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第2回 実践者の時代、管理者は去れ!

 厳しい時代となりました。じっとしていも自分を取り巻く環境が好転することのない時代です。緊急事態宣言により、私たちは外出自粛をせざる得なくなり、仕事においても在宅勤務となりリモートワークが推奨されるようになりました。すると、今まで当たり前に出来ていたことが、当たり前に出来ない状況が生まれてきました。コミュニケーションも対面からリモートに変わり、紙の書類から電子書類に変わりました。そして、何よりも大きく変わったのは、仕事の進め方です。「これから生き残る人、取り残される人」として連載を開始しましたが、今回は、実践者と管理者についてお話します。

在宅勤務で不必要な人材がはっきりした

 日本は明治の近代化以降、労働集約型の仕事で成長していきました。労働集約型の仕事とは、今、私たちが当たり前に会社に出勤していることです。朝、電車に乗って、会社に社員が集まり、集まった社員に指示、命令、相談、評価をしていく仕事の仕方、全ては一箇所に人々を集めて何かを生み出していく仕事の仕方が労働集約型の仕事です。労働集約型の仕事では、管理者の存在が重要になります。集まった人々に指示を与え、調整し、仕事の内容を評価する、いわゆるマネージメントです。同時に、労働集約型の仕事では、部下は、管理者の指示を待ち、状況を報告、相談し、そして評価をしてもらう仕事に自然となってきます。

 しかし、在宅勤務となり、人々が集まらなくなった今、仕事は個々人が、自己マネージメントをすることが必要になってきました。仕事をいつ始め、いつ終えるのか、どのような段取りで、何を成果としていくのかなどを自分でコントロールすることが増えてきます。もちろん、今までの仕事の仕方をそのままリモートで実施することは可能ですが、一箇所に集まり同じ空間で仕事しているようにはいきませんし、効率は圧倒的に悪くなります。
 すると、今まで当たり前であった管理者の存在が急速に薄れてきてしまいます。今、在宅勤務を進める中、一番、仕事が無くなっているのは、管理職なのです。そして、多くの中間管理職は、自らは実務をせずに、部下を監視・評価することが主な仕事ですから、個々人に裁量と責任が委ねられていくわけですから、当然の状況です。今だけではなく、これから益々テクノロジーが進化していく時代には、労働集約型の仕事からリモートを前提として分散型の仕事の仕方に移っていきます。その時に、必要なくなる人材は、「管理者」であることは、今、現実にはっきりとしてきました。

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管理者は何も生まない

 日本では、管理者層を「中間管理職」と呼びます。中間管理職の役割は、経営層からの指示を部下に伝え、部下の仕事を管理し、部下の仕事を取り纏めて経営層に報告し、一定期間内の部下の仕事を評価するというのが主な仕事です。ですから、中間管理職は実務を持たないのが当たり前とされていました。最近では、プレイングマネージャーと呼び、自ら実務を持つ傾向がでてきてはいますが、実務を持たない中間管理職の方が、日本では圧倒的に多いのではないかと思います。

 管理者は何も生みません。製品を作っている会社では、製品は、企画、設計、調達・製造、検査を経て生まれます。そして、営業、配送・アフターサポートにより顧客に安心・安全に製品が提供されます。商品・サービスを提供している会社では、出店・仕入・販売・サービスといった行為により消費者に商品・サービスを提供しています。一つ一つの仕事は、実務であり、製造会社、販売会社ともに、実務者たちが何かを生み出しています。
 しかし、管理者はどうでしょう。管理者は、実務者の管理をすることが主な仕事で何も生みだしていません。もちろんスムーズに進めるためには必要なことですが、今までの労働集約型の仕事において集合した人を監督する管理では必要でしたが、これからのITを活用した分散型の仕事においては必要なくなってきているのです。

