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リサーチのトレンド 2023

今年も1月〜12月までに「#リサーチハック」のハッシュタグでXに投稿してきた、デザイン・マーケティング・市場調査のリサーチ界隈で起きていた主なニュース・トレンドを7つのトピックに分類してお届けします。

リサーチのトレンド 2023
1.ChatGPT/生成AIの活用
2.VOCデータの再評価
3.ディスカバリーリサーチの価値浸透
4.リサーチ支援会社の合従連衡
5.リサーチツールの越境機能強化
6.リサーチデータベースの構築
7.案件依頼・相談フローの改良

2023年も新しいリサーチサービスが生まれたり、各社でリサーチのデータを活用する様々な工夫が行われていました。皆さんが経てきたビジネスや通常業務の変化をリサーチの観点から振り返る機会になれば幸いです。

※年明けに株式会社ヴァリューズ主催のマナミナ特別講座でこの記事内容を生解説します。スライドを使って主だった出来事を振り返っていきますので、こちらのお申し込みもぜひお待ちしております。

●1.ChatGPT/生成AIの活用

2023年最大のトピックは紛れもなくChatGPT/生成AIの活用でした。ビジネス全体においてもそうですし、リサーチでも、マーケティングリサーチ、デザインリサーチ、デスクリサーチ、それぞれに影響を与えています。

マーケティングリサーチ領域では、上半期にリサーチ支援会社から生成AIを活用したサービスメニューの提供が相次ぎました。

アンケートツールで目玉となったのは調査票作成機能で、ノバセルからは入力キーワードを元に質問リストを自動生成する機能が、GMOリサーチからは調査テーマを元に配信から回収まで自動対応する機能が、それぞれ6月にリリースされています。

海外のプロダクトではHotjar AIが調査目的を元に調査票を作成する機能に対応しています。海外のツールでは日本のものよりもリサーチの工程全体をカバーする傾向があるので、調査業務の各工程での活用がよりイメージしやすいのが特徴です。

ネオマーケティングでは生成AIツールを活用したマーケティングリサーチの業務実行体制を発表しており、設計・分析・ドキュメント作成における活用の研究を進めています。

インタビューでは、自動書き起こし、自動KJ法などの用途でAI活用が進んでいます。

デザインリサーチ領域では上記のようなインタビュー成果物の自動作成のほか、画像生成などで活用が進んでいます。こちらは6月に対談セミナーでご一緒した黒澤友貴さんの事例がわかりやすいでしょう。

デスクリサーチ業務では市場調査(マクロ調査)目的での情報収集・情報整理や、プロダクト開発の壁打ちで利用されています。

最後に、こうした生成AI活用の動きと私たちはどのように向き合っていくとよいかという議論も同時に行われていました。

ビジネスリサーチでは『外資系コンサルのリサーチ技法』の著作で有名なアクセンチュアの上原さんの「生成AIがビジネスリサーチに与える影響」の記事が、デザインリサーチでは長谷川さんの解説記事が参考になるでしょう。

●2.VOCデータの再評価

2023年はVOC(Voice Of Customer)のデータが再評価された一年でもありました。

追い風となったのが生成AIとの相性の良さで、テキスト分析の範囲・品質・速度が飛躍的に向上し、VOC業務支援サービスの当該機能リリースも相次ぎました。

マーケティング領域でのVOCデータ活用の好事例は、森永乳業のリプトンミルクティー再発売時のプロモーション「667通のラブレター」です。

個人的にはスナックミーの公式Instagramで、ユーザーの開封の儀をはじめとするUGCをストーリーズで月ごとにまとめてハイライト表示する取り組みも良いなと思いました。

BtoCだけでなくBtoBでもVOCの活用が期待されています。Eightのカスタマーサクセス部で行われているユーザーとプロダクトの間をつなぐ役割が好事例です。10月には才流とグットパッチの共催によるPMFのためのVOC活用をテーマにしたセミナーも行われていました。

