終話を書き終わっても、彼らは私の頭の中でいろいろなことに関していろいろな場所でわぁわぁ騒いでいる。
私もこれで彼らとお別れ、というのがあまりにも悲しい。
全て解決したから終わり、ではなく、『その名はカフカ』はすべてが解決したおかげで、やっとスタート地点に立ったところなのかもしれない。

そこで、次のお話は全然何を書くのか決まっていない状態ではありますが、第三章があることを匂わせての最終話となりました。

ところで私、無駄な続編というのが大嫌いなのですよ。
ああ、あそこで終わっていてくれれば、という世の大作は少なくないです(例えば『ターミネーター3』(2003)。私、91年の『ターミネーター2』の大ファンでして…03年のあれはひどかった…)
しかしですよ、私のカフカは世に期待される大ヒット作とはかけ離れた存在。素人の純然たる趣味。
誰に遠慮することなく、書きたいだけ書けるわけです。

第三章を書くにしても、第二章ほどのスピードでは書かないし、書けないと思います。
時間に拘束される仕事が教育機関系なため、夏休みに入ってから(こちらの夏休みは7月1日から)猛烈な勢いで書き進めました。先週も記事を上げましたが、八月末に一時帰国するので、それまでに絶対第二章は書き終わりたい、というのが主な動機でした。連載途中で日本に行ったら集中の糸が切れてしまうだろう、という心配があったのですが、実際完結させる前に出発していたらどうなっていたのかはわかりません。

物語の書き進め方

次に物語をどのように書き進めていったのか、を書いておきたいと思います。

特に第一章Preludiumは、物語の骨組みがあやふやなまま、いわば見切り発車のような形で書き始めました。
それでも「書きたい場面」というのはいくつもあって、その場面場面を繋ぐためにお話を考えていく、そんな感じでした。しかし当初考えていた「書きたい場面」だけでは物語としてスカスカだ、と途中で気が付き、書き進めながら、もともと考えてもみなかったエピソードを盛り込んでいった、という話はPreludiumの追記記事にも書きましたが、そうやって肉付けするために考えたエピソードが、後々、最初から書く予定にしていたエピソードを助ける役割を果たしてくれた、というのは長編執筆ならではの体験なのかな、と思います。

骨組みがあやふやなまま書き始めた、とは言え、長編開始から第二章まではぼやっと考えてあって、長編執筆開始時から書く予定だったのが、レンカがヴァレンティンを訪ねていく場面。

最初から考えていたというのに、この二人の対話は、なぜかとても書きにくいものでした。
逆に私にとっていちばん書きやすいのが、エミルとペーテル。この二人の対話は、するする出てくる。笑

そして、第二章で次に計画に入れておいたのが、お話の途中でエミルがレンカとアダムとは違う場所で仕事をしなくてはいけなくなる、というシチュエーション。

ここも当初の計画では任務先も会話の内容も違っていたのですが、「カーロイからの電話」の登場、そしてそこでエミルがペーテルを所望(笑)する、というのは計画済みでした。おかげで、その下準備として第二話のプラハの事務所でのエミルとペーテルの話を思いつきました。

第一章はあまり先にお話の進め方を固めずゆるく始めましたが、元来、シナリオ書いて、絵コンテに落とし込んで、キャラクターデザインして…という教育を受けてきた元アニメーターの私には、やはりその「先を事前に考えておかない方法」はあまり性に合っていなかったようで、第二章は最初から「第何話に誰がどこで登場して、どんなことが起こるのか」はメモ書き程度にまとめてから始めました。
それでも、第21話のテンゲルとラーヂャなど、ほとんど直前に入れ込むことを決めたお話もあります。

あと、やはり長編を書いてみるまで体験できなかったことの一つに、私の考え出したキャラクターが、私の考えたシナリオに文句をつけてくる、というものでした。
エミルが「チームリーダーなんてムリですぅ」と言い出したり、スラーフコが「私を情けない奴、で終わらせるつもりかね?」と言ってきたり、くらいはかわいいもので、最大の抵抗をしてきたのは、レンカでした。

いやね、私、当初レンカとアダムが結ばれる、なんて、考えてもみなかったんですよ。アダムはレンカの永遠のお父ちゃんやで、って思ってたんです。
ところがどっこい、こっそりレンカのためにヴァレンティンを用意していた私、レンカに「そんなクソ脚本で仕上げたら、ただじゃおかないわよ」と凄まれまして、「私からアダムを取り上げないで」とまで言われる始末。
いや、確かに冷静に考えて、レンカを12年も忘れていたスラーフコや13年もほっぽり出していたヴァレンティンと……って、全然説得力ないわ、と納得。
レンカの意向にそっての流れとなりました。

地図のおさらい

ここで最終話で載せた地図を再掲載しておきます。

名前だけ登場して、お話の舞台にはならなかったのはベオグラード、サラエヴォ、ザグレブ、そしてカルロヴィ・ヴァリです。
クロアチアのヴァラジュディンスケ・トプリツェ、オーストリアのウィーン、スロヴァキアのブラチスラヴァは物語の途中で掲載した地図には登場しましたが、物語にあまり関係ない上に、地図がごちゃごちゃしそうだったので、削除してあります。
カルロヴィ・ヴァリは、第四話でヴァレンティンが言及しているだけですが、何となく楽しいので(笑)残してあります。

登場人物の生まれ年

Preludiumの追記記事でもやりましたが、登場人物の生まれ年のおさらいです。
さあ、読者様と同い年の人はいるかな?

