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『エチカ』第四部定理五に寄せて

詩誌「潮流詩派」193号掲載作品

『エチカ』第四部定理五
私たちの感情Passioの力が増大すること
その感情があくまで自らに固執すること
それは私たち自身の力によってではなく
むしろ私たちの外にある何かの力よって決定される


その何かが他者だ

アジアの大地を旅するカップルがいた
一人旅の途中で男は女に出逢った
女の意識は遠い彼方のいつの日か
すでに「途切れ」ていて
家族は女を二度と帰れない旅に出した

女は沈黙の狭間で
男に切れ切れの声を贈り与えた
女の声の流れが不意に途絶え
眼差しが沈黙とともに崩れ始める
女はそっと眼を閉じる

絶えず変容し移動していく旅の時空
紺碧の波間を切り裂く船のデッキ
真夏の日差しが容赦なく照りつける
赤茶けた砂漠の海原


二人にとって
それはすべて生まれでる広場だった 
すぐそこに
すべて生まれでる他者の…

以上の作品のオリジナルは90年代半ば頃に書かれた散文草稿『ゼロ-アルファ』のごく一断片である。本作品はその草稿を詩作品に変換したものである。

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