VOCはユーザーデータの宝庫でありながら活用が難しいデータソースですが、上記のような拡張的なつながりの中でデータが活きてくることをあらためて知る機会になりました。

●3.ディスカバリーリサーチの価値浸透

調査のフェーズ(プロジェクトにおける調査の実施工程)で言うと、2023年はいわゆる探索型・インサイトを重視する「ディスカバリーリサーチ」の価値がいっそう浸透しました。

2022年にリリースされたグッドパッチのインサイトリサーチサービスは、ディスカバリーのサービスとしての完成度が高く、リサーチカンファレンスでの講演や日経クロストレンドの記事を通じて広く知られています。

mybestのリブランディングプロジェクトはリサーチ活用で複数の事例記事が出ている大型の事例です。ユーザー像を整理して再度ブランドを構築するプロセスは多くの事業会社にも当てはまるので、全く新しいディスカバリーに取り組む事例よりも参考になる人が多いことでしょう。

ディスカバリーとは定義されていないものの、カレンダー共有アプリTimeTreeのプロダクトチーム編成もユーザーの課題単位でプロダクト運営を試みるあたりにこの流れを感じました。

こうしたディスカバリーフェーズ重視の流れについて、Gaudiyのプロダクトマネージャーのみやっちさんは退職エントリーで、あえてディスカバリーを含む「前工程」のプロセスを可視化する重要性について説明されています。

マネーフォワードのデザイナー・ジーラムさんも、ディスカバリーとデリバリーの特性比較を行い、デザイナーとして両方のフェーズに上手く対応するための情報をnoteにまとめられています。

※「ディスカバリーリサーチ」の基本的な概念について知りたい方は、私のニュースレターで取り上げていますので、以下の記事をご参照ください。
※読者限定記事のバックナンバーより

●4.リサーチ支援会社の合従連衡

リサーチ支援会社間の提携・合併では、2023年はリサーチ従事者にとって近年稀に見る規模の変化が起きた年でした。

最も変化が大きかったのはマーケティングリサーチ領域で、7月に業界最大手のインテージがドコモグループに参画(資本業務提携)したことはビッグニュースでした。従来型の調査会社が持つ独立性や中立性の観点から、業界の従事者からは特定の企業グループへの参画を懸念する声も多く見られました。

7月にはマーケティングリサーチ最大手のマクロミルがリサーチパネルの提供社であるモニタスを連結子会社化する発表も。国内最大規模のパネル保持者が合わさってグループのパネル総数は約3600万人に!(余談:私がマクロミルに在籍していた当時は個社単独で60万人くらいだったので、規模感の大きさがわかると思います)

またこちらは以前から連携があった、アンケートツールのクリエイティブサーベイがSansanグループに参画するニュースも6月にありました。エンタープライズ向けのサーベイツールではありますが、こちらも業界では老舗のプロダクトなので個人的には感慨深いニュースでした。

合併や提携のニュースとは異なりますが、12月にはマーケティングリサーチ会社のアスマークが東証スタンダード市場に上場しました。コロナ禍を経て特にオンラインインタビューの訴求に力を入れている会社でもあるので、パネルサービスで利用している読者もいるかもしれませんね。

デザインリサーチ領域では、グッドパッチとビザスクが1月に業務提携を発表しました。DXの推進をミッションとする共通の顧客イメージで、アドバイザリから実際の制作・開発へとつなげていく連携シナジーを感じます(グッドパッチさんはもともと提携の視野が広いなと感じています)

マーケティングリサーチ・UXリサーチのこうした展開を総合すると、マクロミルの公式noteでトランスコスモス・アナリティクス取締役フェローの萩原雅之さんがESOMA年次報告書2023年版の解説記事で考察されている流れがとても腹落ちします。

