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O2O(またはOMO)というワードを聞いてから結構な時間が経つのに、未だに「これだよ、これ!」というサービスとか仕掛けとかに出会ったことがありません。O2Oと言っても業種・業態などで意味合いが少しずつ違っていると思いますが、ここでは「リアル店舗マーケティング」文脈から何でO2Oがなかなか実現しないのか、を考えてみようと思います。

O2Oとは?

まずは、定義です。O2Oは、"Online To Offline"の略です。つまり、「オンライン(Webとかアプリとか)での購買傾向などからオフライン店舗での総客や購買へサービスや技術によりシームレスにつなげる、送客する(その逆も)」ことです。例えば、オンラインでスニーカーの広告を良く見ている人をリアル靴屋に訪れやすくすればリアル店舗でのスニーカーの購買は増えるでしょ?という意味であり、そのための仕組み(サービス、技術)のことを言います。また、OMOというワードもあり、これは"Online Merges with Offline"の略ですが、オンラインとオフラインとを区別することなく、オフライン店舗での経験や購買とオンラインでの購買体験や購買行動とをマージ(融合)する概念です。

最初の"O"

オンラインの”O”です。オンラインとはWebのECサイトやスマホアプリなどでの広告視聴や購買経験、またログイン行為など、およそインターネットを介した空間でのユーザーの購買行動全般のことです。ご存知の通り、オンラインではcookieや広告IDなどを駆使し、個人の広告視聴傾向や購買データなどが3rdパーティーデータとして世界中の第3者に販売され、リタゲの嵐です。一度SNSの広告を踏んだら直後から類似する商品の広告でブラウザやアプリが溢れ返るのはみなさんご経験の通りです。

また、オンラインのターゲッティング対象は「個人」です。オンラインではほとんどの場合個人単位でSNSやアプリを行き来し、ECサイトで購買したりしています。オンラインの広告も対象は個人です。スマホの所有もほとんどの場合は個人の所有物であって、1台をみんなで使い回すことなんてほぼありません。

もうひとつの"O"

オフラインの”O”です。「オフライン」なんて表現するとかっこいい?!かも、ですが、何のことはない、街中のリアル店舗のことです。虎屋さんなんて約500年前の室町時代からオフラインで和菓子を売っています。伝統あるお馴染みの購買空間であり、オフラインでは多くの場合、リアル人物同士が直接販売し合い、リアルな商品がその場で、直接受け渡しされます。

また、オフラインのターゲッティング対象は多くの場合個人ではなく、「集団(人々)」です。もちろん会員カードやアプリダウンロードなどで「(個人の)誰々さんが1週間前に銀座店で商品Aを購入した」などは把握できますが、例えばドラッグストアに行ったら「誰々さんいらっしゃいませ!」、「先日購入された商品Bがなくなる頃なのでいかがですか?」とリアル店舗で声がけされたら「キモっ!」ってなるわけです

同じ"O"でもオンラインとオフラインとではそもそも全然違う

ここが重要なのですが、同じ商品を買うにしてもオンラインとオフラインとでは文化がまるで違うのです。

例えばオンラインでは "ある意味"、気軽に個人情報などを渡しています。「商品を購入しなかったとしても」初めて行ったECサイトのcookieを受け入れると名前は分からないけどこの個人は商品Cに興味があるようだ、ということがECサイト側に1stパーティーデータとして保存されリタゲに利用されます(次回同じCEサイトを訪れると同じ商品Cが閲覧履歴として表示されます)。それどころかその情報は3rdパーティーデータとして第3者に販売されることもあります。リアルな人が介在しにくい分、オンラインでは情報を渡す敷居が低いのです(渡している実感さえ薄いとも言えると思います)。

また、「商品を購入しなかったとしても」メルマガの登録やらECサイトの会員になる場合には氏名や住所、電話番号と言ったガチ個人情報を入力することもあります

オフラインのリアル店舗ではどうでしょうか?ふらっと訪れたファッションブランドの店舗でいろいろ服を物色したとしても次回また訪れた時に「前回はこの服を見ていましたよね?」とオススメされることはまずないでしょう(店員さんとガッツリ話し込んだりしたら別でしょうが……)。さらに、購入してスタンプカードもらったとしても名前すら明かすこともほぼないでしょうリアル店舗では情報を渡す敷居が非常に高いのです。

オンラインをそのままオフラインに持ち込むとどうなってしまうか?

