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マジックアワー ~ with Romantic Seoul

芸術家なのに「韓流(音楽)が好き」などと言ったら、きっと笑われてしまうに違いない。でもこれは事実、私はK-Popが大好きだ。

一日の中で一番好きなのは、日暮れの瞬間だ。マジックアワーとも呼ばれ、そのタイミングでカフェの壁沿いの席に座ってコーヒーを飲むのが昔から大好きだった。
あっと言う間に過ぎ去って行く、めくるめく赤と蒼のコントラストに毎回血が騒ぐ。この数日間似たような感覚が強いめまいを呼び覚ます。どこか懐かしく、30代の私が心の中に蘇る。

冗談みたいに仕事が売れて毎日バリバリ働いていた頃の当時の私は、怖いもの知らずだった。複数のジャンルの仕事を掛け持ちしながら常に、右肩上がりの業績と人生を固く信じてやまなかった、そんなあの頃と今日の私の感覚はほぼ同じだ。心に触れる何もかもが、眩しい。

きっと私の脳も感性も時を逆行しているに違いない。街で出会う人たちは誰も私の実年齢を言い当てられない。年甲斐もなく、体型だってふくよかなのに私はジーンズとスニーカーが好きで、還暦までのカウントダウンが始まった今でもそのスタイルを何一つ変えていない。

お嬢様はひらひらのスカートかドレスを着るものと相場が決まっていたのも、もう昔の話。現代のお嬢様は自分をそう見せ掛けぬよう、ありとあらゆる工夫を凝らす。それが今流、わたし流だ。

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結局韓国に一度も行けぬうちに世界中を、ウィルス・パンデミックが包囲した。空の密室を移動しようものなら明日命が繋がるかどうかなんて分からない、そんな時代に突入した。

一年前のクリスマスと今年の今と、人類の何もかもが変わってしまった。そんな最中でも音楽や詩が生まれ、絵を描く人もいるし哲学について考えることを止めない人もいる。
けっして自堕落で快楽主義者ばかりではない人類も、宇宙や自然神らから見ればきっと同一の虫のように見えるのかもしれない。列をなして歩く蟻の行列が自然を食い荒らしているような、さながら今の人類は自然神から見たらそういう悪しき存在に違いない。

ならば誰かが退治せねばと、聡明な自然神は徹底的に英断を下すその手を緩めない。一人二人、三人‥ 百人千人‥ 一万人、そして数十万人のこの世には不要な生命体を選び出しては大義名分を付けて別の世界に移動させて行く。生き残った人類の中でも争いは止まず、結局人類は生きていても死んでも攻撃することを止めることが出来ないのかもしれない。

せめて地球と言う環境に対する攻撃の手から地球を守り抜く為に、自然神は御心とは真逆の決断を日々下し続ける。毎日が最後の審判のようだ。


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マジックアワーのカフェの中で読書をするのが大好きで、直感で「今日は大丈夫かも‥」と思った日だけは思い切って夕暮れの街に繰り出して行く。でも殆どのカフェも飲食店も今は臨戦態勢に入っており、利用者の大半がまるでスパイ活動でもしているように目つきが悪く黒光りした眼差しを世界に向けて行く。

アレルギー反応が出てもくしゃみすら出来ない窮屈な店内、それでも私は異国の冬を想い書籍を捲る。

そう言えばトスカーナで生き別れになったままの弟は、今頃どうしているだろうか‥。
勿論過去世で私が先に逝った後に当時の弟も後を追って虹の橋を渡ったが、神様の粋な計らいで私たちはようやくインターネットの中で再会を果たすことが出来た。だがそこから一歩も互いに前に進むことが出来ないまま、私だけが世界の真ん中にぽっかり空いた空席の王座に向けて猛進し続けていた。

同じ魂が剥がれて分化したり、或いは近しい魂が同じ道を模索する時、高次の存在はその中の一個の魂だけが生き残ることを知っていると言う。
現世の価値観で言うところの出世を私が遂げているかどうかは未だ定かではないが、私を取り囲む多くの同士や魂が彼等の目指す道から一人又一人‥ と脱落して行くのを、私も又間近に見て来た。


この世界に何を遺せるか‥。
常にそれだけを私は見て生きている。最早こうなって来ると前進しているとは言い難く、未来の結果をカンニングしてそこから逆算して計算式を作成しているような人生を私は歩んでいるのかもしれない。

そうなれば全てが正解であり、ミステイクが起きた時には必ず神や高次の存在からの軌道修正の手が入る。きっと今がその時なのだろう。


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現世に生まれ変わった過去世の弟は、今プラハにいる。プラハも丁度今は冬、今日は冷たい雨が降っているようだ。夜になればきっと雪が降り、私たちは夢の中のクリスマスツリーの下で一瞬だけ再会を果たせるかもしれない。
もしもそこで会えたなら弟に、人生を立て直すタイミングが今しかないことを彼に伝えたい‥。


さっきからひっきりなしにLINEの着信音が鳴り響いている。それが誰からの連絡なのかを知っていながら、私は応えない。
今私はそのどこでもない「Romantic Seoul」の中にいる。闇と音楽は実在しない都市を生み出し、私に束の間の夢を見せてくれる。もう少しだけその夢の中に沈んでいたい。

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