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管理者は調整しかしていない

 日本の中間管理職の多くは夜遅くまで働いています。忙しい理由を聞くと「経営層の指示伝達」「経営層への報告」「部下への監督」「他部門との調整」などが挙げられます。これらに共通するのは「調整」です。それでは、なぜ調整が発生してしまうのでしょうか。それは、時代の変化に対応できなくなった古い仕事の仕方を、管理職が俗人的に補っているからです。もし、頻繁に仕事の仕方を変えることができたならば、劇的に管理職の仕事は減るでしょう。
 しかし、現実には頻繁に仕事の仕方を変えていたならば、人は覚えることが増えて回らなくなってしまう問題も発生します。今までは、確かにそうでしたが、現在は、ITの活用によって、その問題はクリアになりつつあります。経営層の指示・報告は伝言ゲームのように人を介して末端に伝えていましたが、今はダイレクトに文字、音声、映像でタイムリーに伝えることができます。部下の監督、他部門との調整についても、ITを活用しマネージメントプロセスをまわしていくことができます。ここで気をつけなくてはいけないのは、環境にあわせてプロセス設定を頻繁に実施することが必要となることです。柔軟にプロセスを設定すれば、そのプロセス通りに抜け漏れなく仕事を進め、俗人的なマネージメントよりも精度はたかくなるでしょう。
 これからは、現在管理者が担っている調整業務を無くし、ITを活用して情報伝達の在り方を変え、時代の変化に合わせてプロセスを改善し続けることが必要な時代となっていきます。同時に、調整屋としての管理者の仕事は極力無くしていくべきだと思います。

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実践者の時代、幅の広い経験を

 現在のリモートワークを経験し、多くの人は今までの仕事の仕方に課題を感じ、変えていかなくてはいけないと感じているかと思います。そして、今までお話をしてまいりましたように、これからは管理者は不必要な時代になり、ITを活用しプロセスを改革・改善し続けることができる実践者が必要な時代になります。といって、IT技術者になるべきだと言っている訳ではありません。ITはあくまで手段であって、ITが何かを生み出すわけでは無いからです。むしろ、実際に実務に携わり、現場の変化を敏感に感じ、仕事を改革・改善するプロセスを見つけ出すことこそが大事です。
 そのときに、携わる実務は単一であるよりも、複数である方がより幅の広いプロセスを生み出すことができます。例えば営業部門だけの実務経験しかない人には、営業部門のプロセスしか生み出すことができません。しかし、仮に製造部門、人事部門の実務経験もある人ならば、営業、製造にわたるプロセスであったり、人事採用・評価まで含めた幅広い視点でプロセスを生み出すことができます。私は、多くの実務経験を持つ人を実践者と呼んできます。実務者というと会社から与えられた仕事を真面目にこなすという受動的なイメージに感じ、実践者というと自らの意思で多くの実務を自ら体験するという能動的なイメージに感じるからです

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 これから厳しいで時代となります。その厳しい時代には、多くの実践者が必要になります。自らの意思で多くの実務を自ら体験する実践者が多く出現することにより、社会、企業の改革は推進され、この厳しい時代を生き残っていくことができます。「実践者の時代、管理者は去れ」と話を進めてきましたが、これからは単なる実務者は実践者を目指し、管理者は実践者に転身していくことが求められています

(つづく)

【連載】「これから生き残る人、取り残される人」(予定)
 第1回 コロナが時代を加速させる
 第2回 実践者の時代、管理者は去れ
 第3回 異質を恐れるな、同質化を恐れろ
 第4回 会社の看板を捨て、個人で勝負しろ
 第5回 失敗を恐れるな、挑戦こそロマンだ

 ★過去のこの著者の連載
 【緊急連載】完全リモートワーク経営術
 【連載】デジタルシフト成功への道
鈴木 康弘(Yasuhiro Suzuki)
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業企画に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長就任。2006年セブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS.執行役員CIO就任。 グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、日本オムニチャネル協会会長も兼任。
著書: 「アマゾンエフェクト! ―「究極の顧客戦略」に日本企業はどう立ち向かうか」 (プレジデント社) 

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