その名はカフカ【ピリカ文庫】
リンツで最後の乗り換えをし、窓際の席に腰を下ろした途端、どっと疲れが押し寄せてきた。コンパートメントには私の他には誰も座っていない。窓の外の景色は夕日に彩られ鮮やかだったが、もうすぐ夕闇に飲み込まれてしまうのだろう。それでもかまわない。オーストリアを抜けてスロヴェニアに入るまではどうせ山しか見えないのだ。
列車が走り始めてほどなくして
「お飲み物、軽食などはいかがですか?」
コンパートメントの扉がゴトゴト音を立てて開かれ、給湯ポットやペットボトル、サンドイッチ、菓子など