レンカ(1980)
エミル(1987)
アダム(1965)
ペーテル(1994)
カーロイ(1964)
ヴァレンティン(1972)
ティーナ(1966)
サシャ(1967)
スラーフコ(1973)
イリヤ(1963)
ラーヂャ(1957)
キツネ(1978)
テンゲル(????)
ハルトマン病院長(1951)
ジョフィエ(1995)
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サンドラ(1969)
ペーテルの弟(2000)妹(2002)
アダムの娘(1992)

挿絵について

第一章以上に好き勝手に描いてきたKontrapunktの挿絵。
いくら物語のテーマとはいえ、ニシコクマルガラスを描きすぎた感もないわけではありませんが、ここまで一種類の鳥を集中して描く機会も、この先まずないのではないかと思います。

続きを書くにしても、これからはニシコクマルガラスの登場はグっと減るかと思われます。

ちなみにKontrapunktでは第一話以外はすべての絵に手が入っています。わざと入れています。

参考文献

他にもいろいろ目を通しましたが、代表的な三冊の写真を載せておきます。

検索に引っかかってほしくないので、あえてタイトルも著者も文字起こしはしません。
簡単に解説すると、一番左の本は実際ICTYの検察官だったチェコ人の方の体験談です。アダムの経歴については、あまり荒唐無稽なことを書きたくなかったため、検察官になるまではこの著者の経歴をゆるくなぞらせてもらいました。もちろんこの方は犯罪組織に流れることなく(笑)約九年に渡ってICTYの検察官を務められ、その後国連で仕事をされていました。確か今年、チェコに戻られたかと思います。
真ん中の赤い本は、革命後の90年代からチェコに急激に増えたというロシアンマフィアについての本で、やはりアダムが第18話で革命後のチェコの犯罪事情について語っているところで参考にしました(さっきからチェコとだけ書いてますが、1992年末まではチェコスロヴァキアです)。
一番右の本は小説で、原書はスロヴェニア語、そのチェコ語翻訳版です。内容は旧ユーゴの内戦時に少年だった主人公が、大人になって、内戦当時実際に何があったのか、を見出すためにバルカン諸国を訪ねる、というもの。実はこちら、読むスピードがカフカ執筆のスピードについて行けなくて、三分の一くらいのところから全然読み進めておりません。これからじっくり楽しもうと思っています。

このように、自分なりに執筆のために知識の裏固めを試みてはいたのですが、やはり勉強不足のまま書き進めてしまった部分もあり、反省点は多いです。
これからは世界情勢なんかがあまり関わって来ないものを書きたいなぁ、なんて思ったりもするのですが、『その名はカフカ』を書き続けるつもりなら、大きな路線変更はできませんよねぇ。どうしたものか。

長編小説を書いてみて思うこと

『その名はカフカ』、まだ自分でも具体的に何文字書いたのか把握していませんが、このように長いお話を文章表現する、というのは初めての体験で、いろいろと学びがありました。
しかし現時点で振り返ると特に第一章のほうはスカスカ感がある、と言うか「私が読者だったら、そこ突っ込むで!」というところが多々あります。大きく修正を加えたい部分もありますが、note上ではこのまま置いておくことにして、全編を通した加筆・修正を、これからオフラインで地味に地道に進めていこうかな、と思っています。お披露目する機会が巡ってくるかどうかは分かりませんが、やってみる価値はあるかな、と。

Preludiumの追記記事にも書きましたが、私の書くものに文学的価値はありません。
頭の中で繰り広げられるドラマを文字起こししていくのに精一杯で、日本語に工夫を凝らしている余裕がないのです。
文章表現では、個性的になろうとしている余地がない。これが私という個人にとって、とても意味のある作業だと思うのです。
絵を描いても映像を作っても、そこにいつも作品の、もしくは作者の個性を求められます。そういう世界でのたうち回っていたら、自分で望んだわけではないけれど、日本語を教えるという仕事を始めることになって、そこでは「個性的であれ」というエゴが必要とされていない、という事実に気が付いた瞬間、感動したのを覚えています。この仕事の目的は「学習者の理解」であって、私の「個性的な教え方」ではないのだ、と。
長編を書きながら、この時の感動と似たようなものを感じています。そこでは「個性的であれ」というエゴが働かないから。そんな余裕がないから。
あくまで私が文章表現をする立場で、での話です。
読者としては「好きな日本語」、「受け付けない日本語」、すごく好みがあって、うるさいです。笑

何が言いたいのか分からない内容になってきましたが、こんな限りなく個人的な、言わば浄化作業のような長編を、投稿後いち早く読んでくださっていた皆様はもちろんのこと、まとめ読みでここまで読み進めてくださった皆様、すべての読者様に厚く御礼申し上げます。

いつになるか分かりませんが、『その名はカフカ III. 1』がひっそり公開された際には、どうぞよろしくお願い致します。


【2023年8月10日追記】
最初の短編、Preludium、KontrapunktすべてをWordにコピペし終わりました。
トータルで16万3500字強でした。

【2024年1月追記】
長編『その名はカフカ』が紙の本でも読めるようになりました。


『Valentin』 DFD 21 x 29,7 cm、色鉛筆


2023年9月15日、続編の連載を開始しました。


豆氏のスイーツ探求の旅費に当てます。