文化がまるで違うオンラインとオフラインですが、ご存知の通りインターネット上のオンラインのほうが広告にしろ購買にしろ急激に自動化が進みましたネット広告のシェアは2022年時点で日本の広告費全体の約43.5%にも及ぶとされています

逆にオフラインのリアル店舗の方に目を向けると……今でもリアルスタンプを押してもらって10個貯まると500円引き……なんて普通にあります。みなさんのお財布の中にも2, 3枚のスタンプカード入っているはずです。先日ある有名なアパレルブランドの店舗マーケティング関連の方にお話を聞いたところ「キャンペーンの度にポスターを印刷して各店舗に発送するだけでも骨が折れる(実際に課題がある)」とおっしゃっていました。オフラインがオンラインに比べ、(相対的に)"遅れている"のにはいくつか理由があると思いますが、そのひとつにはオフラインのリアル店舗は実際に人が見える形で動いていて店舗毎にノルマがあり、競争があり、叱咤激励もリアルにあり、目先の売上が気になって店長さんとかが数字やグラフを見ながら店舗毎の施策を考えて実行する……余裕がない、という事もあると思います。実際にある有名な飲食のチェーン店の代表の方にオキシゼンのサービスを紹介したところ、「数字でいろいろな情報を毎日把握できるのは素晴らしいんだけど…….で、プッシュメッセージって打てるんだっけ?目先の売上が第一(まあ、それは当然なのですが))」と言われてしまいました(導入までには至りませんでした)。

このようにオンラインとオフラインとでは文化の違いと自動化についての高低差が生じているのが現状ですので、当然ながら水は高いところから低いところに流れる、いや、流したくなるわけです

最近、「リアル店舗へ入り込むのは難しい」というお話を広告やマーケティング界隈の方々から立て続けに耳にしました。よくよく聞いてみるとどうやらオンラインの購買や広告文化をそのままオフラインのリアル店舗へ持って行こうとしている様子でした。もちろんプロの方々ですので入念な検討や準備をした上で実施されているのだと思いますが、ついついオンラインでのここ20年くらいの成功体験のバイアスが掛かってしまい、「オフラインでも同じだろう(と思った)」という雰囲気が漂っていました。

例えば「オンラインであれだけ個人に対してリタゲしてデータまで売ってるんだからオフラインでも似たようなことしてもいいっしょ?」というのがあります。しかしながら、オフラインで同意なしに個人が見え始めると途端にキモくなってしまいます

オフラインではあくまでも集団(人々、社会)に対しての訴求を丁寧に行うことが大切であり、それはオンラインのリアル店舗や実社会の購買環境や広告環境を、心地よいものにすることに繋がると信じています

では、どうすればO2O(OMO)が加速できるのか?

「オフラインのリアル店舗をオンライン側が理解する(または、その逆)」これに尽きるんじゃないかと思います。実際、オンライン側でECサイト運営やSEO対策などをやってきた人でオフラインのリアル店舗運営も経験ある方ってあまり聞いたことがありませんし、その逆も然りです。O2Oというのは決して「オンラインの購買文化をオフラインに拡げる」ことではなく、「オンラインの購買文化とオフラインの購買文化とが巧いこと出会う(融合する)」ことだと思います。イメージ的には今は、(どっちがオンライン、と言う意味ではなくて)ピューリタンが新世界、アメリカに移住した時にネイティブ・アメリンと出会い鋭く対立したような、そんな感じでしょうか……お互いの文化を押し付け合っているだけでは出会うことも融合することも容易ではないと思うのです。

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