この記事は、従来型の調査サービスは低成長期を迎えており、支援会社は成長領域であるDX・データ分析・インサイトに対して、調査の業種の枠を超えて対応できるようサービス体制を整えて継続成長を目指すべし、という趣旨になっています。

●5.リサーチツールの越境機能強化

リサーチツールは事業会社のリサーチ内製化ニーズに合わせて高機能化が進められてきましたが、2023年はその中でも「越境機能」(またはワンストップソリューションに近づけるメニュー)を強化する動きが目立っていました。

インタビューツールのユニーリサーチは6月にProプランをリリースして、アンケートを使用した充実のスクリーニング機能を提供しています(※これ以前は自由回答形式によるリクルーティングでした)

アンケートツールのFastaskは9月にチャットタイプのリアルタイムインタビュー機能をリリースして、アンケートの後工程で指定モニターに追跡調査を行うサービスを始めています。

ノバセルはマーケティングツールのノビシロにて12月にインタビュー調査のマッチングサービスをリリースして、200万人のモニターから対象者を検索、即募集できるサービスを提供しています。

ツールとしてはそれぞれ定性・定量に軸足を置いていますが、アンケート・インタビューそれぞれの機能を拡張することで、定性調査主体の顧客に向けて従来型のマーケティングリサーチサービスに近づける展開や、定量調査主体の顧客に向けて簡便な定性調査ニーズを満たす展開が志向されているように感じます。

ほか、以前から一定のニーズが存在していた、ショートアンケート(またはユーザーフィードバック)機能が拡充される傾向があったと振り返っています。

●6.リサーチデータベースの構築

事業者全体を貫く面の動きとはなっていないのですが、個社で優れたサービスの開発・提供が行われていて、その事例共有や支援プロダクトのリリースがあったのがリサーチデータベースの領域です。

スマートバンクでは自社で年間多数のインタビュー調査を実施するにあたり、結果をNotionでデータベース化しています。また、NotionAIを活用してデータベース機能を充実させるプロダクト開発コミュニティPM DAOの取り組みも。

また、Wikiツールではなく専用のシステムでデータベース構築をサポートするツールとして、7月にCentouのベータ版がリリースとされました。インサイトと呼ぶ分析・示唆の単位で調査の要旨を抽出して管理・活用していくサービスです。

こうしたシステムのことを海外のトレンドではリサーチリポジトリと呼んでおり、興味のある方はニュースレターに定義をまとめていますのでご覧ください。※読者限定記事のバックナンバーより

海外ツールでは実査から報告・共有までワンストップで考える思想が主流でもあり、例えばtl;dvの機能にそれがよく現れています。

データベース・リポジトリの取り組みはリサーチ実行者の本気度が問われるところです。というのも、本当に組織がユーザーやデータ活用にオーガナイズされていないと着手・導入ができない箇所なのでリサーチ成熟度の大きな試金石になります。

●7.案件依頼・相談フローの改良

個人的に次年度に向けて最も注目している動きが、案件依頼・相談フローの改良です(以下で取り上げる事例の中に入っていないのですが、レビュー体制も含めて注目しています)

というのも、デザインや開発領域における案件管理・レビュー文化と比べると、リサーチ業務は不思議なほどにここの部分が未整備なのです。逆に捉えると、伸びしろがあります。

チャットワークでは組織内からのユーザービリティテストの依頼受付にあたりフォーム記入のハードルを下げて社内からの相談率を上げています。

Sansan UXリサーチセンターでは定例ミーティングとSlackチャンネルの2つの依頼ルートを設け、対面・オンラインの両方で案件を受け付けています。

クックパッドではデザイン部門での社内の支援会社への依頼取次にあたり、毎週金曜に5枠設けるなど、調査運用のわかりやすい目安を設けています。

テーマ的には少し地道な業務改善の領域ではありますが、このような依頼フローや問合せ方法の改善を試みる事例を見ていると、組織のリサーチの推進力であるキャパシティやケイパビリティに直結することがわかるでしょう。


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